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「――ということで、散歩に行こうかと思うんですが、どうでしょうか?」
早速、次の日のお昼寝中に相談してみた。
普通の園なら職員室で会議となるのが基本だろうが、人手の足りないうちの職場は保育室で実施する。寝息を立てる子ども達の横で真面目に話し合いだ。
「うん。いいんじゃないかしら?」
「私も……いいと思います」
蛍さんとえみるさん、どちらも好感触だ。
「さすがに一ヶ月ずっと園内だけってのも、そろそろ飽きが来ちゃうものね。国に出す書類としても、変化がないと仕事の怠慢やら予算の横領やらを疑われかねないし、最悪の場合計画自体が打ち切りになっちゃうから」
「うわぁ、世知辛い」
「結構シビアなのよね。余裕がないとも言えるけど」
国から求められているのは、異種族の保育を行う施設としての実績だが、国の予算を使っている以上無駄遣いは許されない。結果が出なければ容赦なく終了宣告だ。
そのため提出する書類が異常に多いのだが、それならもっと予算を増やしてほしい。いくら園児が十一人程度とはいえ、今後のことを考慮すると園庭は狭いし資材も足らない。子ども関係にお金を使わなかったから少子化したというのに、旧態依然とした姿勢が正されるのはいつになるのか。不正の可能性ばかり考えて金を出し渋ってばかりでは、どんな事業もうまくいかないというのに。
なんて、文句言ったところでオレの仕事が変わる訳じゃないけどさ。最前線で仕事している身としては、物申したくなるものだ。
「それで、行き先はどうする予定?」
「そこなんですよ、問題は」
ただ歩き回るだけの散歩なんて、ただの健康作りの習慣だ。明け方のご老人じゃあるまいし、それだけではつまらない。子ども達に散歩の期待感を持たせるためにも、目玉となる行き先を決めないといけないのだ。早い話、遠足のコンパクト版。目的地に対するワクワク感が重要である。
「今のところ、近場に公園はあるんですが……」
「で、でもあそこは……ちょっとマズイですよ」
えみるさんが危惧しているのは公園の立地だ。
園からすぐの公園は敷地が狭い上に、真横には大きなマンションが建っている。異種族の子どもが遊ぶのに適した広さとは言えないし、マンションの住民からのクレームが怖い。近いからといって考えなしに行けば、面倒なあれこれが大噴出してくるだろう。やめておくのが吉だ。
「それなら少し離れているけど、駅前の公園の方がいいんじゃない?」
蛍さんが提案した行き先は、園からやや遠い場所に位置する公園だ。行き帰りに時間はかかってしまうが、駅周辺なら騒音を気にする人も少ないだろう。行き交う列車も子ども達の興味を引くだろうし、こちらが最適解かもしれない。
「ただ、こっちは道が危険なんですよね……」
問題は大通りを通って行く必要があるということだ。人間が使用する車両は数を減らしたが、代わりに大柄なケンタウロス族が巨大な貨物馬車を引いて、アスファルトの上を走行するようになった。自然に優しいという観点から運送関係で重宝されているが、事故発生の可能性はそのままだ。毎日どこかで交通事故が起きている。鉄の塊じゃないだけマシかもしれないが、自分達が巻き込まれるのは勘弁だ。
「他に良さそうなところはない?」
「遊べる場所というと、これくらいしかないですね……」
移民は順調に進んでいるが、社会全体で見るとまだ発展途上もいいところだ。様々な幼い異種族が一堂に集まる、なんて状況を想定している場所なんてほぼない。うちの園くらいだろう。それに移民をよく思っていない人だっているのだから。
「やっぱり、駅前がベストですね」
公園との行き来に多少のリスクはあるが、総合的に見たらこちらの方が断然良いだろう。子ども達が心置きなく遊べる方が大切だ。
「でも大丈夫?道中危なくない?」
「それは……最悪、ダメそうだったら早めに帰ってきます」
別に必ず辿り着かないといけない、なんてきまりはない。散歩の計画を遂行するのに意固地になって、子どもを危険に晒すなんて本末転倒。安全第一が保育の原則だ。
園外に出ること自体が初めての取り組みなのだから、慎重にやっていくしかない。覚悟と責任を胸に、心して引率をしないとな。
「えみるさんも、それでいいかな?」
「は、はい……頑張って……ついて行きます」
あとは必要な道具の準備と散歩計画書の作成だ。やらないといけない仕事はまだ大量に残っている。当日ギリギリになるなんて失態をしていたら、安心して散歩に行けないのだから。みんなが寝ている今のうちに済ませてしまおう。
「…………ふぇっ」
「げっ」
だが、そんな時に限って邪魔が入るものだ。特に保育という、生き物且つ幼い相手の仕事では。
「ピ……ピィ、ピイイイイイイイッ!」
ウィンちゃんが空気を切り裂くような鋭い鳴き声、否、泣き声を上げた。悪い夢でも見てうなされたせいだろう。鳥類らしくけたたましい声量だ。
朝の目覚ましに鳴く
「くっ……!」
オレは眠ったまま大泣きするウィンちゃんを抱き上げて、すぐさま廊下に飛び出す。これ以上保育室で泣き続けられると、他の子までどんどん起き始めてしまう。そうなれば確実にフィーバータイム突入、子ども達の対応を迫られるだろう。当然、仕事の「し」の字も出来なくなるのだ。
「ピィッ、ピッ、ピィィッ……!」
「オーケー、オーケー。先生がいるから安心して眠っていいぞ~……そうだ、お歌も歌ってあげよう――てばもとっ!?」
寝相の悪さによるキックが
今日のウィンちゃんは、爪が短めに切ってあって良かった。長かったらケガは必至、下手すれば
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