白雪姫と一緒に登校

『私が一緒にいたらまずいから先に行くね』


 そう言った麻里佳は先に学校へ向かった。


 きちんと姫乃の虐めについて同情していたし、学校では彼女と一緒にいるのを譲るのだろう。


 自分がいると噂が立ちにくくなる可能性がある、と判断したようだ。


「式部さんも少しは常識があったのですね」


 普段からは考えられないほど姫乃は麻里佳に対して毒舌で、あまり仲良く出来ないのかもしれない。


 フった相手と一緒にいるような人とは仲良くしたいと思わないのだろう。


 ボソッと呟く姫乃に対して隆史は、彼女から視線を反らして苦笑いするしか出来なかった。


 学校での姫乃は常に一歩引いて相手を立てるはずだが。


「タカくん、私たちの関係を皆に見せないと行けないので」


 マンションの外に出たところで、姫乃は優しく隆史の手を握る。


 それに答えて隆史は指を絡め合うようにして手を繋ぎ、一緒に学校へと向かう。


 姫乃ほどの美少女と手を繋ぎながら登校すれば目立つし、すぐに学校で噂になるだろう。


 マンションから学校まで徒歩十分ほどのために既に同じ制服を着た男女が何人かこちらを見ており、「白雪さんが男と手を繋いでいる」とか「あいつは式部さんの幼馴染みじゃないか?」などと言っている人たちがいる。


 こうなってくれば姫乃に特定の男がいると思わせることが出来るのは時間の問題で、ここまでは計画通りに進んでいるだろう。


 問題があるとしたら麻里佳のことで、もしかしたら隆史と彼女は将来付き合うんじゃないか? と思っている人たちがいるらしい。


 一年の時はクラスが同じだったから学校でも一緒にいたし、こればっかりはどうしようもないだろう。


 良く一緒にいた事実を無くすことなど出来はしないのだから。


「凄く見られてます、ね」

「そうだな」


 頬を真っ赤にしている姫乃からの言葉に、隆史も恥ずかしくなりながらも頷く。


 ただ、、目立たないと噂は立たないから見られないと意味がない。


 なので恥ずかしくても手を繋いでいるしかないのだ。


「でも、こうしないと意味がないから」

「分かって、ます」


 土曜日は手を繋ぎながら一緒に出かけて視線を集めたはずだが、その時とは少し違う感じがするのだろう。


 休日の駅前はもちろん姫乃のことを知っている人は少ないが、今の登校時間は違って彼女を知っている人が多い。


 だから手を繋ぎながら登校するのは凄く恥ずかしいのだろう。


「これ、タカくんが何か言われたりしませんか?」


 心配そうな瞳でこちらを見つめる姫乃からの質問だ。


「大丈夫だよ。嫉妬されたり陰口は言われるだろうけど、直接何かをされたりしないよ」


 学校一の美少女で白雪姫と言われる姫乃と、幼馴染みで良く一緒にいる麻里佳は、男子からの人気が凄いある。


 もし、隆史を虐めるようなことがあればその二人に嫌われる可能性があり、何かしてくることはないだろう。


 だから実質隆史に被害がない。


 問題は麻里佳が学校でどう絡んでくるかだけ。


「ならいいのですが……」


 少し表情が和らいだが、まだ少し心配していそうだった。


 もしかしたら自分のせいで陰口を言われる可能性があるのが嫌なのかもしれない。


 女子たちから陰口を言われている姫乃にとっては、その辛さが分かるのだろう。


「心配ないから」

「あ……」


 物凄く恥ずかしい気持ちを我慢しつつ、隆史は姫乃を自分の方へと引き寄せた。


 人前でこんなことをするのは初めてだから心臓が張り裂けそうなくらい激しく鼓動しているが、恐らく姫乃は抱きしめられることで安心を感じる。


 だから心配ないよ、と安心させてあげなければならない。


「ありがとうございます。私はタカくんに助けられてばかりですね」


 本当に安心しきったかのように瞼を閉じる姫乃は、自分から身体を預けてきた。


「そんなことはないよ。俺だって姫乃に助けられてる」


 失恋したショックがまだ完全に癒えていないものの、姫乃がいなかったらもっと傷ついていだろう。


 だから本当に感謝しているし、姫乃が虐められなくなった後も出来れば一緒にいたい。


 恐らく失恋の傷が癒えるより、姫乃が虐められなくなる方が先だろうし、一緒にいてくれなくなるのは困る。


 こうやって彼女の人肌を感じるだけで楽になるのだから。


 もし、虐められなくなるのが先でも、義理堅い姫乃は一緒にいて辛くなったら慰めてくれるだろうが。


「じゃあ学校に向かおう」

「はい」


 手を繋ぎながら再び学校に向かって歩き出した。

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