白雪姫への告白

「んん、んちゅ……」


 温泉から上がった隆史は、最愛の人である姫乃にキスをした。


 これから告白するため、少しでも理性を抑えておきたいからだ。


 理性と恥ずかしさでヘタレになってしまい、下手をしたら告白出来ない。


 だから浴衣姿の姫乃にキスをし、理性というブレーキを飛ばす。


「あ……いつもより激しい……んちゅ……」


 姫乃も理性が外れてくれるのを望んでいるようなので、今までにないキスを沢山していく。


「タカくん、いい調子、です」


 息継ぎのためにキスを止めると、蕩けたような表情の姫乃が胸に顔を埋めてきた。


 グリグリ、と頬を押し付けてくるのは、もっと理性を無くさせたいからだろう。


 少し前なら恥ずかし過ぎて何も出来なかったが、今日は告白するからそんなこと言ってられない。


 絶対に本当の恋人同士になるのだから。


 少なくともお互いが望んでいることだ。


 それに今日は麻里佳やひなたといった邪魔者はいないため、告白するにはもってこいの日になる。


 旅行最終日に告白も考えたが、恐らく姫乃はそこまで待てない。


 待てるのであれば、先程の露天風呂のように積極的になったりしないだろう。


 今日告白しなかったら、間違いなく姫乃から告白してくる。


 それも初めてを捧げようとして。


「姫乃……話すようになってからまだ一ヶ月と少しだけど、本当に色々あったよね」

「はい。私にはもったいないくらいの濃厚な時間でした」


 屋上でお互いに泣きながら話したのを昨日のように思い出す。


 隆史は初恋の幼馴染みにフラれ、姫乃は女子たちに虐められてお互いに傷ついた状態だった。


 心の傷を慰めるために胸を貸し借りし、どんどんと仲良くなっていったのだ。


 その内に隆史はフラれた傷は癒えて姫乃を好きになり、姫乃も傷は癒えてきて隆史を好きになった。


 二人きりの時間も増え、姫乃の母親は未婚だということを知るが、隆史にとってはどうでもいいこと。


 今では姫乃を幸せにさせたいとしか考えていない。


「俺もだよ。姫乃と一緒にいる時間は何よりも代え難い」


 最初は慰め合うだけの関係だったものの、そのことがきっかけで好きになった。


 他の人が入り込んでほしくないくらいに。


「期間は短いけど濃厚過ぎる時間を過ごしたせいで俺は……」


 好きだ……という言葉が中々出てこない。


 理性は飛ばしたはずだが、やはり恥ずかしさが邪魔をしてしまう。


 たった三文字を言うだけなのに、本当に言うことが出来ない。


 麻里佳に告白した時はもう少しすんなり言えたのだが、姫乃の告白はその時とは訳が違う。


「頑張って、ください」


 頬を赤くした姫乃に応援された。


 告白するのに相手の女の子に応援されるのは何とも情けないが、それでも先程よりは少しだけマシになる。


「ありがとう」


 スーハー、も深呼吸して気持ちを整えた隆史は、これから告白するためにゆっくりと口を開ける。


「麻里佳にフラれて一ヶ月もたってないのに、俺は姫乃と一緒にいて……好きになってしまった」


 ようやく好きだと言えた。


 答えは分かりきっているはずなのに、告白したら心臓が大きく激しく動き出す。


「周りからはバカップルと言われているけど……俺と本当の恋人に、なってほしい」


 今までにないくらいに身体が熱くなっているが、告白することは出来た。


「待って、ましたよ……その言葉を……」


 青い瞳からは涙が溢れ出す。


 以前告白しようとしてきた姫乃からしたら、ようやく言ってくれた、と思っているだろう。


 でも、露天風呂で理性を飛ばそうとしてきた姫乃は、告白されると信じていたからこそ、あの後自分から告白することはなかったようだ。


「以前の私は……お母さんしか信じられませんでした」


 何故か告白の返事ではなく、姫乃は自分のことを話し始めた。


 いや、これからする話は彼女にとって大切なのだろう。


「家族のはずなのに父からも妹からも嫌われているんです。人を信じることなんて中々出来ません」


 確かに父は一親等で完全に親、妹も半分しか血が繋がっていないとはいえ家族であるのには変わりないので、その家族から嫌われたら信用出来なくなるだろう。


 隆史にとっては経験がないから分からないが、身内から見放されるのは辛いことなはずだ。


「そんな中、女子たちに虐められて悲しんでいる時にタカくんが現れました」


 完全に偶然ではあるものの、その偶然が隆史たちにとっては運命の出合いでもあった。


「悲しい気持ちとタカくんも辛いはずなのに優しく接してくれたから人肌恋しくなったのでしょうね。思わずタカくんの胸を借りちゃいました」

「そっか」


 優しく姫乃の頭を撫でる。


「タカくんの人肌を感じると安心してしまい、お風呂ですら感じてたいと思うほどに……」


 お礼と言って背中を流してくれたのは、安心する人肌を感じていたい気持ちもあったらしい。


 完全にお礼とばかり思っていたため、この事実には驚きだ。


「そして一緒にいる内に……私もタカくんのことを、好きになってしまいました」


 耳まで真っ赤にした姫乃の好きという言葉に、隆史の心臓はさらに鼓動を早くする。


 好きな人に好きだと言われたのだし、嬉しすぎて心臓が爆発寸前だ。


「だから……告白の返事はもちろんOKです。ちゅ……」


 正式な恋人同士になってから初めてのキスをした。


 熱くて柔らかな唇を感じながら、隆史は絶対に姫乃を幸せにすると誓った

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る