『こぼれ話、金津新平くんと柿の木』

第18話 

「柿ですか?」

「そう、柿の木」


言ってるのは餅子ちゃんと和泉さん。

なんと六郎さん家の庭に柿の実が成ると言うのである。


餅子ちゃんは聞きながらホントに東京の話か!などと思ってる。


「苗木で植えたんだよ。

 玉江さんが買ってくれたの」


最初は和泉さんの腰の位置までしか無かった小さな苗木。

あれよあれよと育って、既に和泉さんの身長の倍以上。

桃栗三年柿八年。

そろそろ八年。

去年あたりからいい感じの柿の実が成りだしてるのだ。


「去年はカラスにやられちゃったんだ」


と言いつつ和泉さんの顔は少し引きつっている。

思い出してしまった。



柿の実が少しづつ緑から黄色へと色付くのをニマニマ眺めていた和泉さん。

それなのにある日、お家に帰ってきたら柿の実が全滅していたのだ。

都会の猛獣。

黒い天敵。

カラスである。


おのれ、アタシの可愛い柿の実ちゃんを。

和泉さんはバーサク。


「六郎さん、電気ショック買いましょう。

 ワイヤー張って、電気通すんです。

 イノシシ用のですからカラス位ぶっ殺せます」

「落ち着きましょう、和泉さん」


六郎さんが和泉さんの頭を撫でる。

ふーっ、がるるるる。

どうどう。

狂暴化した和泉さんを宥める六郎さん。


「そんな強力なの下手したら和泉さんだって危険ですよ」


他にもカラス避けはいろいろ有るでしょう。


そんな訳で今年はフクロウのくーちゃんが柿を護っている。

本物じゃない。

作り物。

リアルタッチのフクロウフィギュア。

更には昼間ソーラー充電。

夜は大きい目が光るというスグレモノ。


よしっ、くーちゃん頑張れ。

和泉さんはくーちゃんと名付けて応援。

フクロウのくーちゃん。

くーちゃんは和泉さんの期待に応えて働いた。

今年は柿の実が、緑から黄色へ更にオレンジ色へと成長したのだ。


「という訳で週末、収穫しようと思って。

 少し貰って」


見える範囲で数えて見たらスゴイ量なのだ。

柿の実は50個を越えてる。

下手したら100個くらい有るかも。


100個の柿!

どう考えても和泉さんと六郎さんじゃ食べきれない。


「分かりました。

 収穫手伝えって話ですね」

「あははは、

 分かっちゃった」


和泉さんは笑ってゴマかす。

餅子ちゃんは納得。

まあいいか。

東京で柿の実が成るお家なんて珍しい。

光景を拝むだけでも話のネタになる。


「あのっ、良ければ僕もお手伝いしましょうか」


言い出したのは横でコッソリ聞いてた男性。

金津新平くん。


「えっ、いいの」

「はいっ、男手も必要かななんて。

 僕でお役に立てれば」


「いいですよね、和泉さん」


餅子ちゃんは話を進めるモード。

金津くん、意外と積極的じゃん。


思案顔の和泉さん。

変った子だな。

せっかくの週末のお休み。

アタシだったら上司の家に行くなんて絶対ヤだけど。


金津くんはニコニコ顔。

ヤル気が溢れてる。


「そっか、金津くん。

 柿が好きなのか」

「は、はいっ。

 柿(崎)さんが好きです」


カッコの部分はモニョモニョ小さい声で答える金津新平くん。


「分かった、なら良いよ。

 手伝って」


和泉さんは聞こえてない。

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