【書籍試し読み版】二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 1 ~裏切り王女~

木塚ネロ/MFブックス

プロローグ

 汚い、けがらわしい、気持ちが悪い、吐き気がする。

 改めて周りを見回せば、どいつもこいつもそんな人間ばかりだった。

 笑顔を浮かべて裏切り、ニヤニヤ笑って善意を踏みつけ、こうしょう混じりに毒を盛る。

 こんな奴らのために必死に闘っていたバカみたいな自分をしばき倒したいが、時間を巻き戻すことはできず、絶望するばかりである。

 だまされた俺が悪いと言われればそれまでの話で、だから、この結末は必然なのだろう。

 しかし、それで納得できるかと言われればそんなことはないわけで。

 胸に突き刺さる剣に命の源がこぼれ落ちていくのを感じながら、周囲を取り囲んだかつての仲間、いや、仲間だと思っていたモノたちを見る。

「………やったな」

「ったく、化物ですね、本当に」

「それもこれで終わりです。全ては神の御心のままに、悪は浄化されました」

 何でこんな奴らを信じられたのだろう。

 あぁ、これはきっと罰なのだ、盲目に信じるという言葉にすがった自分に対する罰。

 だからこそ、二度目があるなら、今度こそ間違えないようにしよう。

 だからこそ、もし次があるなら、確実に殺そう。


 王女を殺そう、騎士を殺そう、村人を殺そう、魔法使いを殺そう、戦士を殺そう、聖女を殺そう、武闘家を殺そう、暗殺者を殺そう、踊り子を殺そう、商人を殺そう、王様を殺そう、女王を殺そう、貴族を殺そう。


 こいつら全員、皆殺しにしよう、最も残酷な方法で、最も長く苦しむ方法で。

 来世でも忘れることはないように、心の奥に、深く、深く、深く刻み込む。


【システムメッセージ・ふくしゅうせいけんが解放されました】


 薄れゆく意識の中、そんな声が聞こえた。

 だが、もう体はピクリとも動かず、何もすることはできない。

『なぁ、わらわたちはどこで間違えたんじゃろうなぁ……、ただずっと、あの遊戯のような時間の中にいるために、どうすればよかったのかのぉ……、あるいは、最初からどうにもならなかったのか……。もし、また会うことができるのなら、今度はもっと、違う形で……』

 そうして、最後に思い出すのは、殺し合うしかなくなってしまった一人の少女。

 今の俺と同じように体に剣を突き立てられ、仕方なかったと力なく笑った、魔王と呼ばれた少女のこと。

「っくく、あはははっごっ、アバハヴァハッハハハハ!!」

 吐血混じりに笑い声が出た。

 本当に笑える話だ、世界の敵と、勇者の宿敵と言われ続けて戦うしかなくなった魔王の方が本当の意味で一番の味方だった。ピエロだってもう少しマシに踊るだろう。

「っち、まだ死なねぇのかっ!」

「いえ、もう彼に立ち上がる力はありません。ですが、巨悪の浄化には少し時間が掛かるのでしょう」

「そうですね、もうにらむくらいしかできないでしょう」

 笑い声に構え直す奴らの気配を感じながら、その通りだと思った。

 既に血を失いすぎて、思考すられいにまとまらない。

 ……だから、口をついたのはただ本能に刻み込んだ言葉だけ。

「あぁ、お前ら全員、絶対に殺してやるよ……」

 カチリッ、とHPの全損が確定し、意識が闇の底に沈んだ。

 俺は、けいかいは死んだのだった。


 システムメッセージ・チュートリアルモードを終了いたします。

 経過時間・04年98日17時間52分35秒。


 経過時間によるレベル・経験値退行処理を実行します。

 退行分が獲得経験値を超過したため、レベルが初期値までリセットされました。

 負債としてマイナス二万をプールします。

 経験値を鍵にレベルの上限を10レベルごとに設定します。


 負債上限を退行分が超過しました。

 超過した退行分に相応するスキルをはくだつ・退行処理を実行します。

 スキルの退行、剝奪に成功。スキルが完全初期化されました。


 退行分がスキルを超過したため、固有技能「心剣」の形態剝奪による退行処理を実行します。


 ………【復讐の聖剣】の効果により作業に失敗。


 剝奪処理を中止し、経験値を鍵とした封印処理へと移行します。

 封印処理に成功。58種類中53種類の「心剣」の形態が封印されました。


 超過した退行分の相殺が終了しました。


 モード開始地点までこう準備を開始。………完了。

 モード開始地点までの遡行を実行します。

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