第31話 実乃里の意外な才能
カラオケ店を後にした俺達は、近くにあったファミレスに入って昼食を食べていた。
「2人なら3時間でも十分満足できたね」
「結局ずっと一緒に歌ってたから順番待ちの時間も無かったしな」
サークルメンバーや友達とカラオケに行っていた時はフリータイムで5時間以上居座ることも多々あったが、それでも人数が多く順番に交代しながらが多かったため、今日ほど満足できないことはざらだった。
「やっぱ実乃里とだから変な空気を読む必要も無いし、楽しく歌えたよ」
「確かに何かの付き合いとかで行くなら自分の好きな曲ばっかりは歌いづらいもんね。私も春樹君とカラオケに行けて楽しかったよ」
やはり実乃里も俺と同じような事を考えていたらしい。
周りの空気を読んで、無難な曲ばかりをチョイスして歌うのは割と苦痛なのだ。
その点、俺と実乃里とであれば、お互いに遠慮する必要は無く、ストレス無く歌えたと言えるだろう。
「この後はどうする? 俺はまだまだ時間があるから全然付き合えるけど」
「うーん、どうしよっか。この後の事は考えてなかったんだよね」
今回の遊びは突発的に思い付いただけのようで、午後のプランは特に無いようだ。
「じゃあさ、近くにあるボウリング場に行かない?」
このまま解散するのも名残惜しいと感じていた俺は、今日の実乃里の服装が偶然動きやすそうなズボンだった事と、このファミレスの近くにボウリング場がある事を思い出して、そう提案した。
「ボウリングか、あんまりやった事ないけど、せっかくだし行ってみようかな」
「よし、決まりだな。食べ終わったら行こう」
正直断られるかなとも思っていたが、どうやら実乃里も乗り気らしい。
食事を済ませた俺達はボウリング場へと向かい始める。
「ちなみに春樹君ってボウリングはよく行くの?」
「昔はそこそこ行ってたけど、最近はあんまり行ってないな」
カラオケと同じく勉強に目覚めてからはほとんど行ってなかったのだ。
「そうなんだ、私は子供のころ家族とやって以来、やってないんだよね。友達ともボウリングなんて行かないしさ」
「確かに、実乃里がボウリングに行くイメージはあまりないな」
実乃里は色白で、休みの日は家で本を読んでいそうなタイプに見えるので、友達とボウリングに行く光景が全くと言っていいほど湧いて来ない。
そんな話をしながら歩いていると、すぐにボウリング場へ到着した。
受付で手続きを済ませて専用のシューズに履き替えると、一旦荷物をレーンへ置きボウリング玉を取りに行く。
「ボウリング玉の重さってどれくらいがいいのかな?」
「実乃里は10ポンドくらいでいいと思うよ」
ボウリング玉の重さは体重の10分の1くらいが目安である事を思い出し、俺はそう答えた。
実乃里は身長158cmで、体格的に体重は恐らく45kgくらいに見えるので、そのくらいが適正な重さと言えるだろう。
「ありがとう、じゃあ10ポンドを持って行くよ」
「俺は14ポンドくらいにしとくか」
レーンに戻った俺達はさっそくボウリングを開始する。
まずは俺が先行なので、指をボールの穴に入れ真ん中を目掛けて1投目を思いっきり投げる。
だが玉は少し右にそれてしまい、ピンが4本残ってしまう。
続く2投目ではピンの残った左を目掛けて投げるが3本しか倒れず、1本残ってしまった。
「9本か、スペアを狙ったんだけどな。ブランクがあるせいかやっぱり上手くいかないか……」
「結構難しそう、私に上手く倒せるかな」
不安そうな顔をしつつ実乃里はボールを持ち、1投目を投げる。
「あっ……」
しかし投げ方が悪かったせいか、実乃里の玉はいきなりガーターへ落ちてしまった。
「やっぱり難しいな……」
「力を入れすぎる必要はないから、よく狙って投げてみて」
先程は変に力が入り過ぎていたように見えたので、恐らくそれでコントロールがうまく行かなかったのだろう。
俺のアドバイスを聞いた実乃里は、少し力を抜いて2投目を投げる。
すると今度はガーターに落ちる事なくまっすぐ進んでいき、ボウリング玉は真ん中のピンに直撃した。
「やった、倒れたよ」
今度は力が少し弱過ぎたためピンは6本しか倒れなかったが、実乃里は大喜びだ。
「ど真ん中に当たってたし、もう少し力が強かったらストライクになってたかもな」
「よーし、この調子で頑張る」
さっきまでの落ち込んだ雰囲気から一転し、実乃里はすっかりやる気な様子となっている。
それから2人で投げ続けて1ゲーム目が終了したのだが、スコアは俺が120点で実乃里が77点だった。
「やっぱり春樹君は凄いね」
「いやいや、120点なんて対した事ないよ。それよりも後半から結構倒せるようになってたし、スペアも出せてたじゃん」
そう、最初の辺は何度かガーターに落としていた実乃里だったが、後半に行くにつれてどんどん上手くなっていたのだ。
「だんだんコツが掴めてきたんだよね、もう1ゲームやろうよ」
「そうだな。まだまだ時間があるし、そうしようか」
続いて2ゲーム目を始めた俺達だったのだが、実乃里はガーターに1度も落とす事なく玉を投げられるようになっていた。
それどころかスペアやストライクを出す割合が明らかに増えており、俺はめちゃくちゃ驚かされている。
あれ、ひょっとして俺負ける可能性あるんじゃ……本気でそう思えるほど実乃里は上達していた。
しばらくして2ゲーム目が終わったのだが、スコアは俺が130点、実乃里が127点であり、この結果はかなり衝撃的と言える。
何とか勝つには勝てたがスコアはわずか3点差であり、かなりの接戦だった。
「めちゃくちゃ上手くなってるじゃん、最後2連続スペアだったよな」
「さっきよりもコツが掴めてきたんだよ。もしかしたら次は春樹君にも勝てるかも」
実乃里が自信満々な表情でそう告げてきたのを聞き、俺はとある勝負を持ちかける。
「よし、なら次の3ゲーム目のスコアで勝負をしよう。負けた方が勝った方にソフトクリーム奢りな」
「勿論受けて立つよ、手加減はしないからね」
俺の提案を実乃里が受け入れたため、3ゲーム目は勝負をする事が決定した。
そして始まった3ゲーム目だったが、俺は初っ端から思いっきり焦らされる。
なんと実乃里は容赦の無い3連続ストライクを決めてきた。
最初ガーターに何度もボウリング玉を落としていた人物とは思えない上達っぷりに、俺は度肝を抜かれる。
それから俺も全力を尽くして戦うが、結局最終的なスコアは俺が135点、実乃里が181点であり、完膚なきまでに叩きのめされてしまったのだ。
実乃里の意外な才能を知った俺はギャップ萌えを感じつつも、今後ボウリングで勝負するのは絶対負けるので辞めておこうと心に強く誓った。
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