17章 ある夏の日々
172)山猫と大熊の最後
核兵器により放棄された元首都外辺部の都市部にある真国同盟が拠点である、廃棄された高層ビルに向かう者達がいた。
黒髪のかき上げられたミディアムヘアを持った大変美しい容姿を持つリジェと、身長は軽く2mを超えた大男のドルジだ。
二人は統一人民師団の李に呼び出されて、真国同盟の拠点を訪れていた。
もっとも彼らは統一人民師団の李たちの前では真実の姿を見せておらず、スポンサーから派遣されていた傭兵として振舞っていた。その為二人は名を偽り、リジェは同志山猫、ドルシは同志大熊と仮称されていた。
二人は廃棄された高層ビルの地下室へ、入っていった。地下室に入ったリジェこと山猫が李を探す。
「おーい! 李、来てやったぞ!」
「…………」
山猫が大声で叫ぶが誰も答えない。拠点は無人の様だ。辺りを静かに見回していたドルジこと大熊が何かに気付いて山猫に言う。
「……おい、あの柱にある奴は……」
大熊は山猫に柱に取り付けてある何かを指差す。
「なんだよ、アレ…… うん? アレって如何見ても……」
“ピッ”
山猫が柱に取り付けてある黒い塊を見て何かに気付いた時だった。その黒い塊が小さなアラーム音を出した。そして……
“ドガガガアアアアアァァン!!”
突如、光が拠点の地下室を支配したかと思うと続け様に大爆発が生じた。如何やら柱に設置されていたのは爆弾だった様だ。しかも爆弾は一つだけでは無かった様だ。拠点の廃棄高層ビルの中に幾つも仕掛けられていた様で連鎖的に爆発する。
“ドガアン!!” “ゴガアアンン!!”
連鎖爆発を起こした廃ビルは下から土煙を上げながら崩れ落ち始めた。
“ドドドドドドドドオオオオン!!”
一度崩れ出すと崩壊は止らず廃棄された高層ビルは一瞬で大量の土煙を上げて崩れていった……
◇ ◇ ◇
濛々たる土煙が崩れた廃ビル周りに立ち込め、風が徐々に土煙を押し流し始めた頃、崩れ去った廃ビルの様子を別な廃ビル屋上から見つめる者達が居た。
「……いやー、綺麗さっぱり崩れましたね! 李先生! 此処まで上手くと行くとは! 山猫さんと大熊さんにはご冥福をお祈りします!」
「同志新見……万が一などあっては拙いのだ……彼女らには確実に死んで貰わないと」
崩れ落ちた廃ビル残骸を見て喜ぶ、真国同盟の首魁、新見に対し、答える統一人民師団の李は難しい顔をしながら呟く。
「李先生、何も問題ありませんよ! スポンサーの方々には先日起こった地震の影響で偶々、廃ビルが崩れ去ったと言えばいいでしょう」
「……そんな安易な言い訳等通用する筈が無かろう」
軽く答える新見に対して、李は半信半疑だ。それもその筈、スポンサーが直接寄越した傭兵が二人とも事故死したと有っては、疑いを持たれるのは必然だろう。対して新見は調子を変えず軽く返す。
「大丈夫です! 李先生! 要は我々が速やかに“宝”を手にして掲げれば、スポンサー殿も黙り、態度を軟化させるでしょう」
「……そう上手く行くか分らんが……此処まで来たら……腹を括るしか有り得んな……次はどうする気かね? 同志新見?」
あくまで動じない新見に対し、李は不安を隠せない。しかし、スポンサーとの契約を反故にしている現状では、突き進むしか道は無いと分っている李は、新見に次の考えを聞いた。
「そうですね……山猫さんの情報の通り、“宝”は剥き出しになっている様ですし……」
「……それで……どうする心算なのだね?」
新見の答えに、李は訝しんで問い掛ける。スポンサーを裏切った手前、気が気では無い様子だ。
「その辺についてはお任せ下さい、李先生……近々、立て続けに大きな仕事を成します。それで……揺さぶりを掛けましょう。その後……仕上げと行きます」
「……現場の事は同志新見にお願いするが……我々には後が無いのだよ?」
「死なば諸共ですよ、先生……」
「くっ……、仕方ない……私の方は本国から金を出させよう……」
「はい、李先生……後は我々にお任せください」
あくまで訝しむ李に対し、新見は半ば脅して協力を促す。新見としては李に金だけ用意させれば、後は如何でも良かった。
李にしても、新見が“宝”であるマルヒト、つまり玲人を確保出来れば新見など不要だった。
新見と李は互いの腹を探りながら玲人と言う“宝”を独占出来るタイミングを計っていた。しかし彼らは知らなかった。彼ら自体に終わりが迫っている事等……。
◇ ◇ ◇
新見と李が話し合っている廃ビル屋上の上空に光を捻じ曲げられた空間が生じていた。
外部からは、絶対感知出来ないその空間に3人の人間が浮かんでいた。
それは先程の廃ビル崩壊で死んだ筈の、山猫と言われていたリジェと、大熊と称されていたドルジだった。二人の脇に、透明な少女アリエッタも控えている。
「……どうよ、アリエッタ。どうせつまんねぇ話してんだろ?」
「ご指摘の通りです、リジェ卿。彼らは大規模なテロ行為を立て続けに起こす心算の様です。そして混乱の最中、”雛”の奪取を目論んでいるかと」
リジェの問いに、新見と李の会話を盗聴しているアリエッタは侮蔑を込めて静かに語った。それを聞いたドルジが一言呟く。
「……目的の為には手段を選ばぬとは……ゴミ共め……」
「まぁ何の力もねェ、あいつ等がやりそうな事だがな……でもよ、アリエッタ。あいつ等の矛先が……エニ達に向かった瞬間……ウォルスには悪いが……奴ら皆殺しにすんぜ?」
「激しく同意する……」
ドルジの呟きに同意したリジェが力を込めて強く言い放ち、すかさずドルジも同意する。
「……その場合、僭越ながら私も御同行致します……ですがご安心を。彼女達にはディナ卿が常にお守りになっておりますし、間もなく護衛の騎士達も合流します……何より、この私が二度と彼らにエニ達には指一本触れさせません」
「……そうか……なら安心か。でも、ディナの奴もさっさとコッチ戻ればいいのによ……ウォルスの奴が流石に不憫だぜ……」
「ディナ卿もお辛いかと思います……ですがディナ卿は、誰よりもマセス様に忠誠を尽くされておられる御方……マセス様と、マニオス様との、お二人の間に有るマールドムに関する大きな齟齬が無くならない限り、あの御方は戻る事は出来無いでしょう……」
リジェの呟きにアリエッタが静かに答えた。それに対しリジェは昔を思い出した様に一言零した。
「……確かに……アイツも忠義厚いからな……」
「……うむ……」
リジェの呟きに、ドルジも相槌を打つ。一瞬暗くなった場を、リジェが仕切り直した。
「ところで、此れからアイツ等如の事、どうすんだ?」
「暫くは泳がすモノかと……“現場”の事はトルア卿にお任せする事になるでしょう」
「まぁ、そうなるか……アタイらも暇になったからトルアのトコ、冷やかしに行こうぜ」
「うむ!」
リジェの能天気な言葉に同意するドルジだった。そんな二人は喜喜として互いの体を光らせて転移して消えた。
一人残ったアリエッタは溜息を付き、ここに居ないトルアに同情しながら、二人の後を追う為に自身も転移したのだった……
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