shortホラー

@ravinir

第1話知らせ

「これは私の知り合いがトラックドライバーをしているという友人から聞いた話なんだけどね」

 先生は私がいれてきたばかりの、とはいっても先生の好みに合わせて60℃程度のお湯でいれたコーヒー入りのマグカップ片手にひじ置き付きのイスをゆっくりと回転させながら語る。

「ある激しい雨が降った日、ドライバーの彼はいつものように山道を運転していると突然「ゴーッ」と激しい音がしたそうだ。そして間もなく目の前20メートルほどで土砂崩れ。間一髪彼は助かったそうだよ」

「それは良かったですね」

 よくある話。というわけではないがそれでも動画でたまに見るものだ。それより20メートルほどの間を間一髪と表現するのはあまりにも髪が太すぎないか。そう思う私に先生は続ける。

「ドライバーの彼だが、実は彼は数年前に奥さんを亡くしていてね。彼は毎日仕事に行く前に仏壇で奥さんを拝むそうだが、その事故について彼は一度だけ「嫁が教えてくれた」と言ったことがあるらしい。さて、ここまで聞いて君はどう思った」

 唐突な幽霊の登場に少し驚いてしまった。しかしそれでも

「正直な感想を言うのなら不思議なこともあるものだな。いいお話だな。といった感じです」

「なんだその感想は。小学生の読書感想文のほうがまだましだぞ。まあ君の感想文を書く能力は置いといてだ。君は勘違いをしている」

 そういうと先生は人の失敗を喜ぶような、いや、間違いなく失敗を喜んでいる表情で言った。


「この話は不幸なお話だ」



「まずは君の間違いを正そう。君は彼の奥さんが彼に土砂崩れが起こるから気を付けるように忠告したと。そう考えた。しかしこれはおかしい。奥さんは自己の体験を持って死後の世界があることを認識している。であれば最愛の人に生きていてほしいと願うだろうか。死後の世界で再会できるのであればむしろ逆。死んでほしいと願うんじゃないだろうか。そうすれば好きなだけお話もできるだろうしね。つまり本当に愛している人なら忠告はしないはずなんだ。

 では忠告をしていた場合はどのようなことが考えられるか。まあ先ほどとは真逆の結論。つまり私のいる世界に来ないでほしい。あなたとは会いたくもない。そんな本心が透けて見える

 彼が生きていることからなんて言われたのか。ということについて想像に難くないけど——」

結局一度もコーヒーに口をつけることなく先生は結論を語る。


「——死んでいた場合が幸せで生きている場合は不幸だなんて最悪だね」


そう締めくくる先生は最高に近い笑顔をしていた。




こちらの作品はぞうむしプロさんの「トラックドライバーの怪談」という作品をアイデアの元として作成しました。

元となったぞうむしプロさんの漫画

https://omocoro.jp/kiji/293068/

ぞうむしプロさんのTwitter

https://twitter.com/zoumushi6

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