第12話 クリスマスデート

春樹はるき君、おはよう」


「おはよう、実乃里みのり


 付き合い始めた俺達は、まず呼び方から変える事にしていた。

 朝比奈さん、いや実乃里から春樹君と初めて名前で呼ばれた時はかなりの感動を覚え、しばらくの間にやけ顔になってしまっていたのは記憶に真新しい。

 まあ、流石に数日経った今では名前で呼ばれる事には慣れてきたが。


「じゃあそろそろ行こうか」


「うん」


 今日は12月25日で、美乃里とこれからクリスマスデートなのだ。

 予定としてはショッピングにランチ、映画、イルミネーションなど、盛りだくさんの内容となっている。

 駅前広場で待ち合わせていた俺達は、早速今日の目的地である複合商業施設へと向かい始めた。


「周りはカップルばっかりだな」


「ここって私達みたいに駅前で待ち合わせてる人が多いみたいだよ」


 駅前広場には俺達のようなカップルが多いせいか一帯に甘い空間が形成されていて、恋人がいない男女は近づきづらい雰囲気となっている。

 去年まではクリスマスに絶対に近づきたく無いスポットランキングの上位に位置していたこの場所だったが、彼女ができた今ではそんな事は微塵も感じなくなっていた。

 これが彼女持ちの余裕という奴だろうか、そんな事を思いつつ実乃里と雑談しながら歩いていると、目的地が見え始める。


「凄い人……やっぱりクリスマスと土曜日が重なるとこうなるよね」


 俺達の視界には家族連れやカップル、友達同士などで施設を訪れているたくさんの人々の姿が映っており、非常に混雑していた。


「このままだとはぐれちゃいそうだし、手を繋ごうか」


 そう言い終わった俺はそっと実乃里の左手を握る。

 手を握った瞬間、実乃里は顔を真っ赤に染めて、嬉しそうな、恥ずかしそうな表情となるが、すぐに握り返してきた。


「……ちょっと恥ずかしいね」


「カップルなんだから、普通の事じゃん」


 そう言いつつも、多分俺自身も顔が赤くなっているのは間違いないだろう。

 何しろ実乃里の手を握るのは今日が初めてであり、ドキドキしないわけが無い。

 手を繋ぐだけでこれなのだから、これからもっと先の行為をする場合一体どうなってしまうんだろうか、俺は顔から熱を感じながらそんな事を考えていた。

 それから俺達はショッピングをするために、しばらく施設内を2人で仲良く周り始める。

 服屋では服を一緒に選び、アクセサリーショップでは実乃里に似合いそうなネックレスやイヤリングを探し、雑貨屋では部屋のインテリアによさそうな物を2人で見繕う。

 その際に、実乃里に渡すプレゼントもバレないようにこっそりと購入しておいた。

 買い物がひと段落したところで俺と実乃里は予約していたイタリアンレストランへと向かい始める。

 実乃里がパスタ好きという情報は今まで一緒に食事をして知っていたので、今回俺はイタリアンを予約したのだが、その選択は大正解だったようで、大喜びな様子だ。


「ランチがイタリアンだなんて流石過ぎるよ、私の好みをちゃんと覚えていてくれたなんて嬉しいな」


「当たり前だろ、実乃里は俺の大切な彼女なんだから」


 そう俺が自身ありげな表情で言葉を言い放つと、実乃里は再び顔を真っ赤に染め上げる。


「……ありがとう」


 実乃里は上目遣いで俺を見つめ、恥ずかしそうな表情で感謝の言葉を述べた。


「も、もうちょっとで店に着くから」


 その可愛らしい姿に効果抜群だった俺はつい言葉を噛んでしまうが、実乃里は相変わらず顔を真っ赤にさせたまま完全に自分の世界に入っており、噛んだところは聞いていなかったようで安心する。

 俺も実乃里もお互いに顔を真っ赤にしたまま手を繋いでしばらく歩いていると、目的の店に到着した。

 店員に予約の名前を告げて店内に入ると、そこには家族連れの他に俺達のようなカップルの姿も複数あり、みんな似たような考えなんだなと思わされる。


「それで映画なんだけど、どうする?」


「そうだな……」


 メニュー表を見て注文した俺と実乃里は、この後見る予定の映画についてを話し始めた。

 最初は事前に決めるつもりだったが、実乃里から当日の気分で決めようと提案され、特に異論の無かった俺はそれに従ったのだ。


「これなんかどう?」


 俺はスマホの画面に表示させた今流行りの恋愛映画のパンフレットを実乃里に見せる。

 定番ではあるが、デートで映画を見るなら恋愛映画であれば間違いないだろう。


「これも面白そうじゃない?」


 実乃里が見せてきたスマホの画面を見て、俺は思わず笑ってしまった。

 何と実乃里が提案してきたのは、そのうち俺も見に行こうと思っていたオタク界隈で大人気となっているアニメ映画だったのだ。

 最近忘れかけていたが実乃里は結構なアニオタであり、この映画をどうしても見たかったのだろう。


「春樹君、なんで笑うのよ」


「ごめんごめん、デートでアニメ映画を提案されるとは思ってなくてさ」


 朝比奈さんはほっぺを膨らませて俺を睨んでくるが、まるで子猫に威嚇されているようにしか感じられず、はっきり言って全く怖くなかった。

 この流れは今回で3回目なので、この後来るであろう言葉も予想できる。


「……いいよ、許してあげる。その代わり今日見る映画は私の選んだ方で決定ね、約束だよ」


 こうして今日見る映画が無事に決定した。

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