『こぼれ話 大学生だよ和泉さん』

第42話

お金が無かった。


両親に啖呵を切ってしまったのだ。

仕送りは要らないよ。

アルバイトで何とかして見せる。

アタシだって大学生。

学費だけ出して貰えれば充分。

バイトと学業の両立位して見せるって。


なんて格好いい、柿崎和泉。

世間知らずで、現実が見えてないから何でも言えちゃう。


東京なんて、時給の高いバイト口がいっぱいあるんだよ。

確かに 東京都、バイト、で検索すればたくさん出て来る。

時給1500円以上なんてのもザラ。


大学に近くて安い賃貸に住んで、割の良いバイトすれば。

何とかなるのでは。


そんなハズは無かった。

当たり前のトーゼン。


時給の高いバイトをキチンと調べて見れば。

何だか怪しすぎるフロアレディの募集。

お店の場所さえちゃんと書かれていない。


幾つか検索してお店の住所が書いてあるのをやっと見つけて。

偵察に行って見れば、そこはバニーガールのお姉さんがいる店だった。


いや、和泉。

水商売だって、商売だよ。

職業に貴賤は無いって言うじゃない。


でも。

自分のカラダを眺める。

膨らみの無い胸元。

無理ムリムリィ。

多分、お客さんに金返せって言われる。

きっと言われる。

絶対言われる。


いや、そう言う問題じゃないでしょ。


だいたい和泉さんはまだ18歳。

春から大学に通う女子大生。

アルコールを出す場所で働く気は無い。


親に知られてでも見ろ。

いくらお気楽な両親だって怒る。

下手したら東京に行く事を許さないと言い出しかねない。



安い賃貸。

6畳の部屋。

古いけれど、内装写真はまあまあキレイそう。

お風呂、トイレも着いてる。

和泉さんの通う大学にも近い。

駅を挟んで逆側だけど15分も歩けば着けちゃう。

交通費がかからない。


お家賃は東京にしてはとんでもなく安い。

写真だけネットで見て決めてしまった。

長野住まいの和泉さん。

東京にそんなにしょっちゅう出かけてらんない。


引っ越しを手伝ってくれた弟達は言った。


「和泉、この部屋すぐに出ろ」

「解約手続きはしておく。

 一ヶ月は家賃払わなきゃいけない決まりだ」


「その間に別の場所探して住むんだ」

「引っ越しはまた手伝ってやる」


誰も頼んでないのに弟たちは勝手にやって来た。

引っ越しの手伝いと称して。


「何でよー」


「当たり前だ」

「こんなとこに和泉を一人で置いておけるか」



賃貸はボロいビルディング。

一見するとアパート、マンション風じゃない。

暗い壁の色。

目立たない駅の裏道に立ってる五階建て。

何故か入り口にカウンターらしき物。

でも誰もいない。


ボロいエレベーターに乗って5階のお部屋に行って見る。

洋風のお部屋。

天井に照明が付いてるのだけど。

何故だか明るさの変えられる機能付き。

窓は小さい。

外が見えないし、表からも見られない曇りガラス。

お風呂は不思議な鏡張り。

キッチンは後から無理やり付けた感。


「これ、絶対マンションとして作られた物件じゃない」

「てゆーか、多分アレだろ」


弟が顔を赤らめる。

小さい声で言う。


「ラブホ」

「客が入らないアレをマンション風に改造したんだ」


周りの住人は外人さんばかりらしい。

部屋までの途中出食わした。

黒人さん。

中近東風な人もいた。


「いいじゃない。

 ボン〇ーガールだよ。

 頑張ってる夢ある女性達が同じような環境で暮らしてるんだよ」


「いや、ボン〇ーガールだってここは選ばねーよ」

「和泉、正気に戻れ。

 周りは外人ばっかだぞ。

 日本人女子大生が暮らす場所じゃ無いんだよ」


弟たちの言う事ももっとも。

分かってはいるのだが、チューガクセーに頭ごなしに言われて素直に受け入れる和泉姉さんじゃないのだ。


「大丈夫。

 外人って、外国人さん差別する気?

 あの人たちだって頑張って働きに来てるんだよ」


「そりゃ、そうかもしれないけどよ」

「和泉、ホンキかよ」


和泉さんはツーンと横を向く。

弟達じゃどうにも出来ない。



「和泉姉さん、落ち着いて」


静かで奇麗な声が響く。


弟の祐介、晴介が言う。


「秀瑚ちゃん、言ってやって」


小柄な少女。

パッチリした瞳は愛らしい。

唇はリップも塗って無いのにピンク色。


「和泉姉さん、落ち着いて。

 ホントにここで暮らしたいの?」


ヒデコちゃんにそう言われるとな。


和泉さんは本当は外人さんが恐い。

いや、勿論謂れの無い差別をする気は無いのだけど。

普段、見慣れて無いのだ。

さっきエレベーターで会った黒人さんはスゴかった。

筋肉ムキムキ。

Tシャツから出るその腕は、和泉さんのウエストくらいは有りそうだったのだ。

弟達が横に居なければその場で悲鳴を上げてたかもしれない。


「多分、ここは外国人の方向け物件よ。

 そこで暮らしちゃいけない訳じゃ無いけれど。

 和泉姉さんだってホントは嫌でしょ。

 初めての一人暮らしだもの。

 こんな場所じゃ気が休まらない。

 それ位分かるでしょう」


静かにゆっくりと秀瑚ちゃんが話す。

うん。

素直に頷いてしまう和泉さんなのだ。
























どーも。

くろです。

スイマセン。

11月から冬の章を投稿すると予告してましたが。

こぼれ話をお届けします。

元々冬の章の中に入る筈だった和泉さんの大学生時代。

書き出したら長くなって、こぼれ話として独立させました。

一話2000文字前後、毎日投稿、全七話予定。

今まで『和泉さん』は一話1000文字前後でお送りしてましたが。

今回2000文字前後で書いてみました。

少し雰囲気の違う『和泉さん』です。

本人もまだ若いしね。

六郎さんも出て来ますよ。

4回目、45話目です。

お楽しみに。

ではでは。

くろでした。

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