50)黒田
その日の放課後、玲人と二人で帰っていた小春だったが、突然男に呼び止められた。
「君達、ちょっといいか?」
声を掛けた男は、サングラスを掛け顔の左側に激しい火傷跡が見られる凄みのある風貌をしていた。男は別に若い真面目そうな青年を一人連れていた。小春は男の風貌に怯え、声を出せずにいたが、玲人が割って入り男に接した。
「……何か、ご用ですか?」
男はフン、と鼻を鳴らして懐から手帳の様なモノを出し玲人に示して言った。
「俺は黒田という。見ての通り警察の者だ……君達に少し話を聞かせて貰いたい。この前起こった駅前モールのテロ事件についてだ」
玲人と小春は黒田と名乗った男に連れられて警察署の取調室に連れて来られた。取調室に小春と玲人は並んで座らされ、二人の前には黒田が座って二人を睨んでいた。黒田の斜め後ろにはさっきの真面目そうな青年が困り顔で立っていた。
この時点で小春は既に涙目だ。対して玲人は不遜ともいえる態度で黒田を見返していた。
「改めて名乗るが、俺は黒田だ。後ろの奴は中崎だ。君らの名前を教えて貰おう」
「大御門玲人です」
「い、石川小春です……」
「……おおみかど、れいと……成程、やっと繋がった様だな……さて、早速だが君ら二人は丁度一週間前に駅前の大型ショッピングモール一階にて、発生したテロ事件に巻き込まれた筈だ。その中でテロ組織を鎮圧した黒いマスクの男について知ってる事を教えて貰いたい」
「……ええと、そ、その……」
「小春、此処は俺に任して」
小春が狼狽えて困っていると、玲人が割って入った。
「……黒田さん、これは取り調べですか? そもそも正式な手続きを踏まれたものですか?」
玲人が冷静に指摘すると、黒田はフン、と鼻で笑い、後ろに控える中崎は大いに慌ててる。
「……参考人として君らの意見を聞きたい」
「という事は任意ですね。下らない話なら供述を拒否し、帰らせて頂きます」
机を挟んで黒田と玲人が睨み合う。小春と後ろの中崎はオロオロしている。
「まずはコレを見て欲しい」
そう言って黒田が見せたのは5cm程度の銀色の針だった。玲人は自身のモノであるにも関わらず全く慌てず返答した。
「これがどうかしましたか?」
「……これはテロ実行した被疑者の内、3名の両手足の関節に突き刺さっていたモノだ。この針は膝や肘の固い関節部分にまで、深く食い込んでおり抜くのに大変苦労したそうだ」
「そうですか」
「問題はこの針をどうやって突き刺したかだ。ナイフやアイスピックの様にある程度握れる長さが無いと頑丈な関節部の骨まで突き刺す事が出来ない。それだけじゃない、初めに無力化された13名の被疑者全員の両手足関節にもナイフとフォークが突き刺さっていた。現場に居た目撃者の話では、ナイフとフォークが勝手に“飛んで”刺さったそうだ……」
「面白い事も有るモノですね」
「…………面白いってんならコレなんかもっと凄いぞ。目撃者の中には端末で現場写真を撮ってた奴が居てな。見てみろや、誰かさんとそっくりな奴が写ってるぞ」
そう言って黒田がバサッと10枚程度のプリントアウトした画像を机に広げた。其処には黒いフェイスマスクで顔下半分を隠した玲人が写っていた。
「……いい加減認めろや……お前なんだろう? 黒いマスク……」
黒田は玲人に詰め寄るが相対する玲人は、何を思ったが笑い出した。
「ははは、黒田さん……アンタ、刑事よりゴシップ雑誌の記者の方が向いてるんじゃ無いですか」
「てめぇ!!」
「ダ、ダメです黒田さん!」
激高した、黒田が拳を握りしめて振り上げるが後ろの中崎が慌てて制止する。
その様子を見た玲人は小馬鹿にした嘲(あざけ)りの視線を二人に送る。玲人の横に居る小春は相変わらず涙目でオロオロしていた。小春の怯えに気付いた玲人はふぅ、とため息をついて黒田に話す。
「……もういいですか? 帰りますよ、俺達」
「ダメだ!! 肝心な事を聞いてない! お前が、マルヒトなんだろう!?」
“マルヒト”という単語を聞いた玲人は一瞬、動きを止めたがすぐに冷静さを取り戻し冷静に返答した。
「……さぁ何の事ですか?」
「てめぇがマルヒトなのは分ってる。今回の事件。この写真はどう見てもお前だ。そして、お前の苗字の大御門……それは14年前、爆発事故があった地方財閥の名だ。大昔から暗殺紛いの事してたって噂のな。それにお前の名前、“玲人”はマルヒトを意識して名付けられたんだろう。マルヒトは軍隊の数字の読み方で01だ。どこの間抜けが名付けたかは知らんが、そのまんまじゃねーか!」
「……バカバカしい。根拠も何もない、こじ付けだらけですね。それに俺の名の玲人は大御門家現当主で叔父である弘樹が“透明感のある優れた人”という意味を込めて名付けて貰いました……根拠のない噂で叔父を馬鹿にすると唯では済みませんよ……」
玲人は、敢えて叔父の立場を示して圧力を掛けた。脅しは真面目な中崎には大いに効果があった様で更に狼狽していたが、黒田には逆効果だった様で更に怒りを燃やし、決して言ってはいけない一言を玲人の前で言ってしまう。
「お前が何も言う気が無いって言うならもういい!! ……だったらもう一人の“マルフタ”って奴に問い詰めるだけだ!」
小春は“マルフタ”の名前が出た瞬間、取調室の空気が変わった事に気が付いた。小春が玲人の方を見ると、其処には感情を消した玲人が居た。ただ……小春が今まで感じた事が無い恐ろしい何かを玲人は発していた。小春は知らなかったがそれは明確な殺気だった。
「……“マルフタ”をどうする、って?」
「だから、お前が口を割らねぇなら、ソイツに……うぐぅ!! な、何するんだ! 中崎!」
「いいいえ、お、俺は何も……腕が、勝手に!」
小春が見ると、後ろで控えていた中崎が黒田の胸倉を両手で掴んで持ち上げていた。その姿勢では黒田の首が締まってしまう。
「……もう一度聞くぞ……“マルフタ”をどうする、って?」
「うぐ、ぐるじい!! ながざぎ! 手をはな……」
「ちちがうんです!! おれじゃ! おれじゃ! 無い!!」
中崎は狼狽し大声で叫ぶが腕だけでなく体の自由も効かないのか、両手で持ち上げ続ける。このままでは、黒田が死んでしまう!と思った小春は、玲人に叫ぶ。
「玲人君!!」
「…………」
小春の叫びを聞いた玲人はすっと目を細める。すると黒田の胸倉を掴み続けた中崎の体は自由になったみたいで、黒田を離し、へたへたと座り込む。離された黒田は中崎を殴り飛ばした。
“ボゴ!”
殴り飛ばされた中崎は盛大に壁に激突した。思わず中崎を殴ってしまった黒田は両手をついてゼェゼェと激しい息を吐いている。
「ウゲェ、ゲホォゲホッ ゼェゼェ……そ、そう言えば、被疑者の中に、自分の足を……ゲホッ……自分の両足を、撃ち抜いた、って奴が居たが……ハァハァ、それはこういうカラクリか……」
「……さぁ? 何の事ですか?」
黒田が這いつくばって荒い息を吐き、殴り飛ばされた中崎は腰を摩りながら立ち上がろう、とした時に取調室の扉が開き大声が響いた。
「何やっとるか!! 貴様ら!!」
取調室に入って来たのは制服を着た恰幅のいい初老の男と、軍服を着こんだ安中が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます