第21話 アニマルセラピー

 ようやくお互いに恥ずかしさが収まった俺達は、遊園地のエリアから動物園のあるエリアへと移動していた。


「わぁ、ふわふわしてて可愛い」


 パンダやキリン、ゾウなど色々な動物を見ながらエリアを歩き回った後、モルモットとの触れ合いコーナーに立ち寄った俺達だったが、実乃里はその可愛らしい姿にすっかりと魅了されたようだ。


「モルモットって結構臆病なイメージがあったけど、思ったよりも人懐っこいんだな」


 実乃里の膝に大人しく乗り撫でられて気持ちよさそうに鳴いている白と茶色の毛並みをしたモルモットの姿を見た俺はそう呟いた。

 実際に子供の頃ペットショップで見たモルモットは、人間の姿を見た途端ケージの端っこへ逃げていたので、俺は臆病という印象を強く持っていたのだ。


「春樹君も触ってみる?」


「……そうだな、じゃあお言葉に甘えて」


 モルモットを今まで触った事が無かった俺は恐る恐る手を伸ばし、頭をそっと撫でる。


「毛並みが柔らかくて触り心地がいいな」


「やっぱりそう思うよね、ちなみにこの子は巻き毛が特徴のアビシニアンモルモットって種類らしいよ」


 壁に貼られたモルモットの種類一覧を見た実乃里はそう答えた。

 俺もそれに釣られて目を向けると、様々な種類のモルモットのイラストが目に入る。


「へー、犬とか猫みたいにモルモットにも色々と種類があるんだな。全然知らなかった」


 一般的にモルモットと聞いてイメージする姿は、イングリッシュモルモットという種類らしい。

 しばらくの間、俺と実乃里はモルモットとの触れ合いを楽しんだ。

 次に俺達は乗馬体験ができる場所を目指して歩き始める。


「私馬に乗るのは今日が初めてだけど大丈夫かな……?」


「俺も乗った事は無いけどパンフレットには子供でも楽しめるって書いてあるから多分大丈夫だと思うよ」


 そんな雑談をしながら歩いていると、あっという間に目的地の馬乗り場へと到着した。

 それから俺達はインストラクターから基本姿勢や発進停止、曲がり方などの講習を受けた後、コースをゆっくりと回り始める。


「風が気持ちいいな」


「そうだね、自然と一体化したような気分になってるよ」


 俺達は興奮気味なテンションで口々にそんな事を話していた。


「馬ってさ、思ったよりも高いんだね。自転車に乗ってる時と高さが全然違うから、ちょっと不思議な感覚だよ」


 実乃里は自分が想像していたよりもずっと高く、少し意外そうな表情をしている。


「確かに、バイクよりも高さとか横幅が全然違うから俺も少し違和感があるかな」


 普段乗っているバイクは、172cmある俺の身長であれば十分両足が地面にかかとまで着くが、馬では片足すら地面に着かないのだ。


「でも高いから遠くまで見えるし、景色は楽しめるよね」


「だな、乗り心地とかも違うからめちゃくちゃ新鮮な気分になってるよ」


 しばらく2人でコースを回った後、馬から降りた俺と実乃里は体を撫でて餌やりをし、乗馬体験は終了となった。


「じゃあ次は水族館だね。イルカショーも見たいし早く行こうよ」


 まるで子供のようにはしゃぐ実乃里に引っ張られ、水族館のあるエリアへと移動を始める。

 そして水族館に足を踏み入れるとサメやエイ、クラゲなど、色々な種類の海の生物が入った複数の水槽が俺達の目に飛び込む。


「カラフルで綺麗……」


 水槽の中にいる色とりどりでカラフルな魚に見惚れた実乃里はそう言葉を漏らした。

 俺は近くにあった名前付きの写真を見て、水槽を泳いでいる魚を読み上げる。


「カクレクマノミとナンヨウハギ、ネッタイスズメダイ……他にも色々いるみたいだな」


「あっ、あっちにはドクターフィッシュの水槽があるよ」


 実乃里がドクターフィッシュの水槽に駆け寄り右手を入れると、どんどん魚達が集まってきた。

 ドクターフィッシュは水中に人間が手足などを入れるとその表面の古い角質を食べるために集まって来る人間にとっては有り難い魚で、美容や健康に効果が有ると言われている。


「痛くは無いけど、ちょっとくすぐったい」


 右手に集まってきたドクターフィッシュに角質を食べられている実乃里はくすぐったいようだ。

 手を濡らしたくなかった俺は水槽の中に入れる事はしなかったが、実乃里は左手も躊躇なく入れていた。


「慣れてくるとマッサージみたいで気持ちいいかも」


 すっかりとドクターフィッシュにハマったようで、実乃里は何度も両手を出し入れしていたが、イルカショーの時間が近い事に気付いた俺は声をかける。


「楽しんでるところ悪いけど、そろそろイルカショーの時間が近いから行こうか」


「もうそんな時間、ドクターフィッシュ恐るべしだね」


 少し名残惜しそうに水槽から手を出した実乃里はハンカチで手を拭くと俺の手を掴む。


「さあ、行こう」


 そう言い終わると実乃里はパンフレットを片手にイルカショーの会場へ向かい始めた。

 会場に到着すると始まる直前となっており、観客席は多くの人で賑わっている。


「ギリギリセーフだね、座ろうか」


 空いていた席に座って少しの間待っていると、イルカショーがスタートした。

 始まると同時に勢いよくイルカ達が水面から飛び出し、空中にぶら下がったボールを弾く。

 続いて係員が差し出した輪っかをジャンプでくぐり抜け、さらに水面に投げ込まれたフラフープを器用にクチバシで回し始めると、会場からは大きな歓声があがる。


「凄い……めちゃめちゃ器用だね」


「係員の人とのコンビネーションもばっちりだな」


 それからも人を乗せたまま泳いだり、飛び跳ねて空中で回転したりと、イルカ達のパフォーマンスは最後まで会場を大きく盛り上げたのだった。

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