第15話 少し遅めの初詣

「明けましておめでとう、春樹君。今年もよろしくね」


「明けましておめでとう、こちらこそよろしくな」


 俺も実乃里も地元に帰省していたので、会うのは久しぶりだ。

 今日は2人で少し遅い初詣に行く予定で、毎回お馴染みの駅前で待ち合わせていた。


「私家族と初詣に行っておみくじを引いたらさ、大吉が出たんだよね」


「良かったじゃん。俺なんて新年早々凶だったから幸先悪くてさ……」


「今日もう一回引いてみようよ」


 そんな雑談をしながら俺と実乃里は駅の中に入り、改札まで歩いていく。


「やっぱり社会人はもう仕事が始まってるんだよね」


「普通の会社は三が日が過ぎたら仕事らしいからな。銀行で働いている父さんもまだ休み足りないってぼやいてたよ」


 ホームにいるスーツ姿のサラリーマンの姿を見てそう話す俺達だったが、数年後には同じように通勤している事だろう。


「ところで平成大学って、授業の再開はいつからになるんだ?」


「うちの大学は1月7日からだから、明後日だね」


「じゃあ西洋大学と同じか。休みになるのは早かったのに終わるのが同じってのは少しずるい気がする……」


 大学によって長期休暇の長さが違う事は全然珍しい事ではないが、少し理不尽に感じていた。


「でも成人式が近いから、2年生は終わるまで来ない人が多そうな気がするけどね」


 実乃里の言葉で来週の月曜日が成人式という事を俺は思い出す。


「確かにそうだな、もう来週だもんな」


 優等生な俺は授業があるから一旦こっちに戻ってきていたが、うちの大学も自主休講する2年生がかなり多いのは間違い無いだろう。


「ちなみに実乃里は成人式は行くの?」


「……私は行かないつもりだよ、地元にはあんまりいい思い出がないからさ」


 実乃里はさっきまでの明るい表情から一転し、少し悲しそうな表情となりそう答えた。

 やばい、どうやら特大の地雷を踏み抜いてしまったらしい。


「そう言えばそのマフラー使ってくれてるんだな、嬉しいよ」


 クリスマスデートの時にプレゼントした赤いマフラーを実乃里が首に巻いていた事に気付いた俺は、話題を逸らすためにそう声をかけた。


「春樹君から初めて貰ったプレゼントだから嬉しくてさ、最近出かける時はいつも巻いてるんだよね」


「俺も実乃里から貰ったボールペン、大事に使ってるよ」


 実はクリスマスデートの帰り道にお洒落なデザインの青いボールペンをプレゼントされていたのだ。

 プレゼントが文房具なのは実乃里の真面目な性格が出ていると思いつつも、彼女からのプレゼントという事で非常に嬉しかった。


「あっ、電車来たみたいだね。行こうか」


 実乃里は明るい表情に戻っているため、なんとか最悪の事態は避けられたようだ。

 電車に乗り込んでしばらく雑談していると、すぐに降りる駅に到着した。

 これから行く予定の神社は駅からすぐの距離にあるので、電車から降りると既に建物が視界に入っている。


「やっぱり人は少ないね」


「もう三が日のピークは過ぎてるしな。まあ俺達みたいにちょっと遅めの初詣に来てる人達もいるみたいだけど」


 1人で来ている人や家族連れ、カップルなどの姿がちらほらと確認できた。

 神社の敷地に着いた俺と実乃里は鳥居で一礼した後、まず手水舎てみずやへと向かい、そこで手と口を清めた。

 そして拝殿を目指して参道をゆっくりと進み始めていると、参道の脇に飾られた絵馬が目に入ってくる。


「絵馬が飾ってあるね。懐かしいな、私も高校3年生の時に実家近くの神社で書いたよ」


「やっぱりみんな書くよな、俺も大学受験の前に書いた記憶があるよ」


 まあ、絵馬に書いたにも関わらず第一志望だった真中みなか大学と第二志望の平成学院へいせいがくいん大学には落ちてしまったため、その効果には正直懐疑的なわけだが。


「せっかくだし、今日も何か書いて帰ろうよ」


「そうだな、そうしようか」


 それから神前に到着した俺達は、おさい銭を納めて鈴を鳴らした後、二礼二拍手一礼の作法で拝礼を済ませた。


「実乃里は何を願ったの?」


「残念ながら秘密だよ」


 随分と熱心に長い間願っていた実乃里の姿が気になった俺はそう尋ねたが、教えてはくれないようだ。

 俺は全く信じていないが、願い事を他人に喋ると叶わなくなると世間では言われているため、実乃里はそれを信じているのだろう。


「それよりさ、おみくじ引きに行こう」


「そうだな。早く凶からリベンジしたいし行こうか」


 売り場に到着した俺達は早速箱からおみくじを引いた。


「じゃあ、見ないように開いて結果はせーので見せようよ。せーの」


 俺は実乃里の掛け声に合わせて開いたおみくじの結果を見せる。


「実乃里また大吉じゃん、めちゃくちゃ運いいな」


 なんと実乃里は家族と一緒に引いた時に引き続き、また大吉だったのだ。


「春樹君は吉みたいだね、良かった」


 どうやら俺は凶から吉に無事ランクアップできたらしい。

 また凶が出るのでは無いかと少し身構えていたため、これで一安心だ。

 

「学問が安心して勉学せよって書いてあったよ、次のテストは結構期待できるよね」


「俺の方は学問のところ、努力すればよろしって書いてあるな。多分油断するなって神様から警告されてる気がする……」


 おみくじの中身について話しつつ絵馬を購入すると、早速記入し始める。

 俺は次の期末テストでも高得点を取って、また成績優秀者になりたいと記入しておいた。


「私も書けたよ」


 実乃里もちょうど俺と同じくらいのタイミングで書き終わったようだ。

 何を書いたんだろうと思いチラッとその内容を見た瞬間、俺は顔が真っ赤になる。


「あっ、見られちゃったみたいだね」


 見られた事に気付いた実乃里は、俺と同じように顔を赤く染めそう呟いた。

 そこには、”これからもずっと春樹君と仲良くできますように”と書かれていたのだ。

 その後、俺達は2人して顔を真っ赤にしたまま絵馬を飾りに行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る