第三話 清須(きよす)発、高額オークション
「ふふっ、大物が多いな」
「へえ、そうなのですか」
「ミツよ、お前は
「直接お会いしたことがありませんので……。海外での活動も長いですし」
「お前らしい言い方だな」
そういえばお互いに名前も知らなかったと、
三人はオークションの準備のために
省略されたミツくらいなら、サルよりはマシだと光輝は思うことにする。
あと、
どうせ武士でもないので、苗字はなくても構わないと三人は思っていた。
「
他にも、
「あの男を見よ」
「お侍の方ですか?」
「あの男は、
畿内で絶大な力を持つ
「
「数奇者ですか……」
異常な女好きである好き者ではなく、趣味に没頭する者、この時代だと茶道狂いを指すことが多い。
「だから、自ら茶道具に使える磁器を探しに来たと?」
「それもあろうが、彼の仕える三好家は畿内の実力者よ。三好家や家臣たちが必要とするものを頼まれているのかもしれない。目利きは確かだと評判だからな」
偉い人たちだから、褒美や贈答品としての需要もあるのかもしれない。
光輝は、そういう風に理解した。
「
光輝は、純粋に信長の情報収集能力を褒めた。
「このくらいはな」
信長も、仕えてもいない光輝に殿と呼ばれて褒められ、悪い気はしなかった。
「じゃあ、始めますね」
「我は見学だな」
信長は、今回のオークションに参加しない。
どうせ売り上げから運上金を払わないといけないので、その代わりとして欲しい磁器や財宝を渡すことになっていたからだ。
「さあ、大金を
当然、売り上げが多い方が信長が
心からオークションの成功を望んでいた。
「まずは、時代は
早速オークションが始まるが、会場は熱気に包まれた。
みんなこぞって磁器を手に入れようと、恐ろしい勢いで値段をつり上げていく。
「百貫だ!」
「百五十貫!」
「二百貫!」
「二百十貫!」
「こんな逸品、次はいつ手に入るかわからん! 二百五十貫!」
一つの
金や銀で支払う者も多く、むしろ持ち運びに便利なそちらで支払う者の方が多かった。
「文単位で競る人がいないね、
「お金って、ある所にはあるのね……」
特に、堺の会合衆田中与四郎、今井宗久、津田宗及はここぞとばかりに大金を言って強引に掘り出し物を購入していく。
松永弾正久秀も、限られた資金の中から優れた鑑定眼を使って
オークションには駆け引きの要素もあるので、優れた武士である久秀は勝者になりやすいようだ。
彼は大和の支配者だと聞いていたが、大名は収入に応じて人件費などの経費がかかる。
会合衆のようには、大金を使えないようだ。
「あのぅ……少し相談が……」
オークションが続くなか、こういう相談が多かった。
購入代金である銅銭は、
日本では平安時代から独自通貨が鋳造されておらず、明から大量輸入された質の良い永楽通宝が重宝されたのであったが、需要に対して圧倒的に供給量が足りなかったため、何百年も使ってボロボロになった
質が悪いものになると、漢字の刻印など見えずただ銅銭の形をした不純物混じりの銅の塊とか、半分に割れているようなものまで流通していた。
当然、それらはビタ銭と呼ばれて嫌われ、
「代金の一部を、ビタ銭で払ってもよろしいでしょうか?」
一人の商人が申し訳なさそうに言いながら、代金の一部としてビタ銭を大量に出してくる。
「ビタ銭は、七枚で永楽通宝一枚ですね」
「ありがとうございます!」
明代の青磁の水入れを落札した商人は、大喜びでビタ銭交じりの代金を払って商品を受け取る。
「なんだと! ビタ銭でも構わないのか!」
会場が色めき立った。
この時代、ビタ銭は受け取ってもらえないケースも多かった。
それが原因で殺傷事件まで発生したことがあるくらいだ。
それを光輝たちが無条件で受け取ると言ったので、支払いに大量のビタ銭が使われることとなる。
銭の山は、余計に大きく盛り上がった。
「ビタ銭ばかりだと困らぬか?」
「永楽通宝も沢山ありますから」
信長は、何も言わずにビタ銭を受け取る光輝たちに首を
「本人がいいと言うのであれば……何も言えぬか」
それから三日間もオークションは続き、出品した中国磁器はすべて予想以上の金額で売れた。
「次、金細工の水注し!
磁器以外にもこのようなものも引き揚げられたので、競売にかけられ大金で売れていく。
こうして戦国時代のオークションは、大盛況のうちに無事終了するのであった。
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