【書籍試し読み版】ほのぼの異世界転生デイズ ~レベルカンスト、アイテム持ち越し! 私は最強幼女です~ 1

しっぽタヌキ/MFブックス

プロローグ 大好きなゲームで【宝玉(神)】を手に入れました

 私は、ごく普通の女子高生だ。

 ……と言うことができればよかったが、実はひきこもりである。

 小さい頃から他人と一緒にいると、すこし浮いていた。生きづらいなぁって、そんな思いは年齢を重ねるごとに増えていって、中学生になったときには学校に行けなくなっていた。

 高校受験はしたものの、やはりむことはできなかった。現在は学校に籍はあるが、一年目にして留年決定。そうなると登校する意味は皆無だ。

 そして、学校に行かない私は、代わりにゲームに没頭した。

 私がハマっていたのはオンラインRPG。

 キャラクターの種族はエルフにして、銀色の髪に金色の目の女性を選んだ。そのゲームの配信開始と同時にプレイを始めた私は、あり余った時間をゲームにつぎ込んだ。他にやりたいことがない、ということもあるが、そのゲームがすごく楽しかったのだ。

 私は特定のチームに所属せず、チャットもやらない。いわゆるソロプレイが好きだった。

 魔物を倒して、素材を集めて、装備を作って、ステータスを上げて、メインクエストをクリアする。

 寝る間も惜しんでプレイすれば、あっという間にメインクエストはクリアできた。それだけでなく、レベルはカンストし、装備も最強、アイテムボックスもいっぱいだ。

 それでも、ゲームに飽きることはなかった。

 運営はたくさんのイベントをしてくれたし、ただ時間を食うような単純なものじゃなくて、工夫を凝らして、いつも楽しませてくれた。

 その日、いつも通りにゲームにログインした私は、【霊感の洞窟】というマップで、穴掘りをしていた。

 洞窟系のマップでは【つるはし】を持っていれば、鉱物を掘ることができる。

 こういう鉱物系の素材を集めることをゲームのプレイヤーたちは『穴掘り』と呼んでいた。【霊感の洞窟】で採れる素材はメインクエストの中盤ぐらいに役立つ。

 メインクエストをクリアした私は、もはやここで採れる素材を使うことはほとんどなく、アイテムボックス内でカンストしてしまっている。

 ではなぜ来たのか。

 ──ネットにレアアイテムの情報があったからだ。

 その情報は、普通の人には意味がわからなかったと思う。ある秘密を知っている者だけが理解できる。そういう情報だった。

 その情報を確かめるため、私は【霊感の洞窟】にやってきたのだ。

 洞窟の素材ポイントで穴掘りをする中級者を見ながら、私は奥へとどんどん進む。途中、洞窟のボスであるドラゴンがいたが、すでに私の敵ではない。サクッと倒して、さらに奥へ。

「ボスを倒して、その素材を取らずに、右の壁に沿っていく、と……」

 一見して、ただの洞窟の壁。

 でも、キャラの姿が壁にめり込んでいって──

「隠し通路があるんだよね」

 たぶん、ごく一部にしか知られていないと思う。

 キャラが壁にすべてめり込むと、暗い画面がしばらく続く。キャラがどう動いているのかは画面では確認できない。不安になるが、前へと進む。すると、画面に明かりが戻って──

「ついた」

 【霊感の洞窟】。隠し通路の奥の小部屋。

 洞窟のマップの中で、ここだけは部屋になっている。

 木の床に白い壁、魔法の光をたたえたランプ。

 洞窟のマップが、なぜ突然こうなってしまうのかわからないけど、バグというにはしっかり作られているし、運営が意図的に作っているのだとは思う。

 けれど、ここにはなにもない。

 最初にこの部屋を発見したときは興奮した。強いボスがいるか、宝箱があるか、または違うマップへの道があるんじゃないかと思ったけれど、調べても調べても、なにもなかった。

 時間が関係するんじゃないかと、一日中この小部屋にいたこともあるし、日が関係するんじゃないかと、毎日訪れてもみた。

 それからもう一年。

 結局、なにもなくて、諦めていたのだが、やはりここにはなにかあったらしい。

 ネットに載っていた情報はほんのすこしだけ。

『洞窟の小部屋で、クリスマスに穴掘り(神)』

 少なすぎる情報にだれも応答をせず、流されていった。

 でも、『洞窟の小部屋』がここだと知っていれば、一気にしんぴょうせいが増す。

「クリスマスに、つるはしで穴掘りか……」

 実は、クリスマスに来たことも、【つるはし】で掘ることも試したことがある。けれど、その二つを同時にやったことはなかった。私としたことが抜かっていた。

 あと、【つるはし】は普通のつるはしじゃなくて、【つるはし(神)】じゃないとダメなのだろう。

 この【(神)】というのは、アイテムのランクだ。

 アイテムは買ったり、錬成したりして手に入れるのだが、錬成する場合は素材を集めて、作る。作業道具も素材を集めて作るのだが、素材によってできあがるもののランクが変わる。

 (ボロ)、(並)、(上)、(特上)、(神)の五ランクだ。

 【つるはし(神)】はSS素材以上を掘りあてることを確約するという効果だったが、一回の使用で壊れてしまう。

 【つるはし(神)】の錬成にはS素材がたくさん必要なので、SS素材が手に入るといっても正直、割に合わない。なので、ほとんどの人が使っていないのが現状だ。

 私はS素材を出し惜しむ必要はないので、気にせず使っているけれど。

「よし。じゃあ、やってみよう」

 ごくりと唾を飲む。

 一二月二五日。クリスマス。洞窟の小部屋で延々と穴掘りだ!

 小部屋といっても穴を掘るポイントはたくさんある。というか床の全部が穴掘りポイントだから、すべて調べようと思えば、百回は必要。【つるはし(神)】は一回で壊れてしまうので、百本必要になってしまうけれど、私なら大丈夫。用意できている。

 というわけで、まずは小部屋の中央で【つるはし(神)】を振り上げる。そして、それが木の床に突き刺さった。

 が──

「……なにも起きないかぁ」

 一回でうまくいくとは思っていない。だが、すこし落胆する。

 状況ステータスには『【つるはし(神)】が壊れました』とだけ出ていた。それはこの部屋ではいつも通りのことで、SS素材確定のはずだが、いくらやってもアイテムは出ず、【つるはし(神)】が壊れるだけなのだ。

「次」

 だが、こんなことはゲームをやっていればよくあること。

 すぐに気を取り直して、今度は右上からすこしずつ移動しながら、【つるはし(神)】を振っていく。百本の【つるはし(神)】を全部壊してもかまわない。

 そうして、【つるはし(神)】が壊れるだけの時間が過ぎていった。すでに小部屋の半分は終え、後半に入った。中央よりやや下の右側部分。とくに目印もないそこに【つるはし(神)】を振り下ろしたときに、それは起こった。

「ッ──! オリジナルエフェクトだ──ッ!!」

 来た!

 情報は本当だった──!

「すごい! こんなエフェクト見たことない!」

 こんなにゲームをやり込んで。それでも、まだ私の知らない世界がある。

 ──だから、やめられない。

 ──だから、ずっと大好き。

 【つるはし(神)】の刺さった木の床はそこからひび割れていき、割れ目から光があふれ出す。その光が小部屋全部に広がると、画面は真っ白な空間になった。そこにいるのは私が作った銀髪に金色の目のエルフ。そして、その手には──

「玉……?」

 丸い水晶のようなものを持っている。

 そんなアイテムあったかな……?

 疑問に思っていると、画面は変わり、気づけば、【霊感の洞窟】のボスがいるマップまで戻ってきていた。

 そして、状況ステータスには一文が追加されていて──

『【宝玉(神)】を手に入れました』

 やった……!

 ネットで見つけた情報を頼りに、ついにアイテムを手に入れた。入手困難なのは間違いないし、これはもう絶対にレア。もしかしたら、私以外は見つけていないかもしれない。

 私は本当にうれしかった。

 なので、すぐに【宝玉(神)】の効果を確認しようとしたのだが──

「……? どこにもない?」

 【宝玉(神)】という表示をどこにも見つけることができない。

 アイテムボックスにはないので、普通のアイテムや、装備品、アクセサリーとは違うようだ。

 そして、ステータスを見ても変化はないし、なにか称号がついたわけでもない。

 ──どこにも存在していない。

 でも、たしかにオリジナルエフェクトがあり、状況ステータスには表示された。だから、手に入れたことは間違いないのだ。

 ──どんな効果があるんだろう。

 ──この世界にはまだ他にも【宝玉(神)】が眠っているのかもしれない。

 そう思うとワクワクして……。

 まだまだ、このゲームを楽しめる。

 確信しながら、久しぶりにベッドで眠る。いつもついついイスで眠ったり、徹夜をしたりしてしまうのだ。

 けれど、今日は胸がふわふわとして、いい気分だった。

 ──明日から、またゲームをたくさんしよう。

 クリスマスの寒い夜。掛け布団をグイッと目の下あたりまで上げて、目を閉じる。

 そして──

 ──私はそのまま死んでしまったらしい。


 ……えぇ!?

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