白雪姫に看病してもらった
「はあぁくしょん」
姫乃の身体を温めた翌日、大きなくしゃみをした隆史は風邪を引いた。
体温は三十八度まで上がり、主な病状は鼻水と寒気、そして発熱だ。
昨日姫乃はきちんと濡れた服を脱いで身体を拭いたが、彼女を抱きしめて濡れてしまった隆史は何もしていない。
春の日差しで自然乾燥しただけなので、風邪を引いてしまっても仕方ないだろう。
「もう……風邪を引くのは体調管理を怠った証拠だよ」
呆れ声で言ってくる麻里佳であるが、とても心配そうな表情をしている。
弟が風邪を引いて心配する姉のような心情なのだろう。
「ずっと付きっきりで看病してあげたいけど、学校休むわけにはいかないし」
どうやら麻里佳は看病するか学校行くかで迷っているらしい。
弟が風邪を引いたらブラコンは看病したくなるのだろう。
実際は姉弟ではなくて幼馴染みなのだが。
「大丈夫だよ。薬飲んだから少ししたら楽になるよ」
「ならいいけど……辛くなったらすぐに連絡してね? すぐに戻ってくるから」
恋愛感情がない割には本当に過保護で、隆史が辛くなったら急いで戻ってくると断言出来る。
「分かったよ」
「本当にだよ? 辛くなったら絶対に連絡してね?」
しつこい、と思いながらも、隆史は「分かった」と部屋を出ていく麻里佳を見送った。
寝ようかと思った矢先に、ベッドの端に置いてあるスマホから通知音がなる。
少し辛いながらもスマホを手にとって確認すると、姫乃からメッセージが届いていた。
『おはようございます。一緒に登校しませんか?』
昨日連絡先を交換してからの初めてのメッセージだ。
学校では姫乃を虐める女子がいるのだし、登校から一緒にいたいのだろう。
『ごめん。風邪を引いたから学校行けないや』
そうメッセージを送ってスマホをベッドの端に置く。
「寝よ……」
流石に三十八度の熱があって身体が辛いため、寝ようとゆっくりと瞼を閉じた。
☆ ☆ ☆
「んん……」
カーテンの隙間から漏れ出る日差し、頭に枕とは違う柔らかさを感じた隆史は目を覚ました。
とは言っても瞼を開けたわけでなく、眠りから意識が確定しただけだ。
「目が覚めました、か?」
ここ最近聞き慣れた声が聞こえ、不思議に思った隆史はゆっくりと瞼を開ける。
「何で?」
目の前にはあり得ないほどに整った制服姿の姫乃の顔があり、しかも頭に感じている柔らかな感触は彼女の太ももだった。
しっかりとしている麻里佳が鍵を締めないで家を出るわけがないのに姫乃がいるため、隆史は彼女がいることに驚きを隠せない。
「え? だってチャイム鳴らしたら出てくれたじゃないですか?」
驚いているのは姫乃もだった。
寝ていたからチャイムが鳴ったことも覚えていないし、ましては姫乃を家に招き入れた記憶もない。
でも、実際に姫乃がそう言っているのだし、間違いはないだろう。
どうやら寝ている時にチャイムが鳴って無意識に出てしまったらしい。
アルコール入りのチョコを食べただけで記憶がなくなるほどに酔ってしまったのだし、体調が悪くて寝ている時にチャイムが鳴ったら無意識に出てしまってもおかしくはないだろう。
「何で膝枕してるの? 風邪がうつるかもしれない。てか学校は?」
本来なら学校にいるはずの姫乃がこの家にいるのはおかしいことだ。
「学校は休ませてもらいました。膝枕はその……昨日最高だと言ってくれたので」
この一言で、隆史の身体はさらに体温が上がった気がした。
実際にはまだ寒気があるのだが、風邪からくる寒気が吹き飛ぶくらいに姫乃の言葉の破壊力が凄かったのだ。
自分で言った姫乃も恥ずかしいらしく、頬が赤く染まっている。
「それに……タカくんがいないと、学校が怖いので……」
虐められたことを思い出したかのように、姫乃の身体が少し震えた。
一緒にいることで特定の男子がいると思わせ女子から嫉妬を失くそうとしているのだし、確かに隆史がいないと成り立たないし、また虐められるかもしれない、と思って怖くなるだろう。
つまり学校をサボって看病を優先してしまったということだ。
「悪いな。俺から言ったのにも関わらず風邪を引いちゃって」
自分から発言しておいて風邪を引いて初日から約束を破ってしまって不甲斐ない。
「いえ、タカくんが風邪を引いてしまったのは私のせいなので。あの時の私は自分のことで精一杯でした。だからタカくんの身体が濡れているのにさらに体温を奪ってしまったのに気が付きませんでした」
本当に申し訳ありません、と姫乃は頭を下げた。
(ちょいいぃぃぃ)
頭を下げたことにより上半身ももちろん下がるため、大きな胸のが目の前にくる。
風邪を引いて若干頭が回らないだけマシかもしれないが、体調が良い時にこんな状態になったら理性が本当に削られていく。
胸は男の本能を刺激するため、我慢するのはしんどいことなのだ。
「だから今日は……タカくんの看病をさせてください」
ギュっと優しく手を握られた。
「わ、分かったから頭を上げてくれ。今の状況は身体に悪い」
「あ、すいません」
自分の胸が隆史の目の前にあるのにようやく気付いたようで、頬を真っ赤にさせた姫乃は急いで頭を上げる。
「その……私は男子に胸を触って欲しいと思うようなはしたない女ではないですからね」
「分かってるよ」
こうして一緒にいるようになってから期間は短いが、姫乃がすぐ身体を許すようなビッチには到底見えない。
「なら良かったです」
一安心したかのように姫乃はホッと胸を撫で下ろす。
「今日は私に看病、させてください」
「分かった」
断っても引いてくれそうにないため、隆史は姫乃の細くて柔らかな手を握り返して頷いた。
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