白雪姫を抱きしめての朝
「んん……ここは?」
重い瞼を開けると、知らない風景が目に入った。
一度瞼を閉じて昨日のことを思い返すも、そこまで良く覚えていない。
辛うじて覚えているのは姫乃がお礼と言って晩ご飯を振る舞ってくれたことで、それ以降のことは全く覚えていなかった。
「ん……この感触は?」
自分の腕の中にすっぽりと収まっている柔らかい感触と甘い匂いを感じ、隆史はゆっくりと瞼を開ける。
「な、なななな何で?」
腕の中に収まっていたのは、昨日一緒に慰め合いをした姫乃だった。
何で抱きしめているのか全く思いだせず、ただただ恥ずかしい気持ちになる。
「まさか一線は超えてないよな?」
ご飯を食べ終えてからの記憶がないため、抱いてしまった可能性があるのも否定出来なかった。
昨日の姫乃は心に傷を負って悲しんでいたのだし、寂しさで人肌を求めて抱かれたってこともあるかもしれない。
だから冷や汗が止まらなかった。
「んん……」
目を覚ましたのか、寝ていた姫乃がゆっくりと瞼を開ける。
寝起きでボーッとしているようで、抱きしめられているのに気付いていないようだ。
長い髪は寝起きなのにきちんと整っており、毎日きちんと手入れを欠かしていないたわものだろう。
「あ、あ……」
少しずつ意識がハッキリとしてきたのか、姫乃は頬を真っ赤にして頬を赤く染めた。
経験がないのに男性に抱きしめられているのだし、恥ずかしくなっても仕方ないだろう。
「とりあえず落ち着いてくれ。俺も何でこうなっているのか分からないんだ」
むしろこちらが説明してほしい気分だ。
あわあわ、とテンパっているであろう姫乃を何とか落ち着かせたいが、異性と一緒に寝るなんてことは幼馴染みと幼い時にして以来なため、どうすればいいか分からない。
「ごめん」
「あ……」
経験がないからアニメを見て主人公がヒロインを落ち着かれた方法になるが、隆史は慌ててしまっている姫乃を強く抱きしめた。
元々抱きしめていたからそこまで効果がないかもかもしれない。
だけど経験が皆無な隆史には抱きしめるしか思い浮かばなかった。
「高橋、くん……」
どうやら効果があったようで、頬を赤くしながらも姫乃が慌てることがなくなった。
「落ち着いたのであれば、覚えている範囲で説明してほしい。ご飯を食べた後から全く覚えていなくて」
思い出そうとしても、頭にモヤがかかったのように何も思い出せない。
「は、はい。でも、その前に離れてもらえませんか? 流石に恥ずかしいです」
「うん」
悪い、と謝った隆史は、恥ずかしがっている姫乃から離れた。
ずっと抱きしめてられては恥ずかしくてまともに話せないだろう。
隆史も恥ずかしさはあったものの、もう少し抱きしめていたいという気持ちもあった。
でも、本人が離してほしいと言うのであれば、抱きつくわけにはいかないだろう。
無理矢理抱きしめただけで犯罪になってしまうのだから。
「それで何で俺は白雪を抱きしめていたんだろうか?」
床に座った隆史は、同じく床に座った姫乃に尋ねる。
説明しますね、と言った姫乃がゆっくりと口を開く。
「昨日はチョコを食べたのを覚えていますか?」
「チョコ……」
そういえば、と頷いた隆史は、晩ご飯後にチョコを食べたことを思い出した。
だけどその後は一切思い出せない。
「そのチョコがお酒入りで、食べたら酔っ払ったんですよ」
「お酒入りのチョコ? 本当に酔っ払ったの?」
姫乃はコクン、と首を縦に振る。
アルコール入りのチョコはラブコメアニメでヒロインを酔わすために使われるが、まさか自分がチョコで酔うとは思ってもいなかった。
彼氏でもない男に抱きしめられるのはいい思いをしないだろう。
「ほっん、とおぉぉうにごめんなさい」
抱きしめた時のことは覚えていないももの抱きしめて寝てしまったのは事実のようなので、隆史は土下座をして姫乃に謝った。
しっかりとおでこを床につけ、これ以上ないくらいに反省している土下座をする。
いくら家に招き入れてくれたとはいえ、きちんと謝らないと気が済まない。
それにきちんと謝らないと今度クラスで気まずくなる可能性がある。
だから最上位の反省を示す土下座で謝った。
これで許してくれなかったら、大人しく警察に捕まるしかないかもしれない。
チョコを食べて酔っぱらったせいで姫乃を抱きしめて寝てしまったのだろう。
しかももう朝なので、長時間抱きしめていたということだ。
恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。
「だ、大丈夫ですから頭を上げてください」
頭を少し上げると、少しも怒ってなさそうな天使みたいな笑顔があった。
白雪姫と言われるだけあって姫乃の笑みは破壊力抜群で、昨日幼馴染みにフラれたばかりの隆史ですら見惚れてしまう。
他に好きな人がいなければ惚れてしまったかもしれない。
すぐに勘違いしない隆史ですら惚れそうになったのだし、他の男子にしたら一瞬で恋に落ちるだろう。
だけど心の奥底で他の人に今みたいな笑みを見せてほしくないという気持ちがあった。
あの笑顔は自分だけに見せてほしい……そんな気持ちが心の中を支配している。
「それに、私は嫌ではなかったです、から。とても気持ち良く、寝れましたよ」
まるで彼氏に甘える時みたいに耳元で囁いてきた姫乃は、顔全体を真っ赤にして寝室まで走って行った。
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