第七話 リベンジオブラビット後編
翌日、俺はギルドの訓練場に来ていた。
ヴォークト軍曹殿の薫陶のもと、弓と投げナイフでの投擲術の練習中だ。
当初は弓のみの練習だったのだが弓は結構音がする。飛距離は減るが投げナイフならほぼ無音で攻撃できるので、両方習得することにしたのだ。
「なるほど、貴様の戦いはまだ終わってないのだな。その意気やよし」
「それで対野ウサギ用に新しいスキルを取得したのです」
「ほう、どんなスキルだね」
「軍曹殿、あれは?」
そう言って軍曹殿の後ろを指差す。
軍曹殿が振り返った瞬間、気配を殺し無音で軍曹殿のサイドに回りこみ、ナイフをわき腹めがけて突き刺そうとする。が、寸前で腕を取られ、止められる。
「驚いたな。このわたしの懐を取るとは」
「いえ、軍曹殿こそさすがであります。完全に不意をついたはずなのに止められるとは」
「気配を殺してからの無音移動か。いいスキルだ。並のものなら止められないだろう」
「ええ、これでやつらを今度こそ殲滅してきます」
結局その日は終日、投げナイフの訓練に費やした。
弓は【隠密】【忍び足】との相性がいまいち悪いとの判断だ。おかげで暗くなる頃までには投擲術はレベル2まで上がっていた。
新しく追加したスキルは次のとおりだ。
弓術レベル1 投擲術レベル2 隠密レベル2 忍び足レベル2 気配察知レベル2
これで残っていた21Pはすべて消費した。気配察知で敵を探索し、隠密、忍び足で接近。投げナイフで仕留める。すばらしい勝利の方程式である。
次の日、さっそく草原に出かける。
依頼はなかったが、依頼のない素材でも需要のあるものなら、お隣の商業ギルドで買い取りをしてくれる。まあ野ウサギ五七匹の報酬で3000ゴルドくらいにお金が増えたからしばらく稼ぐ必要はないのだが。
門でいつもの兵士が声をかけてきた。
「よう、野ウサギ、今日も野ウサギ狩りか? がんばれよ!」
激励してもらった。
それはいいんだが呼び名がすっかり野ウサギで定着してしまってるし……
草原に出たわけだが、さすがに先日狩ったあたりでは獲物は減ってるだろう。なので今日は違う方向へと向かうことにする。
気配察知を使いながら移動していく。鳥や小さなねずみがひっかかるが野ウサギはまだ見つからない。慣れてないのかレベルが低いのか、生き物の気配と方角くらいはわかるんだが、種類とか正確な位置とかがいまいちわからない。それでも昨日まではわからなかったねずみや鳥を見つけられたので野ウサギも問題ないだろう。
隠密と忍び足でしばらく歩くとようやく獲物が見えた。野ウサギだ。
投げナイフを手に取るとゆっくりと接近する。確実に当てられる距離……ここだ!
ナイフを投擲。やつはナイフに気がつくこともなく絶命していた。
夢中になって狩っていると二時間くらい経っていた。野ウサギはすでに三〇匹。なかなかのペースである。
気がつくと森の近くまで来ていた。休憩しながら考える。森の中にはもっと大型の獲物、鹿や猪、熊なんかがいるらしい。だがモンスターも出るから危険も多い。
どうしようか考えていると森から何か出てきた。草原に伏せて気配を殺して様子を窺う。
あれがオークか。背は低いががっしりした体格。豚のような顔。ぼろぼろの布をまとって手には棍棒を持っている。
オークは無警戒にこちらへと歩いてくる。殺れるか? オークは徐々にこちらへ接近してきた。まだナイフは届かないだろうが、魔法ならおそらく届く。
オークに向かって左手をかざし【火槍】発動。
火矢は魔法を唱えるとほぼノータイムで発動するが、火球や火槍は発動に時間がかかる。火の槍が形成される。オークはこちらに気がついたようだが、もう遅い。火槍を発射する。火矢よりもかなり速度が速い。
火槍は避ける間も与えず胴体に命中し、オークは倒れた。簡単なものだ。
「さすが俺。余裕じゃないか」
人型モンスターを倒すのに何か嫌悪感でもあるかと思ったが、特にそんなこともなかった。野ウサギを狩るのと何も変わらない。
死体を回収しようとすると、森からさらにオークが数匹出てきた。
オークたちはこちらの姿に気がつき、棍棒を振りかざして襲いかかってきた。だがまだ距離はあるので落ち着いて【火槍】を発動する。
接近されるまで二匹倒せた。残り二匹。腰からショートソードを引き抜き構える。
ぐおおおおおお、と雄叫びをあげるオーク。相手は二匹だが、一対多の訓練は初心者講習でやっている。動きも軍曹殿に比べると全然遅い。襲いかかってくるオークはかなり恐ろしかったが、余裕でかわしてショートソードで切りつけ一匹目を倒す。それをみて最後の一匹が逃げ出した。
背中を見せたオークに投げナイフを投擲。ナイフが背中に突き刺さり倒れたオークに近寄り、剣でとどめを刺す。それでレベルが上がった。
死体を回収したあと、もうオークはいないようなのでその場で警戒、隠密を発動し、ステータスをチェックをする。
比較対象がないのでよくわからないが、初期に比べればずいぶん成長した。
この世界、レベルとかステータスが存在しないようで、軍曹殿にHPやステータスのことを聞いたら変な顔をされた。
スキルはあるがレベルがついてたりはしない。鑑定スキルはあったが人は対象外だった。自分の体力や魔力は経験で把握しろと教えられた。
しかしまだレベル4か……
RPGなら始まりの町周辺で雑魚をひのきの棒で狩っているレベルだが、剣術や火魔法のおかげでオーク程度なら何匹いても負ける気はしない。今後のレベルアップのことも考えると森へ入ってもっと強敵を相手にするべきか。
スキルリストを眺めながら強化方向を考える。
候補は次の三つ。
・剣術 4→5 10P
・隠密、忍び足、気配察知を2→3 3P×3
・回復魔法5P
ポーションの値段を調べたら一本100ゴルドもした。
初心者ポーションはあと七本残っているが、今後のことを考えると回復魔法を取っておきたい。
生産系スキルでポーションを作るという手もあるが、道具や設備が結構な値段だったのでとりあえずは却下した。
回復魔法、どっかで習えないかな。帰って誰かに聞いてみるか。スキル振りは保留にしておこう。
道々、野ウサギを倒しながら町に戻った。本日の収穫は三五匹である。
「今日はどうだった?」
門を通る時、いつもの門番の兵士がそう聞いて来た。
「三五匹だ」
「ヒュー、さすが野ウサギハンターだぜ! もう野ウサギ君なんて呼べねーな。これからは野ウサギさんと呼ばせてもらうか」
いや、普通に名前で呼んでくださいよ。門を通るときギルドカード見せてるんだから名前知ってるでしょうに……
「あと森の近くでオークに遭遇したんですが」
門番の兵士にギルドカードを見せながら言う。
「ほう、五匹を一人でやったのか、さすがだな。オークは滅多に草原のほうには出てこないんだが。これは注意が必要かもしれんな。ギルドのほうにも報告しておいてくれ」
先に冒険者ギルドの隣の商業ギルドに寄って野ウサギとオークを引き取ってもらう。オークの死体はいい値段になった。
野ウサギが肉と毛皮を合わせて一匹25ゴルド。オークは一匹200ゴルドである。
買い取られたオークは解体され、肉屋に卸され、ご家庭の食卓などに並ぶ。俺の泊まってる宿でも何度か出たことがある。案外美味だった。
続いて受付のおっちゃんにギルドカードを見せにいく。おっちゃんのとこは大抵すいている。
基本受付の人は女性、しかも美人さんが多いのでみんなそっちに行く。何人かいる男性受付もイケメンが多い。
きっと別の需要があるんだろう。美人は遠くから眺めるくらいならいいが、話すのは苦手だ。
おっちゃんにギルドカードを見せてオークのことを話す。
「ふむ、じゃあ副ギルド長に報告しておくよ。あと今回の討伐でギルドランクがEに上がったよ。おめでとう」
オークの討伐報酬ももらう。一匹50ゴルド。
オークは常時討伐依頼が出ているので倒しさえすればカードのチェックだけで報酬がもらえる。オークを売った分とあわせて一匹250ゴルド。今日だけで稼ぎは約2000ゴルド、手持ちは5000ゴルド近くまで増えている。
革の防具も訓練でぼろぼろだし、そろそろ装備をもうちょっといいものに替えてもいいかもしれんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます