25)新しい仲間

 3人で話しているとドアがノックされる。部屋に入ってきたのは安中大佐だ。安中は後ろに別な男女を連れている。安中が連れて来た男は筋骨隆々の長身の男だ。髪型はさっぱりとしたショートで如何にも武人らしい容姿だった。


 もう一人の方はかなり小柄で眼鏡を掛けた大人しそうな女性だ。職業軍人らしからぬポニーテールの髪型だった。この男女も軍服姿であった。


 安中を見た瞬間、玲人の横に居た男女は突然立ち上がり敬礼を行った。それを見た安中が彼らに声を掛ける。


 「……揃っている様だな?」

 「ハッ 前原浩太兵長並び泉沙希上等兵、西部第4駐屯地より中部第3駐屯地に配属されました。宜しくお願いします!」

 「ご苦労。伊藤雄一曹長、垣内志穂隊員、自己紹介を頼む」


 安中に連れて来られた男女が自己紹介を行う。


 「自分は伊藤雄一曹長です。中部第14駐屯地から中部第3駐屯地に配属になりました。宜しくお願いします」

 「あのー、私は……正規軍の所属じゃなく無理やりっていうか、命令? 的な感じで来てます。立場上、なんか勝手に予備隊員って事になってます……」 


 最後、締まらない形で4人の挨拶が終わった。残っているのが玲人であるがボーっとしながら、あらぬ方向を見ていた。そんな玲人を無視して安中は残る4名に説明を始める。


 「諸君らに集まって貰ったのは他でもない。この中部第3駐屯基地の特殊技能分隊に所属してもらう為だ。この地域はテロ組織との激戦区であり、そして噂は聞いているだろうが中部第3駐屯基地の特殊技能分隊は他を追従させない任務成功率を収めている。諸君らは調書によると各自特殊技能を有している。諸君らには各自技能を生かしてこの特殊技能分隊に所属し任務に就いて貰う」


 「「「ハッ」」」

 「……はーい……」


 何となくまとまった所で安中は横に座っている玲人に目を向ける。控えている4人の男女は“この子誰だ? 場違いでは……”的な目を向けている。そんな様子に苦笑した安中は、玲人に声を掛ける。


 「大御門准尉、ちょっといいか」


 安中の呼掛けに玲人は立ち上って返答する。


 「はい、安中大佐殿」

 「「じゅ、准尉?」

 「馬鹿な。まだ子供では?」

 「?」


 4人の男女は玲人が返事したことで様々な反応を見せた。安中は構わず続ける。


 「君が所属するこの特殊技能分隊は設立以来、他の追随を許さない任務成功率を上げてきた。しかしそれは君の特殊能力が有ってからこそだ。つまり君が居たから出来た事だ。逆に言ってしまえば君が居ないと、この成果は成しえなかった」

 「過分な評価です。安中大佐殿」


 「過分では無い、明確な事実だ。君が軍務に関わった10数年間がそれを示している。問題は君が未成年であり、尚且つ君の代わりが居ない事だ。其処で我々としては君の戦力を補うべく、特殊技能を持つ人材を確保し、任務について貰う事となった。その人材がこの4名だ」


 此処まで説明を聞いた玲人は、彼らを眺め安中に質問する。


 「……では彼らも自分の様な能力が?」

 「いや、残念ながらそれは違う。君と仁那技官の様な能力者では無い。君たちの様な強力な能力者は世界中探しても見つからないだろう。しかし彼らは各自、卓越した技能が有りその技能を持って君を補佐する。そしてこの分隊長に坂井少尉を付ける心算だ。君とも付き合いが長いし旨くやれるだろう」


 「……分りました大佐殿。ご配慮感謝いたします。今後彼らと協力し任務に当たります」

 「お、恐れながら、安中大佐殿。その、彼は本当にじゅ、准尉殿でありますか?」


 前原浩太兵長が信じられない、と言った面持ちで安中に問いかける。安中が来るまで、前原は玲人にロックバンドについて高説をした為、挙動不審だ。


 「明確な事実だ、前原兵長。この中部第3駐屯基地の特殊技能分隊が長期に渡り、他の追随を許さない任務達成率を達成しているのは、其処に居る大御門准尉の力と言っても過言ではない。そう意味で彼が准尉など低い立場であるのは本来有ってはならない事だが、彼がまだ未成年である事を考慮した苦渋の判断だ」


 「「「…………」」」

 「へー」

 

 安中の言葉に垣内志穂隊員以外は、皆唖然としている。その様子を見た安中は、ある事を思い付いて彼らに語りかける。


 「諸君らは、この分隊に配属される前に有る誓約書を書かされた筈だ。その誓約書には公私に渡り、この分隊について知り得た情報の機密保持について、厳格な明記が有ったと思うが間違いないな?」

 「「「ハッ」」」

 「……何か書いてましたー」

 「その事を胸に刻んだ上で、これから目にする事を外部に決して洩らさないように」


 そう言って安中はポケットから高級そうな万年筆を取り出し、思いっ切り玲人の顔面に投付けた。


 傍で見ていた4名は、突然の事で安中の暴挙に対応が出来なかった。其処に居た4名全員が、投げられた万年筆が距離も近く結構な速度だった為、玲人の顔面に大きなダメージを残すと思った。



 しかし……



 投げられた万年筆は何時まで経っても玲人の顔面には当たらなかった。何故なら空中でピタリと静止していた為だ。


 「こ、これは……」

 「「「…………」」」


 驚愕する4人を尻目に玲人が安中に問いかける。


 「大佐殿、お返しした方が宜しいですか」

 「お手柔らかに頼むよ」


 安中がそう言うと、玲人は頷いた。空中で静止していた万年筆は、ゆっくりと水平移動し安中の胸ポケットに静かに収まった。


 傍で見ていた4人は声も出せず驚いている。その様子を見ていた安中は、4人に説明する。


 「……見ての通り、大御門准尉は特別な能力を有している。彼の能力は万年筆を浮かせるだけなんて、可愛いものではない。彼はこの能力を持って十数年間自衛軍に貢献している。彼の能力について公私にわたる情報漏洩は、厳罰に処されるので各位その心算で」


 「「「「……」」」」

 「うん? 各位返事は?」

 「す……」

 「す?」

 「すすすげー!! マジすげー!! マジもんのエスパーキター!!」


 安中の問いに3人は声を失ったままで、予備隊員の垣内志穂隊員だけが大興奮している。


 「ねぇ! ねぇ! 君!! 歳は!?」


 志穂隊員は興奮を止められず、玲人に駆け寄り掴み掛かりそうな勢いで質問する。


 「……14歳です」

 「14! 中二じゃん! どこのアニメだよコレー!!」

 「……垣内隊員?」

 「すげーモン見ちゃったなー! ダルマのせいで捕まってクラッキングちゃらにする代わり無理やり働かされて、人生詰んだって思ったけど、これ配信しちゃえばぼろ儲け……」

 「……いい加減にしろ……」


 青筋を立てた安中に万年筆でこずかれ、志穂隊員はうずくまって黙った。


 「今しがた、無論冗談だとは思うが、垣内隊員が不謹慎な発言をしたが、間違っても此処の情報を外部に洩らさない様に。厳罰は冗談ではない」

 「「「ハッ」」」

 「……はーい」


 「宜しい。ところで明朝、市街戦を模した演習場にて各位の特殊技能を持って模擬戦を行う。各位の使用する兵装類は既に準備済みだ。今日の所は解散とし、明日09:00より模擬戦についてミーティングを行った後、模擬戦を行う。それでは、各位解散!」

 「「「ハッ」」」

 「……ふーい」

 「……あぁ、垣内隊員のみこの場で待機。先ほどの復習を行う」

 「……うわ、詰んだし……」


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