第14話 望月との邂逅
12月27日の今日は西洋大学冬休み前最後の授業日であり、明日から年明けまでの約1週間が冬休みとなる。
ちなみに実乃里の通う平成大学はクリスマスイブの12月24日が授業最終日だったため今日は休みらしく、少し羨ましいと思いながら俺は今バイクで大学に向かっているところだ。
「うわ、やっぱり少ないな……」
大学に着くと普段よりも人通りが少なく、俺は自主休講している学生がかなり多い事を察した。
恐らく授業に出る気を無くして遊びに行っていたり、地元に帰省したりしている人達がかなりいるのだろう。
「まあ、他の大学は休みだったりするから気持ちは分かるけどな」
実際に去年の不真面目だった俺も年末前最後の授業は当然のようにサボっており、友達とカラオケに行っていた記憶がある。
その友達も元サークルのメンバーから俺の悪評を流された結果気まずくなり、今では完全に疎遠となってしまっていたが。
2限目の授業である金融論の大教室に到着した俺だったが、案の定教室内はガラガラだ。
「ですよねー」
予想通りの光景が目に入ってきた俺は、ついそんな言葉を漏らしつつ、いつも通り一番前の席へ座り真面目に授業を受けた。
次の授業であるマクロ経済学は4限目であり3限目は空きコマのため、俺は混みそうな昼休みを避けて食堂で昼食を取る事にし、時間を潰すために図書館へと向かい始める。
すると不機嫌そうな顔をした授業終わりな様子の望月が運悪く前から歩いてきたのだ。
望月の性格的に絶対今日の授業はサボっていたと思っていたので正直油断していた。
広いキャンパス内でよりにもよってエンカウントするのは最悪だと思いつつ、絡まれると絶対に面倒な事になるのは分かりきっていたのでやり過ごそうとするが、結局見つかってしまう。
「綾川じゃん、こんな所で何やってんのよ」
「……望月か、悪いけど急いでるから」
俺はそのまま横を通り抜けようとするが、引き止められてしまった。
「待ちなさい、成績優秀者だかなんだか知らないけど、あんたみたいな人間は男として何の価値もないんだから調子に乗らないでよね。身長も低いし顔もイマイチだし、話も面白くないし、はっきり言ってゴミなんだから」
無理やり引き止められた挙句一方的に罵詈雑言を浴びせられた俺はだんだんイライラし始めるが、望月はそのまま話し続ける。
「それに比べて仁は身長も高いし顔も整ってるし、話も面白いし、体の相性もいいから最高だわ。あっ、あんたとは結局寝てなかったわね、ごめんなさい、コンプレックスを刺激しちゃって」
望月は俺を見下したような、バカにしたような表情で散々言いたい放題煽ってきた。
流石に我慢の限界がきた俺はついカッとなって言い返してしまう。
「うるせぇ、余計なお世話だ」
「ちょっと、何怒ってんのよ? 本当の事しか言ってないのに怒鳴るなんて器が小さいわね」
そう悪びれもなく言い放つ望月の姿に更なる怒りが込み上げてくるが、このまま相手のペースに飲まれるのも癪だと思い、なんとか抑える。
「まあせいぜい頑張りなさいよ、ストーカー君。まあ、あんたみたいなつまらない男と付き合いたい物好きなんてこの世にいないと思うけどね」
俺に対して言いたい放題罵詈雑言を吐いて機嫌が直ったのか、望月はスッキリしたような表情で去って行った。
どうやら俺は望月から理不尽に八つ当たりされ、ストレスの捌け口にされたらしい。
その場に残された俺はいつか望月を絶対後悔させてやると心に強く誓った。
それから俺はポケットからスマホを取り出すと、実乃里に電話をかける。
「はい、朝比奈です。春樹君どうしたの?」
もしかしたら出ないかもしれないとも思っていたが、俺の心配は杞憂だったようで実乃里はすぐに出てくれた。
「もしもし、春樹だけどちょっと聞いて欲しい話があってさ……」
そして俺は先程起きた出来事についてを愚痴り始める。
「……って事がさっきあってさ。多分2限目の授業中に何かあったのがイライラしてた原因だと思うんだけど、酷すぎない?」
「それって完全に春樹君に八つ当たりしてるよね、その人はっきり言って人間として問題があるとしか思えないな。そんな酷いことを平気で言えるのが全く理解できないよ」
俺の話を黙って聞いていた実乃里は望月の行動に対して、はっきりとそう感想を述べた。
「やっぱそう思うよな。あの言い方には流石に腹が立ったな……」
「春樹君と付き合う物好きなんていないって言い方もめちゃくちゃ酷いよね。春樹君には私がいるのにね」
大学が違うから当然だが、望月は実乃里の存在を知らないため、俺は未だに彼女無しの可哀想な男だと思われていたのだろう。
実は俺に彼女がいると知ったら望月がどんな反応をするのか非常に気になるところだが、どうせろくな事にはならないと容易に想像がつくため、今後も黙っておくのが最善ではないだろうか。
「話を聞いてくれてありがとう、ずっとモヤモヤしてたからスッキリしたよ」
「私は春樹君の彼女なんだから遠慮なんていらないよ。今日は暇だし、また何かあったらいつでも電話してきてね!」
実乃里のおかげで暗い気持ちが一気に吹き飛んだ俺は、さっきまでのモヤモヤした気持ちから一転し、すっかりと明るい気分になっていた。
これで午後からの授業も頑張れそうだ。
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