第11話 新しい出会いと再会

 辛い別れがあったが、江戸に来た利助に新しい出会いもあった。


「この間は大変だったな」


 気さくに声をかけてくれたのは井上聞多いのうえもんたという藩主・毛利敬親もうりたかちかのそばに仕える人物だった。


 このお話では混乱を避けるため、あまり多くの変名を使わないよう、井上聞多(後の井上馨いのうえかおる)で統一するが、この頃の聞多の名前は志道しじ聞多だった。


 次男として井上家に生まれた聞多は、この頃、志道家という家に養子に入っていたのである。


 この時代は長男以外は養子に行くことがよくあった。


 長男だけが家を継ぐことができて、家の財産も長男だけが受け取れる制度だったので、次男以降は家も土地もない。


 そのため、養子として迎えてくれる家があるなら、ぜひ入りたいというのが次男・三男たちの状況だった。


 井上家、志道家ともに長州藩の藩祖はんそ毛利元就もうりもとなり以前から毛利氏に仕えている名門で、聞多が江戸に来たのも藩主にしたがってのことであった。


 武家に仕える中間ちゅうげんという低い身分の利助とは、まったく違う立場の人なのだ。


「これは志道様……」


 膝を折ろうとする利助に聞多は笑って手を振った。


「ああ、そういうのはいらんいらん。俺のことも聞多でいいぞ」


 良い家柄の生まれでありながら、聞多は気さくに利助と話した。


 聞多に身分差別みぶんさべつの意識がまったくないことを、利助は後に身をもって知ることになる。


 江戸では再会もあった。


 来原も江戸にやってきたのだ。


「久しぶりだな、利助。勉強はがんばっているか?」


 江戸に来た来原の仕事は、櫻田さくらだにある長州藩邸の稽古場・有備館ゆうびかん江戸在勤えどざいきんの藩士に勉強を教えることだった。


「利助も勉強に来い」


 来原は再び利助の師匠になり、利助は勉強に励んだ。


 しかし、この時代は移動が激しい。


 来原が藩に戻る命令を受けると、小五郎に有備館の仕事を頼み、利助は来原の後は小五郎に付いて勉強を続けた。

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