第40話 英語力の見せ場

 望月と遭遇したファミレスを出て駅に到着した俺だったが、改札の前で困ったような表情をして立ち尽くす金髪の外国人女性を見つけていた。

 右手にガイドブック、左手にスーツケースを持っている事から恐らく日本に来た観光客なのだろうが、乗る電車が分からない様子だ。

 だが周りを歩く人達は面倒事に巻き込まれたくないのかスルーしており、近くにいた女性の駅員も何とか頑張って説明をしようとはしているが、何を話しているのか全く理解できないらしく完全に困り果てていた。

 このまま放置するのはあまりにも可哀想だと思った俺は、駅員の脇に立っていた女性へ思い切って英語で話しかける。


「Hello,do you have any trouble?”こんにちは、大丈夫ですか?”」


「I wanna go Shinjuku station, but I don't know how to get there……”新宿駅に行きたいんだけど、どうやって行けばいいか分からないのよ……”」


 ヨーロッパ系の外見をしている事から母語がフランス語やドイツ語など、英語では無い可能性も大いにあったため、果たして通じるのかとドキドキする俺だったが、女性が流暢な英語を話し始めたため、大丈夫そうだ。

 そして、やはり俺の予想した通り乗る電車が分からなくて困っているらしい。


「I gonna tell you, how do you get to Shinjuku station”俺が新宿駅へどうやって行けばいいか教えますよ”」


「Seriously?   Please tell me “本当? 教えてよ”」


 俺からの提案を聞いて嬉しそうな表情となった女性は、ハイテンションでそう声を上げた。


「Sure.First, take this train going toward Honancho Station and get off at Ochanomizu Station “勿論、まず方南町駅方面行きの電車に乗って、お茶の水駅で降りてください”」


「Uh-huh”うんうん”」


 女性が相槌を打ちながらガイドブックにメモを書き始めた様子を見つつ、俺はそのまま説明を続ける。


「At Ochanomizu Station transfer to the Chuo rapid Line,From there, take the Chuo rapid Line going toward Takao Station and get off at Shinjuku Station. Am I making sense?”御茶ノ水駅で中央快速線に乗り換えて、そこから中央快速線で高尾駅方面へ行き、新宿駅で降ります。今の説明で理解できました?”」


「Perfect .Thank you, you are a lifesaver”完璧よ。ありがとう、本当に助かったわ”」


 果たして発音がいまいちな英語が上手く通じたのかと少し心配する俺だったが、今の言葉を聞くと何も問題はなかったようだ。

 女性はもう一度お礼の言葉を述べると俺にハグと投げキッスをし、満足そうな表情で改札の奥へと吸い込まれていった。

 予想外の行動に驚き固まる俺だったが、金髪美女からハグと投げキッスされて悪い気はしなかった。

 もし実乃里と付き合ってなかったら惚れてたかもしれない、まあ多分告白しても絶対振られるだろうけど。

 そんな馬鹿なことを内心で考えていると突然横から声をかけられ我に返る。


「ありがとう、君のおかげで助かったよ」


「いえいえ、人助けついでに英語力を試したかっただけなので気にしないでくださいよ」


 駅員から感謝の言葉をかけられた俺は、照れてにやけそうになる表情を抑えながらそう答えた。


「英語が全然喋れないのに若いってだけで先輩から対応を押し付けられたから本当に困ってたの」


 感謝を通り越して尊敬の眼差しを向けられた俺は、流石に照れるのを我慢できなくなり顔がにやけてしまう。

 さらには先程の一部始終を見ていた周りの人達からもかなり注目されており、ちょっとした人気者になった気分だ。

 なるほど、美女やイケメンはいつもこんな世界で生きているのか……目立ちすぎて恥ずかしくなった俺は、そんな事をひたすら考えて気を紛らわせようとしていた。

 そんな時、ふと左腕に付けた腕時計に意識を向けると、俺の乗ろうとしている電車の時間がいつの間にか間近にまで迫っている事に気付く。

 これを逃すとバス停での待ち時間が長くなってしまうため、乗り損ねるのは何としても避けたい。


「そろそろ電車の時間がやばいのでもう行きます、俺は当たり前の事をしただけですから」


 まだ何か言いたげだった駅員に対して一方的にそう話すと、俺は逃げるようにその場を立ち去った。

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