105話 宴会

「ライル様のご再訪を祝して! 乾杯ッ!!」


「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」


 夜。

 俺は村の宴会に参加していた。

 テーブルの上には肉料理の数々が並んでいる。

 ミドル・ボアのステーキ、ホーンラビットの丸焼き、ファルコンバードの串焼き……。

 どれも非常に美味そうではある。

 だが、それだけではない。


「お待ちしておりましたライル殿」


「ああ。待たせたな」


 俺は村長から声をかけられた。


「どうですかな?」


「実にうまいな」


「それは良かった」


「特にこの酒が気に入った。香りがよく、口当たりもいい」


 俺はジョッキを傾ける。

 中に入っているのはワインのような液体だ。

 だが、独特の爽やかな風味がして、すっきりとした飲み心地である。

 アルコール度数も高いが、全然飲める。

 むしろいくらでもいけそうだ。


「そいつはうちで作ってる『ザ・レッド』です。サテラが考案しましてね。まだ生産量はわずかですが、将来的には村の名産品にどうかと」


「へぇ……。良い仕事してるじゃないか。町の酒と比べても、十分に通じると思うぞ」


 まぁ、ここは山村なので輸送費の分は余計にかかるがな。

 この味なら、それを差し引いても勝負できるだろう。

 サテラというのが誰なのかは知らないが、こんな僻地の村にも才を持った者がいるんだな。


「恐れ入ります」


 村長は嬉しそうにする。


「ところで……、ライル殿はこの村に何を? まさかとは思いますが、私どもが困っていることを察知されて……?」


「さすがの俺でも、そこまでの察知能力はないな」


 俺は苦笑する。

 この村からストレアの町までは、相当に離れている。

 S級スキル竜化を持つ俺なので気軽に来れるが、常人が徒歩で移動するならば数か月単位で必要だろう。


 俺が聴覚や魔力感知能力で察知できるのは、せいぜい1キロ以内。

 感覚を研ぎ澄ませていたとして、最大でも5キロ以内ぐらいだ。

 まぁ、今の俺なら、の話だけどな。


「俺が来たのは、俺の女の様子を伺いに来ただけだ」


「ライル殿の女……、ですと? ……ハッ!」


 一瞬首をひねるが、すぐにピンと来たようだ。


「サテラのことでございますね? 彼女も、ライル殿のことを片時も忘れてはおりませんでした。次にあなたにお会いしたときに少しでも恩を返せるようにと、魔物狩りや酒造り、それに子育てと日々励んでおりまして……。ええ、本当に立派になって……。きっとライル殿の薫陶があったからこそでしょう……」


「そ、そうなのか……」


 思わず言葉を失う俺であった。

 かつて俺が抱いてやったあの少女――先ほどギガント・ボアから助けてやった少女の名前がサテラだったとは。

 当時は大した興味を持っていなかったから、名前すら忘れていたぜ。

 しかし、俺のために頑張ってくれていたというのであれば嬉しいものだ。

 俺がそんなことを考えているとき――


「ライル様。私をお呼びでしょうか?」


 背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきたのだった。

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