第19話

さて土曜日。


甘粕餅子ちゃんの案内で金津新平くんは長尾六郎さんのお家へ。


「うわー、なんだか趣の有る家ですね」

「趣というか古い家よね。

 地震が来たら全部崩れそう」


「よく来てくれたね」


柿崎和泉さんがお出迎え。

今日の和泉さんはジーンズに厚手のトレーナー。

汚れてもいい、スタイル。

木登りするかもしれないのだ。

オシャレ着なんて着れない。


ちょっと残念な餅子ちゃん。

職場の上司の私服を見てキュンとする金津くん。

そんなパターンを少し想像していたのだけど。


餅子ちゃんはコットンパンツに明るい色のカーディガン。

さすがにスカートでは無いモノの。

本気で木登りする気は無いでしょ。


金津くんは青のシャツとカーゴパンツ。

一応、汚れてもいい風。


おおっ、私服の柿崎さん。

いやまあ、スーツだって本人の服なのだけど。

お家着を見るのはハジメテ。

金津くんはちょっとトキメイてる風情。


新平くんは和泉さんならなんでもいーんだ。

餅子ちゃんは呆れ気味。


「スゴイ、5メートルくらいは有るんじゃないですか」


東京の住宅街に有る木なのだ。

大したコト無いだろうと予想してた餅子ちゃん。

思った以上に柿の木は大きかった。


金津くんが昇ってく。

和泉さんが木登りしようとしたのだけど。

その為に来たんですからと登っていった。

木の幹が分かれてる所に足を乗せ、太い枝をしっかり掴む。

うわっ、ビックリした。

なんだ作り物か。

フクロウのくーちゃんに驚く金津くん。

もう柿の実に手が届く。


「受け取りますから放ってください」


下にはいつの間にか男性がいた。

和風の服を着た男性。

柿崎さんのお父さん?

にしては若いかな。

お兄さん?


金津くんは実を放る。

男性は受け止めた。

ナイスキャッチ。


「一個ずつは効率悪いですね。

 そこの小さな枝ごと切っちゃってください」


男性は小型のノコギリを差し出してくる。

園芸用のモノかな。


「はいっ」


男性の指差す枝を切っていく。

その先には柿の実が6、7個は成っている。

枝ごと落とすのを男性が受け止める。


初対面の男性にこき使われているのだけど。

あんまり悪い気はしない。

この男の人の雰囲気が優しいからかな。


「お見事。

 じゃあ、次はその上の枝もお願いします」


六郎さんはニコヤカに笑う。

金津新平くんもニッコリだ。


和泉さんは落とした枝から実だけ外して袋に入れてく。


あれー。

ここは恋のライバル登場にバチバチっとする場面じゃなかったの。

そんな事を思いながら見つめる餅子ちゃん。

全く手伝ってないね。

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