75話 実験

 キーネの元仲間たちと遊んでいる。

 まずは、気絶していた男に奴隷の首輪をはめて奴隷契約を結んでやった。

 通常では、受け手側の同意がなければ奴隷契約を結ぶことはできない。

 だが、S級スキル【竜化】を持つ俺なら、そのあたりの制約を無視して強引に事を進められるというわけだ。


「ふむ。思っていたよりも抵抗が少なかったな。やはり、気絶させていたのが功を奏したか」


 意思を無視して奴隷契約を結ぶ――つまり、その者の魂の尊厳を踏みにじる行為だ。

 特に、俺が結んだのは制限無しの奴隷契約だからな。

 主人が命令すれば、なんでもさせることができるのだ。

 それこそ、死ねと命じてその通りにさせることも可能になる。


(この奴隷契約を結ばせる際の抵抗は、本能的に死に抗うレベルの抵抗だと予想していたが……)


 この予想は概ね間違っていないはずだ。

 ブリケード王国王城の図書室で読んだ文献にも、そのようなことが書かれてあった。

 しかし、やはり百聞は一見にしかずというやつか。

 S級スキル【竜化】を持つ俺なら、過去の例など関係ないというわけだ。


「せっかくだし、続けて検証をしてみたいな。意識がはっきりしている奴に奴隷の首輪をはめたらどうなるか……」


 俺は残る3人を見る。

 1人はリーダー格の男で、残り2人は女だ。


「ひっ!?」


「おい、逃げんじゃねぇよ」


 逃げる女の襟首を掴んで引き寄せた。


「きゃあっ!?」


 女が地面に倒れる。

 まったく……手間をかけさせてくれる。


「ごほっ、げほぉっ!」


 倒れた衝撃で肺の空気が押し出され、咳き込む女。

 そこに、容赦なく奴隷の首輪を押しつけた。

 とりあえず様子見で、込める魔力量はミジンコレベルにまで落としている。


「えっ? ひゃあああぁぁぁっ!!?」


 奴隷契約を結んだ瞬間、女の身体がビクンと跳ね上がる。

 続いて全身が激しく痙攣し始めた。


「いや、やめ、いや、いやいやいやいや……」


 涙を流しながら地面を転がる。

 まるで芋虫のように、地面を這って逃げようとする。


「これは面白い。やはり意識がはっきりしていれば、本能的な抵抗も強くなるか。いや、魔力量を抑えた影響の方が大きいのか?」


 俺は思わず独り言を呟く。

 確か、対照実験というやつだな。

 条件を変えた実験をして結果を比較したい場合は、その他の条件は同じにしなければならない。


 今回の場合、『意識の有無』と『込める魔力量』の2つの条件を変えてしまったのだ。

 これでは、厳密な意味での比較はできない。


「この女を使った実験は失敗だな。切り替えて、次にいこう」


 失敗なんてよくあること。

 人間、切り替えが大切だ。


「いや、いやぁ……」


 女は、みっともなく泣き叫び続けている。


「うるさいぞ。黙ってろ」


「あっ……」


 俺は奴隷の首輪に向けていた魔力量を増やす。

 すると、途端にピタリと大人しくなった。

 そのままゴロリと横になって動かなくなる。


「…………」


 死んだわけではないだろう。

 俺が魔力量を増やしたことにより奴隷契約が結ばれ、さらには俺の『黙ってろ』という命令をさっそく遵守しているのだ。


「さあ、次だ」


 俺は次の実験に向けて、微笑みながら残りの男女に視線を向けたのだった。

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