第11話 恋愛相談
「結局どういう意味だったのか分からなかったな……」
酔った朝比奈さんから”大好き”とまるで告白のような言葉を不意打ちで言われた俺は、しばらくの間何とも言えない恥ずかしさを感じていたのだが、数日ぶりに会った今日遠回しに聞いてみたところ、どうやら朝比奈さんは飲んだ後の記憶が全く残っていなかったのだ。
言葉の真意が分からないままだった俺は、ちょっと残念な気分にさせられたが、覚えていないのであれば仕方ないだろう。
もしあの言葉が異性として好きという意味を含んでいたのならば、俺は飛び上がって喜ぶに違いない。
なぜなら、俺は朝比奈さんの事が異性として好きだからだ。
最初は予備校を万が一欠席した時に色々と聞けるような友達を作ろうぐらいにしか考えておらず、朝比奈さんに話しかけたのは本当に偶然だった。
たまたま俺の好きなアニメのクリアファイルを使っていたので共通の話題があって話しやすいと思って話しかけただけで、他の誰かに話しかけていた可能性も十分にあったと言える。
だから最初は異性としては全く意識もしていなかったし、好きになるとも思っていなかった。
だが朝比奈さんと過ごしていくうちに、一緒にいるだけでドキドキするようになったり、チャットアプリでメッセージの返信が遅いと不安になったり、気付けば朝比奈さんの事ばかり考えるようになっていたのだ。
ここまでくればこの感情は間違いなく恋だと童貞の俺でもはっきりと分かる事で、朝比奈さんの事がどうしようもなく好きになってしまったのだと強く自覚させられていた。
だから朝比奈さんに俺以外の彼氏ができてしまった日には、嫉妬と喪失感で気が狂ってしまうのではないかとすら思っている。
イメチェンして綺麗になった朝比奈さんは大学内などでアプローチされる機会も増えたと言っていた事から、うかうかしていたら彼氏持ちにジョブチェンジしてしまう可能性が高いため、他の男に取られないためには早急に俺から告白して付き合う必要があるだろう。
一番の問題は告白した場合成功するかどうかで、果たして朝比奈さんが俺の事をどう見ているかだ。
今まで散々一緒に遊んできた事を考えると少なくとも嫌われてはいないはずだが、あの真意不明な言葉だけでは恋愛対象として見られているかどうかまでは分からない。
「いっその事、朝比奈さんに恋愛相談でもしてみようかな……」
なんとなくそう口に出してみたが、次第に悪くない考えだと俺は思い始める。
あえて朝比奈さんに相談する事で、彼女の恋愛観などを知る事ができるわけだし、揺さぶりをかける事もできるため、メリットは大きいのではないだろうか。
「ちょうど明日ショッピングに行くし、その時に相談してみよう」
そんな事を呟きながら俺は部屋の明かりを消して眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、ショッピングの休憩で立ち寄った喫茶店で席に座り適当に飲み物を注文した後、俺はゆっくりと口を開く。
「……今悩んでる事があるんだけど、相談に乗ってもらえたりしない?」
「私で良ければ勿論相談に乗るよ、遠慮なく話してみて」
朝比奈さんはやる気満々な様子でそう答えたので、俺は早速本題に入る。
「実は俺、好きな人ができたんだ」
「……えっ?」
俺の言葉を聞いた朝比奈さんは、何を言っているのか分からないと言いたげな、驚いたような表情でそう短く言葉を漏らした。
だがそんな様子を気にせず、俺はそのまま話を続ける。
「近々告白しようと思ってるんだけど、恋愛対象として見られているかどうか分からなくてさ。脈ありかどうか確かめたいんだよね」
「……辞めたほうがいいと思うよ。女の子って思わせぶりな態度を取ってても、何とも思ってない事だって普通にあるし、脈ありだと思っても上手くいくとは限らないんだから」
目に見えて分かるほど一気にテンションが下がった朝比奈さんは、告白を辞めて欲しそうな表情でゆっくりとそう答えた。
明らかに落ち込んだ様子の朝比奈さんは、心なしか焦っているようにも見える。
「それでも俺は告白したいと思ってる。絶対に他の誰にも渡したくないから」
本人の前でこんな事を言うのはめちゃくちゃ恥ずかしいが、俺はそうはっきりと言い切った。
まさか自分の事であるとは夢にも思っていない様子の朝比奈さんは今にも泣き出しそうな表情となり、唇を噛み締めている。
ここまでの反応を見れば、俺に対して好意を抱いているのはほぼ確実では無いだろうか。
これ以上揺さぶりをかける必要が無いと判断した俺は、どうやって誤解を解くかを考え始めていると次の瞬間、朝比奈さんは涙を流しながら声を張り上げる。
「……私は綾川君の事が異性として好きだよ、好きな人がいる綾川君にこんな事を言ったら卑怯になるかもしれないけど、私じゃ駄目なの!?」
なんと俺は人生20年間の中で初めて告白された。
「私は綾川君の事がどうしようも無く好きだし、他の誰にも渡したくないよ……」
驚いている俺にはお構いなしで朝比奈さんは大粒の涙を流しながら、若干かすれた声で感情的にそう叫んだ。
「……俺のせいで泣かせちゃって本当にごめん、でも心配はいらないよ。だって俺が告白したい相手って、今目の前にいる朝比奈さんの事だから」
「……えっ!?」
「
覚悟を決めた俺はそう朝比奈さんに告白した。
「最初は友達ぐらいにしか思って無かったけど気付けば君の事が好きになってて、他の誰にも渡したくないって本気で思ってる」
「恋愛相談なんかしないでよバカぁ……綾川君が他の女の子を好きになったんじゃないか心配したんだからね」
泣き顔のまま非難してくる朝比奈さんに俺は謝罪する。
「ごめんな。もしかしたら恋愛対象として見られてないんじゃないかって、ずっと心配で……」
「そんなわけないじゃん。好きじゃない人だったら2人きりで遊んだり、家に招いたりなんかしないよ。私の方こそ実は何とも思われてないんじゃないかってずっと心配してたんだから」
どうやら長い間、両片思いの状態となっていたらしいがお互いに告白した事で、それも今日で解消だ。
こうして俺達は晴れて付き合う事になった。
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