白雪姫と誕生日デート 遊園地編

「遊園地なんて久しぶりです」


 カフェでのんびりとした後、ナイトパスを買って遊園地に入った。


 最後に行きたい所が遊園地らしく、姫乃の強い要望で来たのだ。


 もう日が暮れているから親子連れのきゃくはそろそろ帰り始め、逆にカップルなどの客が多くなる時間だろう。


 久しぶりに来たからなのか、姫乃のテンションがいつもより若干高い。


「あまり時間ないですし、早く乗りましょう」

「分かった」


 姫乃に引かれて夜の遊園地を楽しむことにした。




「いきなりジェットコースターか」


 手を繋いだ姫乃と来た場所はジェットコースターだった。


 夜になると客の多くはパレードを見に行くらしく、今はそんなに混んでいない。


「はい。幼い頃に来たきりなので、前は乗れなかったんですよ」


 ジェットコースターなどは身長制限があるため、子供が来ても乗れない場合がある。


 このジェットコースターは百二十センチ以下の人は乗れないので、前に来たのは相当前なのだろう。


 姫乃は美しすぎるからか同性からは敬遠されがちで、今まで一緒に遊園地に行く友達がいなかったらしい。


 異性からなら誘われているだろうが、交際経験がないと言っていたし、誘われても断っているのだろう。


 つまりは姫乃にとってこうして異性と二人きりで遊園地に来た初めての相手は隆史になるということだ。


 本当に嬉しく、永遠に他の異性と来て欲しくないとも思う。


 好きな人を独占したくなるのは当たり前のことなのだから。


 少し待つと順番が来たため、隆史と姫乃はジェットコースターに乗り込む。


 落ちないようにしっかりと安全バーを閉める。


「その……初めてで緊張するので、手を繋いでもいいですか?」

「もちろん」


 動いても離さないようにしっかりと手を握った隆史は、以前に姉の香菜とこうして一緒に乗ったことを思い出した。


 ギリギリ身長の制限は超えていたものの、少し怖かったから手を繋いでもらったのだ。


 誰でもジェットコースターを初めて乗るのは怖いだろう。


 でも、しっかりと手を握ってあげれば、少しは恐怖が軽減されるはずだ。


 少ししてジェットコースターが動き出す。


 隣を見ると明らかに緊張している姫乃がおり、「大丈夫だよ」と言ってからさらに強く手を握る。


 自分から乗りたいって言ったから高い所はそんなに怖くないだろうが、初めてだから緊張しているのだろう。


「きゃあぁぁぁ、あはははは」


 降りに入ってスピードが上がったところで姫乃は笑い出した。


 恐怖で笑い出したというより、楽しくて笑っている感じだ。


 初めて乗るから緊張していたのであって、実際に乗ったら楽しくなったのだろう。


☆ ☆ ☆


「うわー、綺麗です」


 ジェットコースターに三回連続で乗らされた後、隆史と姫乃は観覧車に乗った。


 高い所から見る夜景は綺麗で、姫乃は外を見ながら目を輝かしている。


 ここで姫乃の方が綺麗だよ、と言いたいものの、恥ずかしさで言うことが出来ない。


 もしかしたらその言葉を望んでいるかもしれないが。


「タカくん」


 一周三十分くらいの観覧車に乗って五分ほどたつと、隣に座っている姫乃が手を繋いできた。


 彼女の温もりがとても心地良い。


「今日はありがとうございます。とても楽しかったです」

「俺も楽しかったよ」


 人の誕生日を祝うことはあまりないが、今日は本当に楽しかった。


 来年も祝ってあげたいと思ったほとで、出来るならこの先も一緒にいたい。


 慰め合う関係じゃなくて彼氏として。


「今日でさらに実感しました。私にとって……タカくんは最も大事な人、だと」


 頬を真っ赤にしながら言った姫乃の台詞は、隆史にとって最も心に響いた。


 好きな人から最も大切なことだと言われるのは非常に嬉しいことだ。


「だから……もっと一緒にいましょう。少なくともお互いの傷が完全に癒えるまでは」


 お互いの傷……虐められなくなっているとはいえ、姫乃の傷は完全に癒えていないのかもしれない。


 完全に傷が癒えたとしたら、学校以外ではここまでくっついてきたりしないだろう。


 学校ではバカップルと思わせないといけない関係上手を繋いだりするが、それ以外の場所では癒えていたらくっつく理由がないのだから。


 でも、完全に心の傷が癒えたとしても、まだ一緒にいたいと言わせたい。


 そして付き合いたいと思わせるくらいに好きになってほしい。


「もちろん一緒にいるよ」

「あ……」


 恥ずかしい気持ちはまだあるものの、隆史は姫乃を引き寄せてから力を強く抱きしめた。


 華奢な体躯だから力強く抱きしめたら折れてしまいそうだが、実際は折れることはない。


「最も大切なタカくんに、私からの精一杯のお礼をしたい、です」

「お礼?」

「はい。……んちゅ」

「え?」


 今まで頬にキスをしたことはあれど、頬にキスをされたのは初めてだ。


 精一杯のお礼というのは、恥ずかしそうに視線を逸らした姫乃を見れば分かる。


 それでもしてくれたということは、本当に感謝しているからだろう。


 そうでなければ姫乃がしてくれるわけがない。


「以前にタカくんに頬にキスされたのが初めてでしたけど、自分からしたのもタカくんが初めて、ですから」


 本当にこの子が好きすぎる、と思いながらも、改めて隆史は姫乃に恋をしているのを実感した。


 そしてこれからはもう少しだけでも積極的になれたらいいな、と頬に温かな感触を感じながら思った。


 ――将来は絶対に姫乃を幸せにしたい。

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