第82話 猫カフェデート

 夏休みが明けて内定式も終わり大学卒業が徐々に近づいてきた事を感じる10月下旬の今日、俺と実乃里はデートで猫カフェに来ていた。

 これは猫好きな実乃里からの提案であり、俺も動物好きであるので結構ノリノリで猫カフェに付いて来ている。

 入り口でそれぞれドリンクを注文して利用の注意事項を聞いた俺達は、早速猫達のいるエリアへと入っていく。

 ちなみにドリンクは完成次第呼び出しベルが鳴り、自分達で取りに行く方式らしい。


「わぁ、猫ちゃん可愛い」


「結構たくさんいるな」


「ここは20匹くらい猫ちゃん達がいるみたいだよ」


 猫カフェに来るのは初めての俺がキョロキョロしていると、実乃里は近くにいたキジトラ猫をモフり始める。


「春樹君も触ってみてよ、ふわふわだから」


「……本当だ、すべすべしていて触り心地がいいな」


 実乃里に促されて猫の体をそっと撫でると、確かにめちゃくちゃ触り心地が良くてふわふわだった。

 猫は特に嫌がる様子なく実乃里からモフられ続けており、少し気持ちよさそうにも見える。


「そう言えば実家で猫を飼ってるって言ってたよな」


「うん、今5歳の雄でグレー柄のメイプルって名前なんだ。それでね……」


 俺と違って明らかに猫に触り慣れている実乃里の様子を見てそう話しかけたところ、変なスイッチが入ったのか一方的に実家にいる猫の話を始めてしまった。

 よっぽど猫が好きなのか、千葉の実家まで定期的に顔を見に帰っているらしい。

 そんな実乃里のマシンガントークを聞いているうちに呼び出しベルが鳴り始めたため飲み物を取りに行く。


「コーヒーとかを注文するとラテアートを描いて貰えるのか」


「そうなんだよ、注文の時にホットドリンクを注文すると好きなラテアートを指定できるんだよね」


 実乃里が注文したホットコーヒーには可愛らしい姿をした猫が描かれていた。

 俺は何も考えずにコーラを注文したが、ホットドリンクを注文しておけば良かったと少しだけ後悔する。

 それから俺達はテラアートの写真をスマホで撮った後、ドリンクを飲みながら猫達撫で回す。


「あっ、そうだ。これを使えばもっと猫ちゃん達と遊べるかも」


 そう言うと実乃里は近くに置いてあった釣竿型のおもちゃを手に取り揺らし始める。

 すると近くで座っていた三毛猫が立ち上がって寄ってきて先端についているおもちゃを追いかけ始めた。

 おもちゃを揺らしたり振り上げることで猫は辺りを走り回ったりジャンプしたりと、かなりアクティブな動きをしている。


「めちゃくちゃ手慣れてるな」


「実はうちの猫もこれが好きなんだよね、春樹君もやってみる?」


 釣竿型のおもちゃを渡された俺は猫の前で揺らしたり振ったりしてみるが、何故か反応があまり良くなかった。


「うーん、嫌われてるのかな。それとも俺のおもちゃの動かし方が下手なのか……」


「むやみにおもちゃを振るだけだと猫ちゃんはあまりのって来ないんだよ。おもちゃを獲物に見せかけて、動かしたり止めたりランダムに動かすのがコツだね」


「なるほど、次はそれでやってみるよ」


 実乃里に教えてもらったコツ通りにおもちゃを動かし始めると猫は反応を示して動き始める。


「そうそう、そんな感じだよ」


「凄い、さっきと明らかに反応が違う。流石実乃里だよ」


 それからしばらくの間、色々なおもちゃを使って実乃里と2人で猫と遊び続けていた俺達だったが、流石に疲れてしまったため休憩する事にした。

 足を伸ばして静かに座っていると近くを歩いていた白猫が俺の膝の上に乗ってくる。


「今日って結構寒いから膝の上で温まりにきたのかもね。猫ちゃん達にとって人肌はちょうどいい感じの温度らしいから」


「へー、それで乗ってきたのか。そう言えば確かに周りの人の膝にも猫達が結構乗ってるもんな」


 実乃里の膝の上にも茶トラ猫と白黒猫の2匹が気持ちよさそうな表情で乗っていた。


「それにしても猫カフェって楽しいな。初めてきたけど結構満足してる」


「でしょでしょ。私も友達とよく来てるけど猫ちゃん達が可愛いから何回来ても飽きないんだよね」


「男だけで遊んでると絶対来ない場所だからかなり新鮮だよ」


 男同士で遊ぶ時はだいたいボウリングやバッティングセンター、カラオケなどに行く事が多く、猫カフェという選択肢など出るはずが無いのだ。


「……名残惜しいけどそろそろ次の場所へ行こうか」


「もうこんなに時間が経ったのか。本当にあっという間だったな」


 スマホで時間を見て既に1時間以上が経過している事に気付いた俺は驚いた。


「またね、猫ちゃん」


「楽しかったよ、さようなら」


 俺と実乃里はゆっくり膝から猫を降ろすと立ち上がって会計に向かい始める。


「猫カフェ、楽しかったからまた来てもいいな」


「本当? じゃあ他にもオススメの猫カフェがたくさんあるからまた一緒に行こうよ」


 俺がつぶやいた一言を聞いていた実乃里はかなりハイテンションな様子でそう話しかけてきた。

 近いうちにまた実乃里とどこかの猫カフェへ行く事になりそうだ。

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