モンスター園児ライフ~異種族ロリショタがかわいい今日この頃~

黒糖はるる

プロローグ


 オレは、子どもが好きだ。

 いやいや、ちょっと待ってくれ。別にロリコンって意味じゃない。ましてや手を出す犯罪者でもない。むしろ子どもに害をなす相手は大嫌いだ。勘違いしないでほしい。

 そもそもオレは保育士、子どもを預かり育てるのが仕事だ。好きじゃない方がおかしい。子ども嫌いな人間が保育士なんてやったら、半日と持たずに逃げ出すだろう。それぐらいに過酷なのだ。

 今は関わりのない人も、将来自分の子どもと仲良くするためにも、早いうちに子どもになれておいた方が良いと思う。それくらいに大変だ。


 話が脱線してしまったな。

 それで、その預かっている子どもについてなのだが、これまた中々のモンスターっぷりなのだ。新人のオレでは手に余る。もはや戦場だ。

 ではモンスターと聞いて、どんな子どもの姿を想像しただろうか。

 大泣き?

 跳ねっ返り?

 度の過ぎた暴れん坊?

 ぱっと思いつく範囲の、育てるのが大変そうな子どものイメージはこんなところだろう。

 だが、うちの子ども達はそんなレベルじゃない。段違いだ。

 思いついたイメージ全てであり、更に大きな要素を加えた、それ以上の存在だ。

 モンスターというのは、比喩表現なんかじゃない。本当に文字通りモンスター……人間とは姿形のちがう、異種族の子どもなのだ。


 ラミア、ケンタウロス、ワーキャット。

 ドラゴニュート、クラーケン、ハーピィ、ガーゴイル。

 アラクネ、フェアリー、エルフ、スライム。

 オレが勤める園には、全部で十一人の異種族が通っている。

 みんな違って、みんな規格外。人間の子どもとは姿や習慣、考え方に育ち方までてんでバラバラ。まさに多様性の宝庫、否、雑多に詰め込まれた玩具箱おもちゃばこそのもの。開けたら最後、収拾が付かない魔の箱だ。

 日々衝撃と驚愕の連続で、子ども達のぶっ飛んだ生態に振り回されっぱなし。全然セオリー通りになんていかない。

 そして最近一番の悩みの種が――


「せんせー、だーいすきっ!」

「ぼあっ!?」

「きょうもわたしと、ラブラブするもんね~❤」


 ――ラミア族の女の子からの、熱烈な求愛行動だ。下半身がへびの、巨体の幼女が激しく抱きついてくる。尻尾を絡ませてギリギリと胴体を締め上げながら、ねっとりとしたピュアな愛を、耳元でささやいてくる。細長い舌がチョロリと当たって、背中がぞくぞくと震えてしまう。

 どうしてこうなったのか。オレのことを自分の彼氏だと呼び、毎日のように抱きつき、まるで恋人同士のように振る舞ってくる。大人びた絡み方も日常茶飯事だ。

 どうせ子どものやることでしょ?恋愛感情だと思うなんて、ロリコンの発想じゃないの?

 そう思う人もいるだろう。しかし彼女の「大好き」は本気なのだ。

 というのも、ラミア族が恋をする……伴侶はんりょを探して求愛行動をとるのは、幼児期から始まるからだ。その行動はつたなさこそあるものの、本能的に行われており、幼い時期に見つけた相手と結婚した例が実際にある。つまりこのアピールは、「子どもの戯言ざれごと」の一言で片付けてはいけない、生態上重大な出来事だ。

 彼女だけじゃない。この園で生活する子ども達は人間とは違う特性を持っていて、「普通の子ども」という概念は一切通じないのだ。


「うわぁ、ラブラブだねー」

「ロリコン、キモいニャ」


 ケンタウロス族とワーキャット族の子の、正反対で直球の感想が胸に突き刺さる。どちらも否定したいのだが、締め付けが強くて声が出ない。ヒューヒュー、息をするだけで精一杯だ。子どものパワーとあなどるなかれ。ラミア族は子どもでも、成人の人間並の力を発揮する。もろい人間なら骨が折れてもおかしくない。学生時代にモテようと体を鍛えていたおかげで、耐久力だけはあるのが救いだ。

 幼女達とたわむれる、男性保育士の姿。はたから見れば、微笑ましいと捉えられるだろうか。それとも犯罪一歩手前に見えるだろうか。

 ロリコンなら幼女との触れあいを天国だと感じるかもしれない。無条件に「大好き」と言われたら、舞い上がる気分なのかもしれない。

 だが、残念ながらオレは違う。ちゃんと成人した、思いを寄せる相手がいる。共に異種族の子ども達に囲まれて働く、保育士の女性だ。


 オレがこんなモンスターまみれの、前代未聞な職場で働いている理由の一つは、意中の相手と仲良くなるためだ。学生時代から好きだった人と、一緒に働いているという、実は最高に恵まれている状況なのだ。

 なのにその恋は未だ実らず。関係は何一つ変わらず。

 それもこれも、全部ラミア族の子が、毎日のように激しく愛を伝えてくるせいなのだ。一途な恋路を邪魔されて、迷惑極まりない。


 さて、どうしてこんな状況になったのか。話は数ヶ月前にさかのぼる……。

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