15章 [閑話]~見えざる敵

[閑話] 164)安中大佐

 軍服が焼け焦げ炭化する程の電撃を受けても平然としている安中拓馬大佐を見て、早苗は……敵意に満ちた目で安中に強く迫る。


 「……さぁ、答えて貰えるかしら? 一体貴方は何なの!?」


 対して安中は酷く真面目そうな顔をして答える。


 「……ふむ……自分が、何者か……酷く哲学的な問いだな? 私が教えて貰いたい位だ」

 「!……いい加減にして!!」


 馬鹿にされたと受け取った早苗は激高し、両腕を発光させ豪炎を両手の平から放ち攻撃した。


 “ゴオオオオ!!”


 安中は豪炎に包まれ、火だるまになった。


 しかし……


 “パキン!!”


 そんな乾いた音が響いたかと思うと、一瞬で豪炎が消え去り、涼しい顔をした安中が苦笑を浮かべて立っている。如何いう理屈か軍服は今度は燃えていない。安中の苦笑は明確に早苗にある態度を示していた。


 ……無駄な事をするなと。



 対して早苗は冷静に次の手を打った。左手で黒鎖を生成し、右手は長大な光の刃を生み出した。廃ビルを綺麗に切断して見せた、あの光の刃だ。


 まず、黒鎖で安中の体を縛り動きを封じた。


 “ギャリギャリギャリ!!”


 そんな金属音と共に安中は鎖に覆われる。次いで右手の刃で、安中の胴を薙いだ。


 “ザイン!!”


 これで安中の体は真っ二つに為る筈だが……


 “チャリン!” “カラン”


 そんな音と共に地面に落ちたのは、早苗の黒鎖だ。確かに薙いだ筈の安中は血を流さず平然としていて、安中の足元には早苗が光の刃で切断した黒鎖が転がっている。


 状況から見れば、早苗が薙いだ光の刃は黒鎖に拘束されていた安中の体を切らずに、黒鎖のみを切断した事になる。そんな事は有り得ない、それが分り切っている早苗は安中に問う。

 

 「……一体、どういう事なのかしら?」

 「それは此方のセリフだ。八角早苗さん……炎とか光る剣とか……色々面白いイリュージョン見せてくれたが……しかし、こんな事の為に私を呼び出した訳じゃないだろう?」


 早苗の問いに安中は溜息を小さく吐いて面倒くさそうに答えた。早苗の攻撃など大道芸の出し物程度の扱いだった……


 対して、早苗は意外と落ち着いている。まるで知りたい事が分った様だった。



 「……なるほど……思った通り同族、って訳ね……」

 「君が何を言いたいのか、私にはさっぱり分らんな……」


 「私の攻撃を受けて平気だったのは玲君達だけだった……玲君達と私達はアーガルム族と言われる存在……つまりは貴方もそう言う事なんでしょう?」


 早苗は今までの安中に対する攻撃が全て通用しない事より、安中の正体が何となく予想出来た。何故ならさっきまで早苗は模擬戦で自身の攻撃が全く通用しない相手と戦っていたからだ。早苗の攻撃が全く通用しなかった相手……それは修一と玲人だ。


 玲人達は、早苗と同じアーガルム族という人を超えた存在だ。あいさつ程度とは言え、生身の人間では即死する攻撃を何度も凌いでいる安中が人類を指すマールドム族で有る筈が無かった。早苗は確信を持って安中に問い詰めたのだが……



 「……私は私だ……君が何と言おうと其処は変わらない」

 「あくまで、白を切るって言うなら、次はコレよ!」


 全く答える気が無い、安中に対し早苗は、右手からニョロメちゃんを生み出して安中に凄まじい速さで投付けた。ニョロメちゃんは安中の体に、スっと吸い込まれた。其れを見た早苗は安中に向かって叫ぶ。


 「そのエロメちゃんは、貴方の意志に反して私が操れるのよ! さぁ! 本当の事を言いなさい!!」

 「……無駄な事は止めるんだ……八角早苗さん……さっきの模擬戦で大御門准尉が、コレの対処法を言っていただろう? 術者である君より強い意志力を持てば、コレの支配力を無力化出来ると……」


 そう言って、ニョロメちゃんが入り込んだ筈の安中はまるで平気そうにしている。



 対して早苗は、気を抜いて呆れた様に安中に向かって呟く。


 「……あのね、大佐さん……その言葉、ほとんど貴方が普通の人間じゃ無いの認めた様な事よ? 確かに模擬戦で玲君は確かにこのエロメちゃんの対抗策について話していたわ……だけど、アーガルムである私の意志力より強い普通の人間なんて、いる筈無いでしょう? 

 貴方も見たでしょう、私が奥田じいじにエロメちゃん使って萌えキュンハートさせた事を……普通の人間は、私のエロメちゃんの支配に抗えないのよ?」


 「…………」


 早苗に意地悪な笑顔で言い切られた言葉に安中は苦虫を潰した様な顔で黙った。その顔を見た早苗は言葉を重ねる。



 「……今だって貴方は普通の人とは違うのよ? 安中さん……」

 「……どういう事かね?」


 意地悪な笑顔のまま、安中に自慢げに話す。対して安中はぶっきらぼうな返事をした。明らかに機嫌が悪い。そんな安中に早苗は勝ち誇った様に話した。


 「私は、アーガルムとして生まれ変わった次の日から相手の心を読み取る能力を手にしたわ……元は小春ちゃんが覚えた能力だったけど、直ぐに私も使い熟せた……仁那ちゃんは意外とこの能力苦手みたいだけど……とにかく、この心を読み取る能力を使って周りに居た人間の内面を片っ端から覗いたわ……

 別に、プライバシーの侵害が趣味な訳じゃ無い……正直、他人の事なんて如何でも良いからね……私が、それを行う理由は唯一つだけ……私の家族を守る為よ」


 「…………なるほど」


 早苗は其処まで話して、安中を見つめた。対する安中は早苗が次に何を言うか予想出来たので、一言だけ返した。その様子を見た早苗は続けて話す。


 「……私は、自分の家族を害する奴がいないか調べる為、私達と玲君達に関係する人間の心を読み取った……まぁ、色んな考えの人が居て面白かったのも事実だけど……その内、割と身近な関係者の心が読み取れない人間が居る事に気付いた。その数は3人……その中の一人が貴方よ、安中大佐」


 「……偶々じゃないのか? 心を読み取るなんてあやふやで証明しにくい現象だ」

 「もういいわよ、安中さん。貴方がマトモでない事はもう、確定だから……」

 「…………」


 安中の返答をバッサリと否定し、早苗は更に続ける。


 「……実はね、安中さん。私も今日までそう思っていたの。心を読み取る能力……誤差や相性が有るのかもってね……読み取れなかった3人は、皆私の知っている連中だし、気心も分っていたから正直気にしていなかった……

 だけど……今日、お空に浮かんでいたわね、美人な二人組が……その二人も同じ様に心が読めなかった。そして決定的だったのは……模擬戦中での出来事よ……安中大佐、貴方も知っている筈だけど私は、エロメちゃんを通じて周囲の状況を拾えるの……

 だから志穂ちゃんに渡しているエロメちゃんから、浮かんでいた二人を貴方が何度も気に掛けている所を感じていた……何も無い筈の上を見つめたりしてね……そしてその二人も同じ様に貴方の方を見ていた。それも一度だけじゃない、何度も……

 何にも見えない筈の空に浮かぶ二人を気付いたのは、あの場では私以外で貴方だけだった……色々有りすぎて疑うには十分でしょう?」



 そう言って早苗は安中を睨んだのであった……

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