58)過去編-4(ブエル)
大御門本家で起きた大爆発から6時間後、現場上空にはヘリが何機も飛び交い、救助活動と消火活動が続けられている様で怒号や重機の音が聞こえていた。
そんな常軌を逸した喧噪のなか爆発の爆心地へ垂直離着陸機により向かう者達がいた。大戦開始時、暫定政権が新たに発足させた自衛軍の新見宗助大佐とまだ若い安中拓馬少尉である。
二人は先行した施設班により平坦化された場所に降ろされ、その先へは徒歩で向かう事とした。その道中、新見は事前確認を行った安中に声をかけた。
「この先か、安中」
「はい、新見大佐。上空から確認しましたところ、大御門本家地下実験場跡と思われる地点に爆心地があり、その中心に発光体を視認できました」
「発光体とはどう意味か? 安中」
「爆発物反応も放射線検知もされておりません。目視による状況確認では、直径5mほどの白色に発行する球体が爆心地中心に確認されております」
「その発光体がこの爆発の要因だと?」
「現在の所、発光体には爆発物反応も放射線検知もされておりませんし熱感知はされません。爆発発生から6時間経過後も安定した状態であり、先行部隊の調査でも変化も見られず、自分も先ほど確認いたしました」
「どのような状況か」
「……自分ではとてもご説明できません。言葉で説明するなら、只々奇怪であると」
「お前の私見で構わない。状況を説明してくれ」
「了解しました。白い発光体の内部には長さ3m・横2m程の石状の祭壇があり、その上には、少年と少女が目視ですが死亡した状態で横になっています。
少年と少女は各々胸に刺し傷があり、これが致命傷となっている模様です。少年と少女の身元は現在調査中です。その他、祭壇の前方に大御門家当主の大御門剛三が建築物に挟まれた状況が確認されており、目視での死亡が確認されています」
「それだけか? 白い発光体の発生要因は? 爆発物の特定は?報告ではTNT換算で1キロトン相当の爆発エネルギーであったと聞いている。それほどの爆発があったその中心に形を成した遺体がある時点でありえない状況だ……安中、もう一度言う、全てを話せ」
「……信じがたいとは思われますが、生存者がいます。それも幼児です」
「……馬鹿な」
「事実です。しかも、幼児は二人おり、一人は男児で死亡した少女とへその緒が付いた状態です。その割には大きく、一歳児程度に見えます。まるで出産後、その場で成長したかの様です。ですが、問題は男児ではありません。もう一人の幼児は、女児ですが、何と言いましょうか、この点についてはご自分でご確認いただければ」
「分かった。自分の目で確認する」
やがて2人は先行して任務にあたった施設部隊により確保されたルートに従い、この大爆発の爆心地へ到着した。
爆発の中心地はすり鉢状となっており、実験場を構成していただろう巨大な建築物等はすり鉢状の地形の端にぺちゃんこに押しつぶされている様子だった。
すり鉢状爆心地の中心に何やら白い球状のものが見える。2人が近づくとそれは、結界というべきだろうか白い光の球体に包まれた巨大な祭壇だった。
光の球体内部は一切の被害から免れている様だった。祭壇には若い男女が胸から血を流して横たわっている。修一と早苗だ。
そんな早苗と修一の遺体の間に寄り添う様に男の子と首だけの女の子が眠っていた。そして、祭壇の横には、大きな建築物の下敷きになっている剛三の姿があった。
剛三の眼は見開き、口から吐血し絶命しているのは確実だった。祭壇の後ろ側には割れた真っ黒な石の玉が台座の上に乗っている。
「……状況は確認できた。信じがたいがコレが主要因の様だな」
新見は二人の幼児を指差しながら続けた。
「この石は大御門が欲しがった物だったな。暫定政権のご機嫌取りで多少融通を効かせて回してやった代物だった筈だ。
大御門の言う呪殺などバカバカしくて周囲の笑いモノだったが、まさか大御門のバカは大言壮語の責任を取って戦略兵器でも他国から輸入したか? こいつは傑作だ!」
新見は自棄になって冗長に語った。自身の眼前の状況が受け入れられるものでは無かった為だ。
「……新見大佐」
安中は新見を制した。
「分かっている……この白い光の壁、触れるが侵入を防止するな。中の二人を守っているのか。男児は眠っているようだな。そして信じがたいが、この首だけの女児も生きているようだ。女児の首から生えているのは動物の足か?」
「自分はこの姿を見て、ブエルという怪物を思い出しました」
「ブエル……西洋の悪魔か何かだったか? 詳しいな」
「自分の知識は幼いころ見たアニメのものですが。確かライオンの頭にヤギの足をもつ怪物でした」
「興味深い話だが状況を鑑みると、大御門剛三は祭壇の上の少年少女を生贄にしてサバトで悪魔を生み出したと言う訳か? 石に悪魔が封じ込まれていた? オカルト雑誌が喜ぶ特大ネタだな!」
「確かにネタとしては面白い話です。この壊滅的破壊により数百名が死亡していなければ、ですが」
安中は自嘲気味に語った。
「……安中、お前は大御門の誇大妄想な実験に付き合う様、俺が命じたがそのお前がこれをどう思う? 参考に聞きたい」
「以前に報告させて頂きましたが自分は大御門の実験に直接関与は出来ませんでした。彼らが言うには“秘伝”との事で。従いまして彼らの実験結果は中間報告的な簡易なレポートしか受けておりませんが」
「俺自身全く重要視していなかったからな。その中ででも思う事があれば教えろ」
「はい、私見で良ければ。死亡した大御門が掲げる敵性対象の呪殺作戦自体が元々具体的解決策ではなく、我々自衛軍の姿勢としては大御門剛三に踊らされた、暫定政権の過度な期待による圧力を、緩和するためのイベント程度の認識であり、自分が受けた任務は暫定政権に対する、自衛軍の参加表明のアピールだと考えていました」
「辛辣な皮肉だな。概ね正しいが。少なくとも俺にとって大御門の案など笑い話のネタだったが、問題はそんな与太話を真に受けるほど、現政権が無能かつ無力だという事だ。しかし与太話とはいえ命令であれば我々としては対応せざるを得ない。
その対応策として、お前を大御門に付けた理由だった。新規兵器開発の視察という名目でな。しかし実際の所は貧乏くじを引かせたとは思っていた」
「いえ、自分のような若輩者には過分な任務です」
「そう皮肉るな。大御門の案など俺は全く信じていなかったが、その思惑とは異なり大御門剛三は事を成したと言う訳だ」
新見は興奮気味で周囲を見渡して言ったが安中は落ち着いて言った。
「自分は、大御門剛三がこれを成した訳では無いと思います……」
「どう意味だ?」
「自分はこの任務に当たり、大御門家について可能な限り調べましたが、この一族は妄執に狂い相当多くの人間を殺しています。決して表に出ない方法で。この破滅は目の前の少年少女の様に、大御門家の妄執により殺された者達の恩讐による成果に思えてなりません……」
安中は目を伏して力なく呟いた。
「呪いでも何でもいい。戦力になるならば。周りを見るがいい、この成果を! ハハッ 瓢箪に駒とはこの事だな! 仕組みは、全く分からないがこの威力は低威力核兵器に匹敵する。
しかも汚染物質をまき散らさない。我々がこうして爆心地で立っていられるのがその証拠だ。しかもこいつ等はまだ生きている!」
「……新見大佐」
さっきから興奮気味な新見を安中は新見をまたも制した。立場上ありえないが、危険な兆候と考えたからだ。
「安中。こいつ等を駐屯地へ運べ。出来るだけ速やかに。こいつ等がこの現象にどう寄与したか十二分に調査する必要がある。再利用出来るのかどうかも。白い光の壁状のものがこいつ等を包んでいる為、祭壇ごと、もしくは掘り返して地盤ごと運べ」
「……下手に動かす事に危険はないのでしょうか? このままこの場所にて調査すべきではありませんか」
「それは違うぞ、安中。爆発で開放されてしまったこの場所に置く事こそ危険だ。もしここでTNT1キロトン相当の爆発が再度生じた場合、障壁類が無い為その被害は6時間前より更に甚大なものになるだろう。
一刻も早く軍の施設へ移送すべきだ。移送中の暴発の可能性もあるが、崩壊したこの場所で遮蔽壁の建築は困難であり、時間が掛かりすぎる。全体的なリスクを考えると移送するしか手はない」
「……了解いたしました。新見大佐、自分は大御門関係者を集め祭壇の少年少女の身元確認と、大御門が今回進めていた実験の詳細を追います」
「そっちは任せる。それと出来るだけ速やかに大御門家の人間を俺の前に連れてきてくれ。マスコミや暫定政権への対応は俺の方で考える」
こうして祭壇の上の子供達はコンクリートの地盤ごと駐屯地に搬送されることになった。力を使い果たしたためか、子供達は深く眠っており幸か不幸か、何の問題も起こらなかった。
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