メイド喫茶に行ったら年下美少女と知り合った

 学校が終わってから姫乃を家に送り届けた隆史は、駅前にあるメイド喫茶に向かっていた。


 ここ最近毎日姫乃と一緒にいて理性と羞恥が限界になりそうだったため、一人で行くことにしたのだ。


 決して姫乃と一緒にいるのが嫌なわけではなく、一人でメイド喫茶に行って頭を冷やそうと思っただけ。


 ずっと一緒にいると惚れられてると勘違いしそうになるのだから。


「あの子は……?」


 メイド喫茶の前には学生服を着た一人の少女が立っていた。


 基本的に男性客が多いが、たまに女性客も来るらしい。


 胸元まであるサラサラな黒髪、うす茶色い大きな瞳、透けるような乳白色の肌は、メイド喫茶で働いたら人気が出そうな容姿だ。


「春日井と同じ制服」


 以前に美希から「画面越しなら私の可愛さに見惚れてもいいですよ」と進学した高校の制服の写真が送られてきて、その時見たのと同じ制服だった。


 クリーム色のセーラー服は、いかにも私立の名門校と思わせる。


 何故かニーソックスだが。


 それに同じ美少女であることには間違いないが、そこまで見た目は似ていない姫乃と雰囲気がどことなく似ている。


「ここが美希ちゃんがバイトしているメイド喫茶と呼ばれるとこ……いかがわしいわけじゃないよね?」


 どうやら彼女は美希と面識があるようで、場所を聞いたから来たようだ。


 露出の多いメイド服を着た美少女が印刷された紙が貼っているのだし、いかがわしいと思っても仕方ないのかもしれない。


「あ、そこのお兄さん。メイド喫茶っていかがわしい場所ではないですよね?」


 うす茶色い瞳がこちらに向けられた。


「え? 俺?」

「他に誰がいるんですか?」


 自分に指を向けた隆史の言葉に、彼女は呆れたようにため息をついた。


 確かに辺りを見回しても他に人はいない。


「それでこのお店はいかがわしい場所ではないですよね?」

「違うかな。てか、さっき言ってた美希って春日井美希?」


 美希という名前は珍しくないが、同じメイド喫茶で働いてるとなると隆史も知っているあざとい後輩の美希だろう。


「そうです。美希ちゃんと知り合いなんですね。なら一緒に入って貰えませんか?」


 一人でメイド喫茶に入るのは不安なようだが、隆史の制服の袖を掴んできたから美希同様にあざとさがあるかもしれない。


「まあ入る気だからいいけど……」


 一緒に入って席は別々にしてもらえばいいだだろう。


「あ、私は雪下ゆきしたひなたで高校一年生です。お兄さんは?」

「俺は高橋隆史で高校二年だけど……」

「じゃあ、行きましょう」


 美希の知り合いであるひなたに腕を引っ張られてお店の中に入った。


「ご主人様、お嬢様、おかえりなさ……先輩は女の子を取っ替え引っ替えしてるんですか?」


 満面の笑みの美希に出迎えてられた次の瞬間に白い目を向けられた。


 美希がいることは予想していたが、客の前では笑顔でいなければダメだろう。


「え? お兄さんって見た目によらずチャラい人なのですか?」


 今の状況を見たら確かに女の子を取っ替え引っ替えしてると思われても仕方ないかもしれないが、少なくともチャラくはない。


 だって今は姫乃一筋なのだから。


 なので白い目を向けながら離れないでほしい。


「あ、美希ちゃん、遊びに来たよ」

「ひなたちゃん、本当に来たんだね」

「うん。美希ちゃんみたいな可愛い女の子がこんな服来てて大丈夫? スカートの中見られたりしない?」

「大丈夫だよ。変な人が来たら店長が追い払うみたいだから」


 友達が来て嬉しくなったのか、美希はひなたに笑顔を向ける。


「ひなたちゃんって先輩と知り合いなの?」

「今そこで知り合ったよ」

「先輩にナンパする甲斐性があったんですね。凄く驚きました。でもナンパした女の子をメイド喫茶に連れてくるなんてどうかと思いますよ」

「ナンパなんてしないから」


 生まれてこのかたナンパなんてしたことないし、これから先もしたいと思っていない。


 相変わらず隆史に対してだけは辛辣な態度を取る美希がここにいるのだし、今度から違うメイド喫茶に行った方がいいだろう。


 他のメイド喫茶になると電車に乗らないといけないが、美希がいるここよりマシかもしれない。


 それか今後メイド喫茶に行くのは諦めて、姫乃と一緒にいる選択肢もある。


「一つ気になったんだけど、美希ちゃんが言った取っ替え引っ替えしているというのは?」

「この前先輩は銀髪美少女と一緒に来たんだよ」

「銀髪美少女……へぇ」


 笑顔の奥底に今までにないような冷たさを感じた。


 姫乃と雰囲気が似ているというのは取り消した方がいいかもしれない。


 中身も笑顔の姫乃と違い、ひなたの笑みは完全に上面だけだ。


 仲良くなりすぎるのは危険、というのを本能的に感じた。


 恐らくは楽しいことに首を突っ込んで色々と引っ掻き回すタイプなのだろう。


「お兄さん、一緒の席に座りましょう」

「一緒に?」

「はい。せっかく知り合ったんですから仲良くしましょうよ」


 ひなたに腕を引っ張られて一緒の席に座ることになった。

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