四話 特別支度金 (2)

「ここがオススメの店ですよ」

「おお……」

 店の扉から店内をのぞき見ると壁に武器が掛けられていて、まさしく武器屋といった内装だ。

 他にも鎧とか冒険に必要そうな装備は一式取り扱っている様子。

「いらっしゃい」

 店に入ると店主に元気良く話しかけられる。筋骨隆々の、絵に描いたような武器屋の店主がカウンターに立っている。これでぶよぶよの脂肪の塊みたいな店主だったら嫌だったから良い。本当に異世界に来たんだなぁ。

「へー……これが武器屋かぁ……」

「お、お客さん初めてだな。当店に入るたぁ目の付け所が違うな」

「ええ、彼女に紹介されて」

 そう言って俺はマインを指差すと、マインは手を上げて軽く振る。

「ありがとうよ、お嬢ちゃん……? 嬢ちゃん、どこかで会った事ねぇかい?」

「前にも来た事があるから。この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」    

 そう言えばこの世界の基準だと、今の俺の服装は異世界の服だよな。

 ともすればお上りにしか見えないか、もしくは変な奴だ。

「親父さんも分かるでしょ?」

「となるとアンタが噂の勇者様か! へー!」

 まじまじと親父さんは俺を見つめる。

「あんまり頼りになりそうに無いな……」

 ズルっとコケそうになった。

「はっきり言いますねぇ」

 親父さんの言う通り、確かに頼りなくは見えるだろう。これから強くなるわけだし。

「勇者のアンちゃん、良い物を装備しなきゃ冒険者連中に舐められるぜ」

「でしょうね……」

 ははは、裏表ない気持ちの良さそうな人だ。

「見た所……はずれか?」

 俺の頬が引きつるのを感じた。

 どうして俺の噂の伝達は早いのだろうか。まあ、いい。気にしたら負けだ。

「盾の勇者である岩谷尚文と申します。今後も厄介になるかもしれないのでよろしくお願いしますね」

 念を押して親父に自己紹介だ。

「ナオフミねえ。まあお得意様になってくれるなら良い話だ。よろしくな、アンちゃん!」

 まったく、元気な店主だ。マインが親父さんに尋ねる。

「ねえ親父さん。何か良い装備無い?」

「そうだなぁ。予算はどのくらいだ?」

「そうねぇ……」

 マインが俺を値踏みするように見る。

「銀貨二五〇枚の範囲かしら」

 所持銀貨八〇〇枚の中で二五〇枚……宿代とか仲間を雇い入れる代金を算出すると相場なのかな。

「お? それくらいとなると、この辺りか」

 親父さんはカウンターから乗り出し、店に飾られている武器を数本持って来る。

「アンちゃん。得意な武器はあるかい?」

「いえ、今のところ無いんですよ」

「となると初心者でも扱いやすい剣辺りがオススメだね」

 数本の剣をカウンターに並べた。

「どれもブラッドクリーンコーティングが掛かってるからこの辺りがオススメかな」

「ブラッドクリーン?」

「血糊で切れ味が落ちないコーティングが掛かってるのですよ」

「へぇ……」

 そういえば俺の世界の刃物は何度も肉を切っていると切れ味が落ちるって聞いた覚えがある。

 つまり切れ味が落ちない剣って訳か。

 親父が持っている物を凝視すると、以前見た事のある模造刀よりも質感が凄い。

 中々の業物みたいだ。

「左から鉄、魔法鉄、魔法鋼鉄、銀鉄と高価になっていくが性能はお墨付きだぜ」

 これは使用している鉱石によって硬度が違うのか?

 鉄のカテゴリー武器って感じか。

「まだまだ上の武器があるけど総予算銀貨二五〇枚だとこの辺りだ」

 あれだよな。コンシューマーゲームだと最初の町の武器はあんまり良いのが揃ってない感じだけど、ここは結構な品揃えがあるようだ。となるとオンラインゲームに近い世界。いや、異世界の現実なんだから普通は大きな国の武器屋だと品揃えも良くなるか。

「鉄の剣かぁ……」

 徐に剣の柄を握り締める。あ、やっぱずっしりと重量がある。

 持ってる盾が軽過ぎて気にならなかったけど、武器は結構重いんだな。

 この武器で出会う魔物と戦うのかぁ……。

「イッ!」

 突然強い電撃を受けたかのように持っていた鉄の剣が弾かれて飛ぶ。

「お?」

 親父さんとマインが不思議そうな顔で俺と剣を交互に見る。

「なんだ?」

 俺は落としてしまった剣を拾う。先ほどのような変な気配は無い。

 なんだったんだ?

 そう思いながら考えを戻す。すると、またバチっと痛みが走る。

「イッテ!」

 だから何なんだよ、悪戯かと俺は親父を睨むが、親父は首を横に振る。マインが何かするはずも無いけど、俺はマインにも顔を向ける。

「突然弾かれたように見えましたよ?」

 そんな馬鹿な。ありえないと思いながら俺は自分の手の平を凝視する。 

 すると、視界に文字が浮かび上がってきた。


『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に反しました』


 なんだコレは?

 急いでヘルプを呼び出して説明文を探す。

 あった!


『勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘の意思を持って使用する事が出来ない』


 なんだって!? つまり俺は盾以外を戦闘で使うことが出来ないってのか!?

 盾だけで戦うなんてどんなクソゲーだよ。

「えっと、どうも俺はこの盾の所為で武器を戦いで使えないらしい」

 苦笑いを浮かべつつ、俺は顔を上げる。

「どんな原理なんだ? 少し見せてくれないか?」

 俺は親父に盾を持つ手を向けて見せる。外れないのだから仕方が無い。

 親父が小声で何かを呟くと、盾に向かって小さい光の玉が飛んでいって弾けた。

「ふむ、一見するとスモールシールドだが、何かおかしいな……」

「あ、分かります?」

 ステータス魔法にもスモールシールドと記載されていた。

(伝説武器)という項目が付いてるけど。

「真ん中に核となる宝石が付いているだろ? ここに何か強力な力を感じる。鑑定の魔法で見てみたが……うまく見ることが出来なかった。呪いの類なら一発で分かるんだがな」

 見終わった親父は目線を俺に向けてトレードマークの髭を撫でる。

「面白いものを見せてもらったぜ、じゃあ防具でも買うかい?」

「お願いします」

「銀貨二五〇枚の範囲で武器防具を揃えさせるつもりだったが、それなら鎧だな」

 盾は既に持っているわけだし、結果的にそうなるよな。

 親父さんは店に展示されている鎧を何個か指差す。

「フルプレートは動きが鈍くなるから冒険向きじゃねえな、精々くさりかたびらが初心者向けだろう」

 と言われて、俺はくさりかたびらに手を伸ばす。ジャラジャラと音が鳴る鎖でつながれた服。

 そのまんまだよな。防御は見たとおりって所か?

 ん? アイコンが開いた。


くさりかたびら 防御力アップ 斬撃耐性(小)


 ふむふむ、剣の時に項目が出てこなかったのは装備できないからだな。

「あれの値段はどれくらいなんですか?」

 マインが店主に尋ねる。

「おまけして銀貨一二〇枚だな」

「買取だと?」

「ん? そうだなぁ……新古品なら銀貨一〇〇枚で買う所だ」

「どうしたの?」

「盾の勇者様が成長して不必要になった場合の買取額を聞いていたのですよ」

 なるほどなぁ……俺もLv1だし成長したらもっと強力な装備が着用できるだろう。これより上の装備もあるようだけど、現状だとこれが一番効果が高いみたいだ。

「じゃあこれをください」

「まいど! ついでにインナーをオマケしておくぜ!」

 店主の気前のよさに俺は感謝の言葉もなかった。銀貨一二〇枚を渡し、くさりかたびらを手に入れた。

「ここで着ていくかい?」

「はい」

「じゃあ、こっちだ」

 更衣室に案内され、俺は渡されたインナーとくさりかたびらに着替えた。    

 元々着ていた服は店主がくれた袋に入れる。

「お、少しはそれらしく見えるカッコになったじゃねえか」

「ありがとうございます」

 褒め言葉なんだよなコレ。

「それじゃあそろそろ戦いに行きましょうか勇者様」

「おう!」

 冒険者っぽい格好になった俺は気持ち高らかにマインと一緒に店を出るのだった。

 それから俺達は城門の方に歩いて、城門を潜り抜ける。

 途中、国の騎士っぽい見張りが会釈してくれたので俺も元気良く返した。

 ワクワクの冒険の始まりだ。

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