第54話

六郎さんが和泉さんにプロポーズした日。

輝子ちゃんが新幹線に乗って帰って行った日。

それは土曜日だった。


「土曜日にお役所に行ったんだよ。

 土曜日でもやってるお役所って有るんだね」


「今じゃ、珍しく無いですね、って!。

 じゃあ秋の話じゃ無いですか。

 もう今は冬なんですよ」


「そしたらさー、結婚っていろいろ書類が必要なのね。

 戸籍謄本が要るって言うの。

 長野から送って貰ったら、二週間もかかるって言われて。

 ビックリしちゃった」

「和泉さん、役所の人に掴みかかりそうになってましたよ」


「六郎さん、それは言わないでください」


和泉さんと六郎さんは楽しそうに話してる。

そう言われてみれば、二人の距離が縮まってるような気も。

もともと近いか。

しかも和泉さんの指にはリングが。

餅子ちゃんは驚愕。

主役が結婚したのが二ヶ月も前のコトなんて。

どうなってるのだ。


「リング、会社にはして来てませんでしたよね」

「だって、無くしそうでコワイんだもん」


大事にしてるんだよー。

と左手の薬指を撫ぜる和泉さん。

そういうもんじゃないとゆー気もするけど。


「役所の人が結婚届け受理できません、ってゆーから。

 プンスカしてたら、六郎さんが……

 指輪、その日買ってくれて指に嵌めてくれたの」


役所の書類手続きは少し遅くなるかもしれませんが。

これで私たちは夫婦です。


「……ってー。

 うわー。

 思い出すだけで顔が赤らんじゃう」


和泉さんは頬を染めて、餅子ちゃんの肩を叩く。

いや、聞いてるあたしだって恥ずかしいですから。

と餅子ちゃん。

六郎さんも少し照れた表情、そっぽを向いてる。


金津くんだけ複雑な顔。

なんか泣くのを我慢してるみたい。


いや、金津君だけじゃ無かった。

二人の青年も。


「いや、だから待てって」

「なんで俺達が知らないんだよ」


二人の青年が言う。


「今日新幹線の中で」

「初めて秀瑚ちゃんに聞いたんだぞ」


「和泉、勝手に結婚なんて」

「俺たちが許さないぜ」


和泉さんの弟、祐介と晴介。

周囲の人々を見回す。


「……そいで!」

「俺達の父さんより年上のくせに」


「和泉に手を出したって言う」

「とんでもないジジィは誰だよ」


上の弟、祐介は本庄猪丸に顔を寄せて睨む。

下の弟、晴介は金津新平くんにアゴを突き出す。

威嚇攻撃。


いや、俺じゃ無いぞ。

もちろん、僕じゃありません。


「アンタ、なんとなくスケべったらしそーだ」

「アンタもさっき、和泉を見る目に下心が感じられたぞ」


本庄猪丸と金津新平くんに指を指す兄弟である。

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