第12話 アド・ファルルカの追想
私は赤ん坊の頃に教会の前に捨てられ、そこの施設で育ったため、年上の乱暴者が多い中で生き抜く為に、その力を使うようになった。それは魔力だ。
身を守る為という逼迫した中で魔力は爆発的に顕現し発せられ、その時には暴力沙汰に加担した者の中には身体の一部が欠損してしまい、再起不能になるような怪我人が出た。自分が魔力持ちだと知ったのはこの時だ。
けれど施設では力を使う事で叱られる等という事は無かった。食べるものにも困るような金回りの悪い施設では魔力持ちが出たとなると国から大金の支度金が支払われる。自然と施設では特別扱いとなった。だからと言って得意になるような可愛げはもう残っていなかった。唯一の友人と呼べた同期の子供が、いじめという暴力で少し前に亡くなっていた。
極限まで落ちた人に対する信用など塵屑といえる。誰も助けてはくれない。自分自身は自分で守らなければならない。
庶民の中では魔力を持つ者は希少であった為、それから8歳で教会の魔力検査で確かに有益と判断されて中央の魔術学院に行くことになった。
知識がつくと、自分が金茶色の明るい髪色をしている事から、貴族の庶子なのだろうと気付いた。分かった所で何かが変わる訳でもないが、庶子を産んだ女性には風当たりが強く、もし田舎など頼って戻れば身持ちが悪いと実家も村八分だ。子供を連れていては仕事も無い。そうなると自分が生きる為には生まれた子を捨てるしか無くなる。
奨学生として魔術学院に通い、そこで魔女であるというゼフレールと出会う。彼女は飛びぬけて美しく、才能の塊のような存在だった。彼女は自分の探求心を満足させるためと暇つぶしという名目で魔術学院に通いはじめたらしい。元来、魔女とはそういった性質を持っていて、長命で恐ろしいほどの魔力を持っているため、貴族でも道を開けて通すといわれる程だったが、彼女とは実習で同じ班になったのをきっかけに懇意になった。
国は魔女を従わせる事が出来なくとも、好意的な立場を保てれば悪くないという事で、彼女は好きなように魔術を極めていった。
魔女は気まぐれで、へそ曲がり。人を嫌う事が多く協力的ではないと言われる。異能を持ち長命な為、資産を多く持つ。だから王族に従うということは滅多にない。全ては気まぐれという事になる。
彼女もまた魔女の中では異端だったのかもしれない。
だが私とは気が合うというのか、誰よりも気さくに話せた。生活の中の物に対する価値観や考え方というのも似た部分があったのだろう。
人ではなく魔女だという事が逆に安心感に繋がった。
学院では殆どが貴族という中で、異端者同士、何となく気の合う仲間として長い付き合いになった。
街の旨い店や魔素ポイントの場所など、お互いの情報を共有し、魔術に関しても切磋琢磨した。
自由奔放な彼女には魅せられるばかりで、そのなにもかもに惹かれたが、私がそれを口に出すことはなかった。
彼女の近くで彼女を見ていられればそれで良かった。
自分にはただ眩しい存在で、彼女と同じ世界に居られれば、それで満足だった。彼女は私の幸福そのものだった。
その時間の流れの中で彼女は竜騎士と恋愛し、将来を誓う。私はただ見ているだけだ、邪魔をしたいなどとは毛ほども思わなかった。それよりも、恋をして浮き沈みする彼女の表情さえ新鮮で、相談事があれば乗り、協力も厭わなかった。
激しい感情のぶつけ合いや、ともすれば危うい色恋の間柄より、揺るがない友という立場で満足だった。それでよかったのだ。
ただ、ゼフレールは魔女で長命・・・必ず私よりも長く生きる。
そう思っていたのは私の思い込みで、彼女はその命をいとも簡単に散らしてみせた。
戦の中でブラノア将軍が前線で激戦を繰り広げていたのを、彼女は知っていた。
あのタイミングで彼女が彼を魔法陣で移動させ、命を助けた事で彼は片目を失うだけで済んだ。
まさか彼女が自分自身の命をかけてまで敵の術を飲み込むとは思ってもいなかった。
彼女と一緒に逝けるなら、本望だとさえ思っていた私はバカだ。
あの、彼女の一言がなければ、私は後を追っていただろう。
「娘を頼むわ。幸せになってほしいの」
――――残酷な君。だけど愛してる。
彼女のしたことは全て知っていた。彼女は私になんでも話したから。
私の幸福だったゼフレール。
君の望を叶える為に、私は今もここにとどまっている・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。