白雪姫の誕生日と甘噛み

「どうぞ、上がってください」


 五月五日の子供の日、隆史は姫乃の家を訪れた。


 今日はどうしても会いたいと言われたため、朝ご飯を食べてすぐに来たのだ。


 好きな人に会いたいと言われたので、隆史のテンションはいつもより高い。


「どうしても会いたいってどうしたの?」


 ソファーに座って尋ねる。


 土日に一緒にいるのも当たり前にあるつつあるものの、姫乃からどうしても会いたいと言われたから疑問に思った。


「今日は私の誕生日なので、沢山甘えても、いいですか?」


 隣に座った姫乃からの上目遣いでのおねだりだ。


 まともに話すようになってから間もないから分からなかったが、今日は姫乃の誕生日らしい。


「おめでとう。知らなかったからプレゼント用意してないや」


 分かっていれば予め用意してもらっていたが、知らなかったから何も用意していなかった。


「ありがとうございます。教えていなかったので仕方ないです」

「これからプレゼント買いにいく?」


 どういった物が好きなのか分からないため、一緒にプレゼントを買いに行った方がいいかもしれない。


 胸で慰めてもらったりメイド服をしてもらったり、と大変お世話になっているので、誕生日プレゼントでお礼をするのもいいだろう。


「欲しい物はありますけど、こうやって甘えたい、です」


 ギュっと抱きしめられた。


 好きな人の温もりを感じられるのは凄い幸せだが、未だに心臓に悪い。


 朝から抱きつかれると心臓が激しく動くし、いつまでたっても慣れる気がしないのだ。


 いつまでも出来るとは限らないが。


「タカくんに甘えることが、私にとって最高の誕生日プレゼント、です」


 笑顔を向けられるだけでさらに好きになっていくのが分かる。


 日に日に好きになっていくため、姫乃と離れるなんて考えたくもない。


 好きな人と一緒にいれるのが何よりの幸せなのだから。


 このままずっと抱きしめられていたい気分だ。


「分かったよ。沢山甘えて」

「はい」


 グリグリ、と姫乃は自分のおでこを隆史の胸に擦りつけてきた。


 こうやっていると本当に恋人同士みたいな錯覚を感じるが、残念なことに実際には付き合っているわけではない。


 本当に残念ではあるものの、一緒にいるためにはなるべくこの関係を続けるしかない。


 この幸せを逃したくないのだから。


「あ……」


 離したくない想いから無意識の内に抱きしめてしまった。


 ギュっと抱きしめ、華奢な身体を自分の腕の中に収める。


「今日はずっと甘えてもらうから離さない」


 告白なんて出来ないが、一緒にいてもらうために何とか出た言葉だった。


 本人が甘えたいと言っているのだし、沢山甘えてもらって幸せを感じる。


 それだけが今の隆史に出来る唯一のことだ。


「はい。離さないでください。……永遠に」


 最後にボソっと何が呟いたようだが、小さすぎて何を言っているか分からなかった。


 でも、離さないでほしいとは聞こえたし、今日は絶対に離さない。


 恐らくはこれからどこか出かけることになるだろうが、離れることはないだろう。


 せっかくの誕生日なのだし、何かプレゼントを送りたい。


 確実にお礼にはなるのだから。


「いっぱい甘えます。あむ……」

「お、おう……」


 先日の猫耳メイドの姿になった時みたいに、姫乃は猫のように首筋に甘噛してきた。


 とてつもなく可愛いしし、甘噛みされても嫌な気分がしない。


 きっと他の女の子にされたら嫌な気持ちになるだろう。


 好きな人相手だから甘噛みされても大丈夫なのだ。


 むしろもっとされたいという気持ちが出てしまい、隆史は姫乃の頭を手で抑えて離さない。


「あむあむ……」


 幸せを感じながらたっぷりと甘噛みをしてもらった。

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