白雪姫とおやすみのちゅー

「そろそろ寝ようか」


 もうすぐ日付が変わろうとする時間になり、隆史は手を繋いで姫乃をベッドに行くように促す。


 明日は学校があるため、そもそも寝た方がいい。


「はい」


 頷いた姫乃と一緒にベッドに入って横になって見つめ合う。


 何度か一緒に寝ているから少しは慣れてきたものの、まだ恥ずかしさはある。


 それは姫乃も同じらしく、恥ずかしさからか頬が赤い。


「タカくんと一緒に寝るのが、癖になっちゃいそうです」


 手を繋いでない方の左手が隆史の胸に添えられた。


 恐らくドクドク、と心臓が激しく動いているのが伝わっているだろう。


 あんなこと言われたら胸がキュンとなる。


「癖になれば、いいよ」


 恥ずかしさはあるものの、隆史はそう言って姫乃の左手に自分の手を重ねた。


 癖になってくれれば離れられることはないのだし、是非とも癖になってほしい。


 こちらとしては絶対に離す気はないのだから。


「そんなこと言われると勘違いしそうになりますよ」

「え?」

「い、いえ、何でもありません」


 本当に小声だったからほとんど聞こえなかったが、少しながら検討はついた。


 予想でしかないが、恐らく姫乃は隆史がまだ麻里佳を好きなのだと勘違いしているのだろう。


 だから惚れられていると勘違いすると言ったはずだ。


 自分で言うのもなんだが、「気付け……」と微かに聞こえるくらいの小さい声で口にした。


 面と向かって告白するのは恥ずかし過ぎるため、今はこれが出来る精一杯だ。


 でも、テストが終わったら絶対に告白すると決めている。


 いつまでも慰め合うだけの関係でいるわけにはいかないのだから。


 ただ、こちらはもう慰めてもらっていないのだが。


「タカくん」


 ぎゅー、と言わんばかりの勢いで抱きしめられた。


 男性物のワイシャツを着ている姫乃の柔らかい感触と甘い香りは、本当に頭がクラクラするくらいに理性を削っていく。


 美少女に抱きしめられて理性が削られない男は不能としか言いようがない。


 好きな人相手なら尚更だ。


 流石に狼化させたいために抱きついているわけではないだろう。


 付き合ってからなら分からないが。


「もう、タカくんに抱きしめてもらえないと寝れないかもしれません。一緒にいないと不安で……」


 妹であるひなたに色々言われているのだし、一人だと不安なのだろう。


 より一層抱きしめる力が強くなった。


「なら、一緒にいればいいよ」


 不安そうにしている姫乃の背中に腕を回す。


 好きな人の不安を少しでも解消させてあげたい。


「Действительно неправильно понять」

「ロシア語で言われると分からないんだけど」


 本当にロシア語かすら分からないが、恐らくはロシア語だろう。


「き、気にしないでください」


 恥ずかし過ぎるのか、姫乃は胸に顔を埋めさせてきた。


 ロシア語については全く分からないが、この反応からすると先程日本語でボソっと小声で呟いた『本当に勘違いしそうになります』と同じような意味だろう。


 こちらは英語で言われるのですら理解に苦しむ身だというのに、ロシア語を使われると非常に困る。


 ただ、先程ロシア語で呟いた姫乃の言葉はほぼ当たっているだろう。


 あくまでカンだが。


 そういえばロシア語でデレるヒロインのラノベがバズってたな、と思いつつ、胸に顔を埋めている姫乃の頭を撫でる。


「タカくんに頭を撫でられるの好き、です」


 もっと撫でてほしいかのような言葉だった。


 髪は母親譲りで好きっぽいので、本当に信頼している人にじゃないと撫でられたいと思わないだろう。


「もう本当に寝ようか」


 寝不足は健康にも良くないし、女の子からしたら美容の天敵となる。


「はい。でも、寝る前にその……キスを、お願いします」


 胸からヒョコっと顔を出してきた姫乃のまぶたが閉じられる。


「んん……」


 好きな人が望んでいるキスをしないはずがなく、すぐさま自分の唇で姫乃の唇を塞ぐ。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 おやすみのちゅーをして寝た。

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