三話 勇者相談 (2)

「そんな感じで気が付いたらこの世界に居た」

「そうか、幼馴染を助けるなんてカッコいいシチュエーションだな」

 俺のお世辞にクールを装って笑っている。もうそれは良いから。

「じゃあ次は俺だな」

 軽い感じで元康が自分を指差して話し出す。

「俺はさ、ガールフレンドが多いんだよね」

「ああ、そうだろうよ」

 何か面倒見のよさそうなお兄さんっぽいし。女の子が好きっぽいイメージある。

「それでちょーっと」

「二股三股でもして刺されたか?」

 錬が小ばかにするように尋ねる。すると元康は目をパチクリさせて頷きやがった。

「いやぁ……女の子って怖いね」

「ガッデム!」

  俺は怒りを露にして中指を立てる。

死ねこの野郎。いや、死んだからこの世界に召喚されたのか? 

 おっと、樹が胸に手を当てて話し出す。

「次は僕ですね。僕は塾帰りに横断歩道を渡っていた所……突然ダンプカーが全速力でカーブを曲がってきまして、その後は……」

「「「……」」」

 十中八九轢かれたか……なんとも哀れな最後だ。

 ん? この中で俺、浮いてないか?

「あー……この世界に来た時のエピソードって絶対話さなきゃダメか?」

「そりゃあ、みんな話しているし」

「そうだよな。うん、みんなごめんな。俺は図書館で見覚えの無い本を読んでいて気が付いたらって感じだ」

「「「……」」」

 みんなの視線が冷たい。

 何? 不幸な身の上でこの世界に来なきゃ仲間に入れてくれないのか? 

 ヒソヒソと三人は俺には聞こえないように内緒話をしだす。

「でも……あの人……盾だし……」

「やっぱ……元康の所もそう?」

「ああ……」

 なんだか馬鹿にされているような気がしてきた。話題を逸らそう。

「じゃあみんな、この世界のルールっていうかシステムは割と熟知してるのか?」

「ああ」

「やりこんでたぜ」

「それなりにですが」

 なるほどなぁ……となると俺だけ素人ってことになるじゃねえか! ひっでぇ。

「な、なあ。これからこの世界で戦うために色々教えてくれないか? 俺の世界には似たゲームは 無かったんだよ」

 錬は冷酷に、元康と樹は何故かとても優しい目で俺を見つめる。

「よし、元康お兄さんがある程度、常識の範囲で教えてあげよう」

 何か嘘臭い顔で元康が俺に片手を上げて話しかけてくる。

「まずな、俺の知るエメラルドオンラインでの話なのだが、シールダー……盾がメインの職業な」

「うん」

「最初の方は防御力が高くて良いのだけど、後半に行くに従って受けるダメージが馬鹿にならなくなってな」

「うん……」

「高Lvは全然居ない負け組の職業だ」

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 それは聞きたくなかった!

 何その死亡通告、俺は最初から負け組ですよと言いたげだな。おい!

「アップデート、アップデートは無かったのか?」

 職業バランスとか!

「いやぁシステム的にも人口的にも絶望職で、放置されてた。しかも廃止決定してたかなぁ……」

「転職は無いのか 」

「その系列が死んでるというかなんていうか」

「スイッチジョブは?」

「別の系統職になれるネトゲじゃなかったなぁ」

 げ!? これが本当なら難しい職業をやらされる羽目になるのか。

 俺は自分の盾を見つめながら思う。お前、そんなに将来が暗いのか?

「お前等の方は?」

 錬と樹に目を向ける。すると二人ともサッと目を逸らしやがった。

「悪い……」

「同じく……」

 えー! という事は俺はハズレを引いてしまったのか?

 放心する俺を横目に三人はそれぞれのゲームの話題に花を咲かせる。

「地形とかどうよ」

「名前こそ違うが殆ど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性が高いな」

「武器ごとの狩場が多少異なるので同じ場所には行かないようにしましょう」

「そうだな、効率とかあるだろうし」

 どいつもコイツも俺ってチート能力に目覚めたんじゃね? って思っているような気がしてきた。

 ……そうだ。俺が弱いなら仲間に頼ればいいじゃないか。

 やる方法は幾らでもある。俺がダメでもパーティーで戦えば自然と強くなれる。

 異世界といえば仲間達と一緒に戦い、心の繋がりを深めていく。これが王道だろう。

 仲間に女の子がいれば完璧だな。盾的には敵の攻撃を防いで守る感じか。元の世界では女の子と縁が無かったが、もしかしたらこれから出会いがあるかも。

「ふふ……大丈夫、せっかくの異世界なんだ。俺が弱くてもどうにかなるさ」

 三人から何かかわいそうな物を見る目で見られているような気がしたけど、気にしたら負けだ。

 そもそもだ。俺の装備は防具だし、ゲームとは違うんだ。成長する専用の盾を捨てて武器を使えば良い。

「よーし! 頑張るぞ!」

 己に活を入れる。

「勇者様、お食事の用意が出来ました」

 お? どうやら晩飯が食べられるみたいだ。

「ああ」

 みんな扉を開け、案内の人に騎士団の食堂に招待された。

 ファンタジー映画のワンシーンのような城の中にある食堂。そのテーブルにはバイキング形式で食べ物が置いてある。

「皆様、好きな食べ物をお召し上がりください」

「なんだ。騎士団の連中と一緒に食事をするのか」

 ぶつぶつと錬が呟く。これで文句を言うなんて失礼な奴だな。

「いいえ、こちらにご用意した料理は勇者様が食べ終わってからの案内となっております」

 そう言われて、俺は辺りを見渡す。

 すると騒がしいと思っていた人たちはコックであるのに気が付いた。

 なるほど、優先順位という奴か。俺達が食べ終えてから騎士団の連中に供すると。

「ありがたく頂こう」

「ええ」

「そうだな」

 こうして俺達は異世界の料理を堪能した。

 ちょっと不思議な味だと思ったけど、食べられない料理は無かった。

 ただ、オムレツっぽいのにオレンジの味がしたりと変わった食べ物がかなり交じっていたけど。

 食事を終えた俺達は、部屋に戻ると途端に眠くなって来た。

「風呂とか無いのかな?」

「中世っぽい世界だしなぁ……行水の可能性が高いぜ」

「言わなきゃ用意してくれないと思う」

「まあ、一日位なら大丈夫か」

「そうだな。眠いし、明日は冒険の始まりだ。サッサと寝ちまおう」 

 元康の言葉にみんな頷き、床に入った。

 俺を含め四人とも明日が待ち遠しいと思いながら就寝した。明日から俺の大冒険が始まるんだ!


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