7)もう一つの出会い

 次の日の朝、いつもの様に玲人が迎えにきた。通学途中小春は玲人に昨日作った着ぐるみを渡す。


 「お、大御門君、ここ、これ貰って、くれる?」

 「ん? これは……昨日姉が言っていた人形だな」

 「え?」


 小春は驚いた。この人形は家族以外に誰も見せていない。玲人や、その姉が知るはずが無かった。だから玲人の何時ものブラックジョークだと思って聞き返す。


 「お、大御門君。脅かさないでよー、この人形はサプライズで渡そうと思ったから、今日初めて見せたんだよ」


 「いや、昨日姉が興奮して言ってたんだ。“とってもかわいい人形だから喜んでもらって” と。確か人形の名前が“一つ目ちゃん”だったか。この目に服を着せるとは思わなかった」


 玲人は何でもない様子で朗らかに言った。しかし小春は衝撃が大きすぎて倒れそうになった。


 (えええぇ! 一体どういう事!? 何で名前まで知ってるの!)


 フリーズして立ち止まる様子を見た玲人が首を傾げ問いかける。


 「どうかしたか? 石川さん?」

 「……大御門君のお姉さんって、もしかして超能力者?」

 「……世間的にはそういう者かもしれないな」


 急に真面目な顔して玲人は答える。本気なのか冗談なのかイマイチ読みにくい。玲人が続ける。


 「……石川さん。済まないが俺の姉が超能力者である事は内緒にしてくれ」


 小春は思わずコケそうになったが、玲人が真剣な顔で言うため、いつもの冗談を真顔で言っているんだろう、と思った。


 「……分ったよ、大御門君のお姉さんが超能力者な事は内緒にしてあげる。それでこれ受け取ってくれる?」


 小春は人形の名前を玲人が知っていた事など、色々気になる所はあるが、生真面目に冗談? を言う玲人が面白くて、取敢えず気にしない事にした。


 「ありがとう、石川さん。早速“目”に着せるよ」


 そう言って玲人は自分の持っていた“目”に着ぐるみを着せた。色違いだが小晴と、お揃いの一つ目ちゃんだった。


 「大事にしてね! 大御門君」


 小春は嬉しくて仕方ない様だ。


 「わかった。この目は相棒の様なものだ。こいつも服を着せてもらって喜んでいるだろう。姉も喜んでいた。重ねて礼を言う」


 こう言って玲人は小春に深々と頭を下げた。


 「お、お、大げさだよ! に、人形くらいで。それより何時もその人形着けといてね。わたしも大切に持っているから」

 「君は、姉の様な事を言うのだな。姉がきっと喜ぶ言葉だ。礼を言う」

 「い、いいよ! それより早く学校行こう!」


 小春は玲人の真摯な姿に顔を赤くして狼狽えた。人形位でこんなに喜んでくれるなんて、小春としても本当に嬉しかったのだ。その気持ちを隠す為、照れ隠しで学校へ行こうと促した。


 「了解した。石川さん。所で……」

 「え、何かあるの?」

 「……ああ。実は俺も……」

 「俺も?」


 小春は首を傾げて聞き返す。玲人は真剣そのものだ。


 「俺も姉と同じく超能力者らしい。黙っててくれないか?」


 小春は芸人の様に転びそうになった。




 その日の夜の事だった。小春はいつもの様な日常を過ごした。夕食を家族で食べ、色々聞いてくる陽菜に玲人の事を語り、家族で一緒にテレビを見てお風呂に入った。


 いつも平凡だが何処にでもある穏やかな家族の生活だった。そんな一日を過ごした小晴は軽く課題を終えてベッドに横になった。お風呂以外は“一つ目ちゃん”は一緒に持っていた。


 そして小春は何時の間にか深い眠りにつく……




 小春は目が覚めると、真白い美しい部屋に居た。正面には大きな扉がある。自分を見ると小春自身も真白いワンピースを着ていた。なぜか靴は履いておらず裸足だった。


 “こっちに来て……”


 突然声が頭に響いた。昨日聞いた美しくて優しい感じの声だ。そしてとても安心出来る。小春には何故か分かる。この声の人は扉の向こうから呼んでいると。


 “大丈夫、怖がらないで……”


 また、小春を安心させる声が聞こえた。足が自然と扉の向こうへと促される。小春は勇気を出して扉を開けた――



 そこは美しい緑の平原だった。草が青々しく何となく初夏の香りがする。 空は真っ青な雲一つない青空だ。


 緑の平原を少し歩くと、美しい池が見えた美しい池の横には木で出来たベンチがある。そして良く見れば池に何か浮かんでいる。何だろうか? 小春は池に近づく。



 ……花だ。巨大な白い花が浮かんでいる。花はまだ完全には開いていない。真ん中の花びらが閉じている。



 “お願い。私を見ても怖がらないで……”


 あの声は花の中から聞こえる。今度はとても弱弱しく不安そうな声だった。


 「大丈夫よ。絶対怖がったりしない」


 小春は安心させるようゆっくりと静かな声で返事をした。何故だろう。小春には何を見ても怖がらない自信があった。


 “…………”


 白い花がわずかに震え、ゆっくりと花びらが開いていく……。


 そして花は完全に咲いた。花の中心には、……目を瞑った少女の顔があった。


 栗色のルーズウェーブの髪を持ったとても美しい顔だ。体は無く、顔だけが花の中心にまるでめしべの様に収まっていた。


 小春は思わず笑って言った。


 「怖いどころか、綺麗すぎてビックリだよ」


 すると花の少女は一瞬たじろぎ、ゆっくりと目を開き小春に話しかけた。


 ……その瞳は金色だった。


 「本当に驚いた。私の事を怖がらずこんな風に接してくれるなんて」

 「こんなに綺麗な顔をしていて、怖がるなんてありえないよ。散々脅かすから緊張しちゃった」

 「……綺麗、そんな風に言われたの初めて。私の姿を初めて見た人は、大体とても怖がるの。だから、とても嬉しい。小春」

 「わたしの名前、何で知ってるの?」

 「知ってる。ここはあなたの世界でもあり私の世界。だからあなたの事は良く分かった。あなたの世界はとても綺麗。この世界はあなたと私を表したもの。心地いい世界、だからあなたはとても心地いい存在」

 「それじゃ、あなたもとても心地いいよ」

 小春にそう言われた少女は嬉しそうに笑って話を続けた。

 「ねぇ小春。私、あなたとお友達になりたい」

 「わたし、なんかでいいの?」

 「小春がいい」

 

 そう言った後、周囲に霧が立ち込めだした。


 “……ごめん、もう、限界…… また会いに、来るわ……“


 そう言った後、美しかった世界が揺らぎ始め、小春の意識も遠くなっていった……。



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