26)各自の能力
安中により志穂隊員が説教される中、他の4人は待機室を後にする。今日の所は自宅に戻れないと悟った玲人は駐屯地内にある寄宿舎に行こうと歩き出した時に声が掛かる。
「お、大御門准尉殿? もし良かったら食事一緒に行きませんか?」
振り返ると其処には前原兵長ら3人と、安中に怒られて涙目の志穂隊員が居た。
食事をしながら泉沙希上等兵が玲人に質問する。
「……准尉殿は普段は自宅通いですか」
「えぇ、一応学生ですから。ところで敬語は止めて貰えませんか? 自分の方が随分と年下ですし。逆に気を使います」
「……それじゃ遠慮なく。大御門君は何時から任務に就いてるの」
「玲人でいいですよ、同じ班なんだし。自分が自衛軍に入ったのは生まれてすぐでした。気が付いたら安中大佐や奥田中将閣下と一緒に居ました。お二人とも階級は今と違いましたが」
「……!! じゃあ14年近く軍に関わってるのか? でも生まれてすぐって……どういう事だ?……」
「その辺りについて自分は余り事情を言えませんが、6歳位からは正規に任務に就いています」
前原浩太兵長の質問に玲人が答える。すると押し黙っていた伊藤雄一曹長が口を開く。
「……俺は、この中部第3駐屯地の噂を良く聞かされた。あそこには“隻眼”っていうとんでもない怪物が居る”ってな。それが君か……」
「えぇ、怪物は言い過ぎだとは思いますが“隻眼”は俺のコードネームです」
ここで、ふんふんと話を聞いていた垣内志保隊員がいきなり興奮した面持ちで食いついてきた。
「ねぇねぇ! “隻眼”ってどういう意味なの?」
「……明日の模擬戦で分ると思います」
「ふーん、意味ありだねー! 楽しみだよエスパー玲!」
「……なんですか、その呼名……」
「……さすが年齢を感じるな」
「うっさいわ! この筋肉ダルマ」
口論を始めた伊藤曹長と志穂隊員をなだめる為、慌てた沙希上等兵が皆に質問を投げかけた。
「……え、えぇと、皆はどういった特技を持ってるの? ちなみに私は浩太と同じでパワードエクソスケルトン(強化外骨格)の長期訓練を受けて運転資格も取ったわ」
「俺は沙希に言われた通りだ。俺と沙希は同期でね。同期の内、適正が有る俺らが選定されてパワードエクソスケルトン(強化外骨格)の長期訓練を受けた。まぁ映画とかアニメで一般的にはパワードスーツって言われている奴だ。俺らは長いから単にエクソスケルトンって呼んでる。それとエクソスケルトン訓練以外に俺はレンジャー課程を受けている」
パワードエクソスケルトンは戦前から研究されている歩兵の装備だ。開発当社は単にアシスト機能で砲弾の運搬等を目的とした物だったが研究開発が進み歩兵の身を守るボディアーマーと同化された物が主流となった。パワードエクソスケルトン(強化外骨格)は第三次世界大戦時に急速に発展した。
大戦時、崩壊した市街地での戦闘が大半であり歩兵の生存率を高める事と、戦車並みの機動力と火力を持たせる事が目的だった。特に海外のフラテルニテ社が戦後開発したパワードエクソスケルトンは極めて画期的で世界的標準仕様となった。
フラテルニテ社はこの事業で急激に業績を伸ばし、その利益により様々な分野の企業を吸収合併しながら国際企業へと急成長した。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進し続け、最近でも画期的な抗癌治療薬を開発したと報道された大企業だ。
フラテルニテ社のパワードエクソスケルトンは全高3m程の強化外骨格だ。最大の特徴は搭乗員の体表面から表面筋電位を利用し複雑な操作系を簡易にし、操作性を大幅に向上させた。身に着けて意識するだけで操作できるのだ。
更に手足の駆動力はフラテルニテ社が新たに開発した特殊材料における人工筋肉だ。電圧を与える事で収縮し、電圧付加を止めると元の形状に戻る。この人工筋肉は応答性が早く出力が大変大きい事が特徴だった。
強力な人工筋肉は高度なAIにより出力を制御されていた。また、フラテルニテ社のパワードエクソスケルトンは両足の踵部(かかとぶ)に高速走行用の車輪が内蔵されており2足歩行のみならず市街地などは車輪走行が可能な仕様だった。
フラテルニテ社は操作デバイスや新しい人工筋肉及び二足歩行に加えた車輪走行システムだけでなく、電力用動力源の性能改善や高度なAIなど、独自で新技術を次々に提供し、パワードエクソスケルトンのシェアを独占していった。
フラテルニテ社が提供するパワードエクソスケルトンは操作性が非常に良かったが、機体の性能を十分引き出すには、高い練度が必要だ。
ましてやパワードエクソスケルトンは非常に高額であり高い戦闘力を有した装備である為、各国の軍が運用する事が大半だった。
その為、パワードエクソスケルトンを扱える兵士は高い適正を持ち、尚且つ優秀な兵士が選ばれた。
前原浩太兵長が玲人達に説明を続ける。
「明日の模擬戦は俺と泉沙希上等兵はエクソスケルトンで出撃するだろう。今後エクソスケルトンにおける戦闘は増加すると思う。安中大佐はその事を見越して、今回の部隊編成を考えられたと思う」
「……俺もその兵装を見るのは初めてです。やり合うのは装甲車程度なんで。そう言えば伊藤曹長と垣内隊員はどの様な特殊技能をお持ちですか」
玲人がさらっと“装甲車程度”と言った事で空気が凍ったが、玲人が質問をした事で有耶無耶になった。
「あ、ああ。俺は狙撃だ。元はレンジャーに居たが今はこっちがメインだ」
「……ダルマが……小指ぶつけろ……私はサイバー戦が主だよ。だから基本的には支援要員だね。後はネットワーク回線を利用して無人兵器群の操作も出来るよ」
「……最初、何か呪いが聞こえた様な気がしたが垣内?」
「……おほほ、気のせいでしょう」
全員の得意分野を聞いて玲人は素直に感心した。少人数ながら各個人が優れた能力を保持していると感じ、尚且つ戦力バランスが取れているからだ。安中は本気でこの特殊技能分隊の戦力増強に取り組んでいると思ったのであった。
「……皆凄いな。前衛の前原さんと泉さんに後方からの牽制と援護の伊藤さん、そして何より全体支援を担う垣内さん……流石大佐だ、良くこれだけの人材を此処に集めて来れたな。自分の負担が減りそうで正直有り難いです」
「いや、俺の方こそ伝説の隻眼と組めるなんて……同期の奴らに自慢出来そうだ。俺は君の様な凄い人と組めて名誉だと思っている」
伊藤が玲人にそう答え、いきなり握手を求めてきた。さすがの玲人も苦笑して応えた。
「……さすが脳筋、いちいちやる事が体育会系……」
「……なんか言ったか、垣内?」
「……何もねーです……ダルマが……小指ぶつけろ……」
「あ?」
「……何もねーつってんだろダルマ!」
また喧嘩を始めた伊藤と垣内だったが泉が仲裁に入って話題を変える為二人に質問をした。
「え、ええっと伊藤曹長と垣内隊員は、その、此処に来る前からお知り合い、ですか……その恋人とか?」
「「はぁ!?」」
珍しく息が合った伊藤と垣内だった。
「……あのな、泉上等兵。どんな誤解があったか分らんが、それは無い。幾ら俺でも相手は選ぶぞ?」
「……こっちのセリフだわ、ダルマが! ……小指ぶつけて悶えろ! むしろ両足のスネ鉄骨でぶつけろ! 鉄骨の角で!!」
「……あぁ?」
「ちょ、ちょっとー!」
また、喧嘩になりそうになった伊藤と垣内に慌てて泉沙希上等兵が止めに入り、前原は苦笑を浮かべ、玲人は何も考えずぼーっとしていた。
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