誕生日デート 映画編

「お腹いっぱい……」


 ファミレスから出た隆史は自分のお腹を抑える。


 あーんってしてもらっていっぱい食べた影響で満腹になってしまったのだ。


 流石にピザとパスタを食べるのはしんどい。


「すいません」


 あーんってして食べてもらえるのが嬉しかったであろう姫乃は、心配そうな瞳をこちらに向けた。


「大丈夫」


 満腹になったが、美味しかったので文句はない。


 むしろ好きな人にあーんってさせてもらったのだし、嬉しい気持ちでいっぱいだ。


 出来ることならまたしてほしい。


「どこか行きたいとこある?」


 今日は姫乃の誕生日だし、彼女の行きたいとこを中心に回る予定だ。


「見たい映画があります」

「映画か。今日は祝日だし席取れるかな」


 駅前にあるショッピングモールに映画館があり、この辺に住んでいる者なら大抵その映画館を使うだろう。


 祝日で学校や会社が休みなため、飛び込みで行くと席が取れなそうだ。


「大丈夫です。タカくんなら来てくれると思ったので、事前に予約しときました」

「準備がいいな」

「せっかくタカくんと誕生日を過ごすので見れなかったら嫌ですし……」


 確かに映画を見ることになって当日行ったら満席で見られなかった、となれば楽しさは半減……いや、もっと下がる。


 インターネットでの予約はクレジット決済が多い中、この映画館はキャリア決済で支払うことが出来る。


 隆史も好きなアニメが映画化された時には見に行くため、当日見れなくて残念にならないように予約を使うのだ。


 その分仕送りから引かれてしまうが、自分が使ったお金なのだからしょうがない。


(本当に可愛い)


 誕生日を異性と二人きりで過ごすのはデートだと思ってくれているのか、姫乃は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


 本当は可愛いと口にしたいが、恥ずかしさで言うことが出来ない。


「その、行きましょう」

「わ、分かった」


 手を引かれて映画館へと向かった。


☆ ☆ ☆


「混んでるな」

「そうですね」


 映画館は親子連れやカップル、友達同士で来ている人たちがごったがいしていた。


 これは予約を取らなかったら見れなかっただろう。


「どんな映画を見るの?」

「私が勝手に決めちゃいましたけど、恋愛映画です」

「大丈夫」


 今日は姫乃の誕生日なわけだし、彼女が見たいと思っている映画を見るのが普通だ。


 ただ、異性と一緒に恋愛映画を見るとなると、意識せずにはいられない。


 好きな人相手なら尚更だ。


「ありがとうございます。もし、タカくんが見たい映画があれば今度付き合いますので」


 姫乃の言葉が頭に響いた。


 つまりは今後もこうやって一緒に来ることが出来るということだ。


 言質が取れて本当に嬉しいし、少なくともまだ二人きりでいることが出来るのだから。


「恋愛映画で少しでも私を意識してほしい……」

「何て?」

「な、なんでもありませんよ。う、受付をしましょう」

「わ、分かった」


 予約をしていたとしても受付はしないといけたいため、手を繋ぎながら列に並ぶ。


 小声で言っていた言葉が気になるが、今は二人でいれて嬉しいから気にしないでおく。


「タカくんはアニメが好きなようですけど恋愛映画も平気ですか?」

「大丈夫。あまり見ないけど」


 現実にいるイケメンを見ると反吐が出る、とまではいかないまでも、俳優がカッコいいからあまり好きではない。


 だけどアニメは作られたキャラだからラブコメしていても許せる。


 今日は好きな人と一緒の映画なため、恋愛映画であろうとも問題はない。


 むしろ楽しめるだろう。


☆ ☆ ☆


 受付をした後に飲み物を買い、隆史と姫乃は隣同士の席に座る。


 先程入場時間になったのですぐに入った。


 残念ながら見やすい真ん中の席は既に埋まっていたらしくて後ろの方になってしまったが、前すぎるよりマシだろう。


 有名な俳優と女優が出ているからカップルや女性同士の客が多く、上映前だから話している。


「上映中でも、離さないでくれますか?」

「もちろん」


 ギュっと手を強く握ってきたため、それに応えて握り返す。


 離れたくない気持ちが強いので、離すなんて考えられない。


 むしろ永遠に離れたくないまである。


「タカくん」


 えへへ、と笑みを浮かべた姫乃は、隆史の肩に頭を乗せた。


 ここ最近感じる甘い匂いに柔らかい感触は、本当に男の本能を容赦なく削っていく。


 もし、付き合っているのであれば、映画館でもキスをしていたかもしれない。


「あ、始まりますよ」


 室内が暗くなり、映画上映前の広告が流れ始めた。

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