第55話 プレゼント探し
来年3月の本格的な就職活動解禁に向けてOB訪問やリクルーター面談などへ参加する俺だったが、気付けば11月を迎えていた。
お互いに就活や公務員試験講座でバタバタしていて予定が合わなかったため残念ながら今年は西洋大学の学園祭には参加できていない。
そんな忙しい日々を過ごす中、今日は時間ができたため以前クリスマスデートで訪れた複合商業施設へ買い物に来ていた。
「うーん、実乃里は何が喜ぶかな……」
俺はうろうろとあちこち色々な店を見て回りながら実乃里へ渡すプレゼントを探していた。
もう少しでやってくる11月23日、国民の祝日である勤労感謝の日は実乃里の誕生日なのだ。
祝日が誕生日のため必ず休みになるのは少し羨ましいと思う俺だったが、学校が休みだったせいであまり祝えて貰えなかったらしく実乃里的には昔からちょっと不満だったようだ。
11月14日という何の変哲もない普通の日が誕生日であり、友達から忘れられている事も多々あった俺からすれば是非とも誕生日を交換して欲しいと思ったりするわけだが、これがいわゆる隣の芝生は青く見えるという奴なのかもしれない。
そんな事を考えながらも実乃里のプレゼントを探し求めて施設内を歩いているが、今のところピンとくる物は無かった。
しばらく歩き視界に入ってきたアクセサリーショップで足を止め女性用のネックレスやイヤリングをゆっくり見始める俺だったが、アクセサリーをプレゼントにするかどうかはかなり迷ってしまう。
「アクセサリーとかもプレゼントとしては全然悪くない気はするんだけど俺の好みで選んだ奴だと実乃里の趣味に合わない可能性もあるんだよな……」
以前クリスマスにプレゼントしたマフラーは実乃里が欲しそうに見ていた物を選んで買ったわけだが、今回のアクセサリーに関しては好みが分からず判断材料が無いため困っているのだ。
優しい実乃里であればきっと何をあげても喜んでくれるとは思うが、どうせプレゼントするのであれば心のそこから喜んでくれそうな物をあげたかった。
「個人的にはこのイヤリングをつけて欲しいけどな。一旦候補に入れて他も探してみよう」
手に取って眺めていたシンプルなデザインの青いイヤリングをそっと棚へ戻すと、俺はアクセサリーショップを後にして再び歩き始める。
それからしばらく施設内をひたすら歩き続けて色々な店を見て回るが、中々良さそうな物は見つからなかった。
「化粧品か……男だから正直全然分からないし、肌に合わない可能性もあるらしいから辞めとくか」
化粧品売り場の前を通りかかり一瞬どうかと思い立ち止まるが、全く知識がない事に気付きすぐに諦める。
「……って、気付いたらもうお昼前になってるじゃん。昼ごはんは適当にフードコートにでも行って食べよう」
そろそろ歩き疲れて休みたかった俺は、休憩も兼ねてお昼を食べる事にした。
それからフードコートに到着した俺はラーメンを注文すると席に座ってスマホをいじりながら呼び出しベルが鳴るのを待ち始める。
「やっぱり事前に買う物を考えてから来れば良かったかな」
実乃里の誕生日が近付いている事を思い出して今日のプレゼント探しを決めたわけだが、完全に思いつきの行動であり事前の計画性はゼロだった。
歩いていれば何か見つかるだろと最初は適当に考えていた俺だったが、いざプレゼントを探し始めると色々と迷ってしまい、結果予想外に難航してしまっている。
昼からはどうしようかと考えていると机の上に置いてあったベルが鳴り始めたため、注文したラーメンを取りに向かう。
ラーメン屋へ向かって歩いているとフードコート近くにマグカップ専門店がある事に気付いた。
「実乃里ってよくコーヒー飲んでるみたいだし、マグカップなら実用的で悪くない気がするな。食べ終わったら見に行ってみるか」
その後、食事を終えた俺は早速先程見たマグカップ専門店の中へと足を踏み入れる。
流石専門店というだけあって色々な種類のマグカップが店内には陳列されていた。
俺は店内を歩き回りながら実乃里が好きそうなデザインの物を探し始める。
「実乃里って猫が好きっぽいし、これなんて結構良さそうじゃん」
よくチャットアプリで猫のスタンプを送ってくる事を思い出した俺は、夜景を背景に黒猫がプリントされたお洒落なデザインのそれを手に取った。
取っ手は猫の尻尾のような形になっており、どうやらお湯を入れると絵柄が変わるらしい。
「へー、お湯を入れると夜景がライトアップされてもう1匹子猫が浮かび上がってくるのか。同じマグカップなのに温度でデザインが変わるって凄いな」
そこそこいい値段はするがすっかりと気に入ってしまった俺はこれを買う事に決めた。
「見てたら俺も欲しくなってきたし、これもついでに買って帰ろう」
実乃里のプレゼントとして買った物とは背景が違う別のマグカップを手に取るとレジへ持って行く。
レジでプレゼント用として綺麗にラッピングをしてもらうと、俺は大満足で店を後にした。
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