輪廻転生~その魂、下界を巡る~

@watanukimakoto

第1話 目覚める意識

 その魂は意識を手に入れた。


 いくつかの輪廻転生を繰り返し、この世界で存在する【スライム】という個体に転生した。


 意識とは言ったものの、感情や理性、また上位の存在が保有する物を、その魂はいまだ保有することはなかった。ただ自身の周りに何が起きているかを認識し、生き延びるために必要最低限の物のみだった。


 視覚はなく、感じ取ったもののみを頼りにその魂は生き続けた。


 その魂がスライムとなった時、その器は何者かの攻撃を受け絶命する瞬間だった。いや、絶命したのだ。そして、魂が入れ替わるように、魂が入り込んだのだ。全身に負荷を覆っていたが、スライムの特性で痛みはなかった。また、その魂は痛みを知らない。


【形状記憶】


 その魂が初めて手に入れたスキル。どんなに自身の形状が変わろうが元に戻る。それが【形状記憶】だった。


 やがてその魂は、洞窟と言われる地で魔石や様々な草、生物の死骸を食べ続けた。そして、学習を続けた。自身が食す物自体のデータ、またその物の場所、また時期を。


 しかし、月日が流れるごとに記憶するために必要な容量の空きが底を尽きた。


【記憶】


 その魂は新たなスキルを手に入れた。いや、変化させたのだ。記憶の容量がなくなり、生きることを止めたその魂は、死に際に【形状記憶】を【記憶】というスキルに変化させたのだ。無意識のことだ。そのことが分かったのは、次に生を受けた時だった。


 【ゴブリン】。その魂が次に入り込んだ生命だった。目が覚めたときその魂は驚愕した。

痛覚。そう、全身に激痛が襲っていたのだ。はじめは混乱したが、【記憶】というスキルにより、そのゴブリンに入っていた魂の情報が流れ込んだのだ。


「これが痛覚」


 その魂が記憶している中で初めて発した声だった。【記憶】により、スライムだった頃の記憶も残っていた。それゆえに再び驚愕した。何百年とスライムとして生きてきたが、その頃にはない感覚があったからだ。痛覚はもちろん、感情、理性、欲。


「よ、よかったぁ~」


 声がした。その魂が辺りを見渡すと他のゴブリンたちが自分を囲っていることに気づく。大量に流れ込むゴブリンの記憶を整理し、その魂は会話をした。


「死ぬところだったよ。もしかして、運んでくれたのかい?」


 ゴブリンの最後の記憶は冒険者と言われる人族に襲われているところだった。そこで記憶は途切れているが、推測することが出来た。


 殺されたゴブリンの器に私が入ったのだろう。そう推測した。


 ゴブリンとして転生したその魂は、新たな発見があるたび苦悩した。あくまで記憶が見られるだけで本人ではないのだ。それは誰かの記憶を書き記した本を読むということに近いだろう。順応しなければ生きていけない。


 その魂が一番に驚いたことは、生殖行為だ。


 スライムは分裂し、個体を増やす。しかし、ゴブリンは生殖行為にて個体を増やす。そのことに苦悩したのだ。


【矛盾】


 この言葉が正しいだろう。個体を増やす方法は分裂。しかし、現在の器では生殖行為なのだ。そして、その魂は理解した。認識を改めなければならないと。


「最近のお前変わったよな」


 仲間であるゴブリンの一人が、就寝につく前にその魂が入ったゴブリンに頬杖をつきながら話をかけた。


「そうかい?」


 なるべく、昔の魂の記憶通り生きているつもりであったが、その魂は理解した。少なからず、前世の記憶が干渉していることを。


「ああ、あまり子作りしてないだろう」


「確かにしてないかも。逆に君はすごいね」


 その魂はからかうように笑い、返答をした。


ゴブリンになった時から性欲は強くなった。生殖行為が生存に繋がるためそうなると理解している。それがゆえに再び転生するのではないかと、その魂は推測していたため、種としてではなく、個体としての生存には関係ないと考えた。その頃からその魂は、生殖行為をただの性欲の捌けとして認識した。そのため、性欲は無意識に抑えられ、回数が減ったのだ。


「すごいってもな、性欲があるからしゃあねーよ。むしろお前がすげえ」


 その後、月日がたち、ゴブリンとしての生命を全うした。


獲得スキル


【俊敏Ⅰ】:素早さの向上。【威嚇Ⅰ】:自身より戦闘能力が低い生物に恐怖を与える。


現在保有スキル


【記憶】【俊敏Ⅰ】【威嚇Ⅰ】


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