第13話 彼女と私

 ヴィートレッドが快く?私に協力してくれることになったので、今日は彼の王都での家であるルドラン侯爵邸で午後のお茶の時に彼女と会える予定になっている。タウンハウスだけどルドラン侯爵邸は手入れの行き届いた広大な美しい庭園のある屋敷だった。領地は片道馬車で一日半程度離れた場所にあると聞いた。


 私は彼の友人、ネトル男爵としてここに招かれていた。この名は国から爵位と一緒に貰ったもので、古語で棘草という意味がある。


 問題はフィルシャンテ嬢がお茶の招待をすっぽかさないかという事だけど、これは正式な招待状をブラノア伯爵家に送られているので大丈夫なのだろう。前回のすっぽかし事件もあり彼女は父親のブラノア伯爵にかなり怒られたようだという。


 ヴィートレッドの屋敷では、私は深くローブを被り顔を見せないようにしている。


 そして、彼女が護衛を連れて庭に現れた時、既に私とヴィートレッドは庭に用意されたお茶のテーブルについていた。


 私と同じ姿形をしているのに、フィルシャンテ嬢が髪を下ろしドレス一式を身に着けたその姿は自分とはかけ離れていて不思議な感じだ。ヴィートレッドはよく街の中で私をフィルシャンテ嬢だと思ったものだ。


「ヴィートレッド様、お招きありがとうございます」


 膝を少し曲げてちょこんと簡易的なお辞儀をする姿は貴婦人だ。サラリと顔を滑り流れ落ちる金髪も手入れが行き届いているなあと思った。私はこういう所作が気恥ずかしさが先に立ち、なんとなく苦手だった。


 母から貴族的な食事作法も学び、ダンスもヴィードを使って母から教えられた。何事も知識は大切だから知っていて損はないと言われて遊びがてらに習ったけど、後々の母の計画に私を貴族の世界に戻すという事が念頭にあったが為だったのだなと思う。素晴らしく中途半端で宙ぶらりんの教育法だ。こんなふうに母の行動の意味を確認できても、怒りや悲しみという感情は出てこなかった。


 しかたがない人だなって・・・。


「フィルシャンテ、久しぶりだね。今日はまた一段と美しい。会えて嬉しいよ」


 貴族って歯の浮くようなセリフを普通に話す。ヴィートレッドの貴族的で綺麗な笑顔は、自動人形ヴィードの笑顔と似ている。作った笑顔って感じする。


「ありがとうございます。先日はお手間をとらせて申し訳ありませんでした」


 対して、フィルシャンテ嬢は表情筋の死んだような無表情だ。口角くらいは上げたらいいのに。


「元気そうで何よりだ。それから、今日は友人が一人来ている。君に紹介するよ。ネトル男爵だ」


 ヴィートレッドが彼女に私を紹介してくれた。


 護衛は少し離れた場所で待機させているが、音の遮断をヴィートレッドがしてくれているので、話す事は聞かれる心配はない。それに私は護衛からは後ろ姿となるので、ローブを外したとしてもそのままでは顔は見えないはずだ。


「ネトル・・・?」


 視線がこちらによこされる。


「ジュジュ・ネトルです。初めましてフィルシャンテ嬢」


「――――そう・・・貴女が、本当のブラノア家の娘。とうとうやって来たという事なのね」


 しばらく考えてのち、彼女は言葉に感情を乗せずに、淡々とそう言い放った。意外な反応に驚いてしまい素で返答する。


「・・・貴女は私達の入れ替えを知っているの?」


 私は、彼女に話をしても信じてくれるだろうかと不安に思っていたけれど、まさか真実を知っていようとは思ってもいなかった。


「そうよ。あの人から聞いたから」


「あの人?」


「ええ。赤い髪の人.棘草の魔女」


 ヴィートレッドと思わず顔を見合わせた。と言っても私の顔はローブであまり見えないだろうけど。


「まさか貴女が真実を知らされているなんて思ってもいなかった」


「顔をみせてくれないかしら?」


 フィルシャンテ嬢の言葉にフードを下ろした。


 彼女は私がフードを下ろすと目を見張る。


「本当に私だわ・・・。いえ、私が貴女の姿を映しているのね・・・」


 そして、溜息のように大きく息を吐いた。ううん、これは溜息だ。彼女が自動人形だなんてとても思えない。


「ねえ、貴女は誕生日に何が起こるか本当に分かっている?」


「私の身体は自動人形で、#私達__・__#の誕生日に魔女の術が解けて、私が消えてなくなるってこと?酷いわよね。でも、本来なら死んでいた私に、生を与えてくれたと喜ぶべきなのかしら?」


 彼女の挑むような口調に怒りを感じた。


 

 


 




 

 

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