別れてすぐに再会した

「今日は色々あったな」


 学校一の美少女と言われている姫乃と慰め合った後、隆史は彼女と別れて帰路につく。


「それにしても柔らかかったな」


 家に帰りながら先程まで感じていた姫乃の胸の感触を思い出す。


 たかが脂肪の塊のはずなのにしばらく離れられず、あの柔らかい感触を堪能してしまった。


 いくら辛い気持ちがあったとしても、三十分も胸に顔を埋めているものではなかっただろう。


 嫌なこと何一つ言わず胸を貸してくれた姫乃に感謝しつつも、慰め合いはこれきりになるのだろうとも思った。


 これからはあくまでクラスメイトの関係に戻るだろう。


「あ、ご飯買いに行かないとな」


 今までは幼馴染みが海外出張で家にいない両親の代わりにご飯を作ってくれたが、これからはそうはいかなくなる。


 しばらくしたら元の関係に戻る可能性はあるももの、流石にフった初日にご飯を作りに来ないだろう。


 だからご飯を買いに行く必要があり、隆史は最寄りのコンビニへを足を向けた。


☆ ☆ ☆


「あ……」


 学校の校門で別れて十分ほとで姫乃と再会した。


 コンビニでパンを買おうとしている姫乃は、こちらを見るやいなや恥ずかしそうに頬を赤く染めて視線を反らす。


 つい先程まで自分がやっていたことを思い出して恥ずかしくなったのだろう。


 男性経験が豊富なビッチであればともかく、姫乃のような純潔の女性であれば恥ずかしくもなる。


 隆史も胸に顔を埋めるなんて行為は初めてだったため、今になって身体が熱くなってしまう。


 四月でまだ冷房が必要ないにも関わらず、是非とも付けてほしいと思うくらいに身体が熱い。


「どうしてここに?」

「ご飯を、買いにきました。いつもは自炊するんですけど、今日は作る気力がなくて」


 隆史の質問に姫乃は答えてくれる。


 女子から直接嫌味や妬みを言われて傷ついてしまったのだし、今日はご飯を作る気力がなくてもおかしくない。


 学校からこのコンビニまでは一本道ではないため、別のルートで同じコンビニまで来てしまったのだろう。


 いつもは自炊しているということは、姫乃の両親は長期出張で家を空けているのかもしれない。


「高橋くんはどうしてコンビニに?」

「白雪と同じでご飯を買いに。両親が海外出張でいないから」


 調度パンが置いてあるコーナーにいるので、隆史は一つパンを手に取る。


「いつもコンビニで買っているのですか?」

「いや、いつもは幼馴染みが作ってくれるけど、今日は流石にね」


 視線を反らして言う隆史の意図を察してくれたのか、姫乃は「そうですか」と寂しそうな表情で頷いてくれた。


 フラれて辛い気持ちを察してくれたのだろう。


「あの……」

「ん?」


 買い物カゴを持った姫乃の手足がモジモジ、と上下に動いている。


 これから言いたいことは恥ずかしいことなのだろう。


「ご飯を作って、あげましょうか?」

「……はい?」


 予想外の言葉に隆史は思わず聞き返してしまった。


 少し小声だったがもちろん聞こえなかったわけではなく、ご飯を作る提案に驚いたのだ。


「高橋くんには慰めてもらったので、お礼をしたい、です」


 買い物カゴを持っていない右手で頬を赤らめながら姫乃は隆史の制服の袖を軽く掴む。


 スクールバッグは肩にかけているため、右手は空いている。


「もう借りは返してもらった。そこまでしなくても大丈夫」


 まだ完全に失恋の傷が塞がれたわけではないが、それでもだいぶ姫乃に助けられた。


 目の前にある柔らかな胸の感触のおかげだろう。


 だからご飯を作るお礼をしてもらわなくても問題はない。


「それに今日は作る気力がないんだろ?」

「それは一人の場合、です。高橋くんがいいのであれば、作れますよ?」


 純粋にお礼がしたい、と思っていそうな瞳を向けつつも、姫乃は勘違いしそうな台詞を確実に天然で言ってくる。


「男の人にご飯を作ったことはありませんが、お世話になった高橋くんのためですから、頑張ります」


 そういう勘違いしそうな台詞を言うのは止めてほしいが、心の中では作ってほしい、という気持ちがあった。


 コンビニで買った物より確実に姫乃の手料理の方が美味しいだろうし、何より美少女の手料理は男からしたら心が踊る。


 それにフラレた日に家で一人寂しくご飯を食べるより、誰かと一緒に食べる方が楽かもしれない。


「分かった」


 結局は手料理を食べてみたいという気持ちが勝ち、隆史は姫乃の料理を食べることにした。


「実は料理下手っていうオチは勘弁してくれよ」

「昔から作っているので、その心配はしなくて大丈夫だと思います」


 本人がそう言うなら大丈夫なのだろうが、アニメでは稀に長年料理を作っていても下手なヒロインというのが存在する。


 アニメと現実は違うと分かってはいるものの、アニメと共に育ったからたまに重ねてしまう節がある。


 だからこそ、隆史は姫乃が手料理を作ってくれても勘違いしない。


 あくまでお礼で作ってくれるのだから。


 美少女の幼馴染みがいはするが、隆史は自分がモブの部類に入ると思っている。


 アニメのように主人公であれば、幼馴染みに告白してフラれていないのだから。


「今持っているパンは明日のご飯にしましょう。流石にコンビニに来て何も買わないのはお店に失礼ですから」


 そう言うってことは、家に食材はあるのだろう。


 コンビニに来て毎回きちんと買うのだし、たまに漫画雑誌を立ち読みだけする隆史とはえらい違いだ。


「私の家でいいですよね?」

「え? 白雪の家に行くの?」

「ご飯を作るのですから家に行かなくては出来ません。それに高橋くんの家に食材や調理器具など何があるか分かりませんので、私の家の方が都合が良いです」


 恐らくは先程の慰めのおかげで、姫乃は隆史のことを信用してしまったのだろう。


 襲うのであれば姫乃を負った傷を利用して既にしている、と思っているのかもしれない。


「分かった」


 幼馴染みの家に行く以外に女の子の家に行ったことはないが、隆史は姫乃の家に行って料理を食べることに決めた。

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