エピローグ
私は腐女子
――二年後――
早いもので、私も高校三年生。俗に言うLJKになりました。
そう、女子高生と言う肩書きを使うことが出来るのも、今年度が最後となってしまいました。
とは言え私の場合、エスカレーター、つまり内部進学で慶蘭義塾大学に行くことが決まっているので、のんびりと毎日を過ごしています。
あ、もちろん腐女子は継続中です。これは私の生き甲斐ですし、譲れません。秘密のクローゼットも健在です。
むしろBLワールドを拡張しなきゃな。なんて、密かな野望も持っていたりいなかったりで。
そうそう、もうひとつの生き甲斐の状況報告もしなければいけませんね。
……はい。
美少女アンドロイドみかんは、依然として私の元には戻ってきていません。
どころか、二年前に手紙を貰ったのを最後に、ぷっつりと音信不通となってしまいました。
この薄情者!!
ああ、ごめんなさい。
最後くらいお淑やかに振舞おうと思ったのですけれど、うっかり本性が出てしまいましたね。えへへ。
それと言うのも、二年前、みかんから手紙を貰った後、すぐに返事を書いてマリーに託したのに、全く何の反応もなく梨のつぶてで、私の書いた手紙が本人に届いたのか届いていないのか、皆目見当もつかない状況なのです。
みかんは今頃何をしているのだろう。
「あかねっ! 何をボーッとしてるのですの?!」
「ああ、マリー……んーん。何でもないよ。」
「今日の帰りに、カラオケ行きますわよ!」
「あーー。どうしようかな……」
そう、マリーはアンドロイドであることを忘れたかの如く、当たり前の様にJKライフをエンジョイしています。
そして、いつの間にか、マリーと私はお互い名前を呼び捨てにする仲になってしまいました。
もちろん、名前呼びを誘ったのは、私からではありません。
――そこまで言うなら、マリーって呼び捨てでも良くってよ?
そんなことを言われても、私はマリーのことを呼び捨てで呼びたいだなんて、一言も言っていないし、今までだって呼び捨てしたいだなんて思ったことはありませんでした。
私は思いました。
マリーは、私に呼び捨てで呼んで欲しいんだなって。仲良くなりたいんだなって。
だけど、マリーの性格的に素直に言うことが出来ないから、あえて、私が思っている風に要求したのですね。
そう、マリーは、拗ねた様子で目線を下に頬を染めて「マリーって呼び捨てでも良くってよ?」と言ったのです。
そんな一発で、自分の欲求であることを読まれてしまうような、素直じゃない彼女のことを見て、私は、迂闊にも可愛いと思ってしまったのです。だから私は、素直に彼女の要望を受け入れてマリーと呼び捨てで呼びあっています。
きっと、みかんも笑って許してくれることでしょう。
それにマリーは、前に呪文サルベージを唱えて以来、封印されてしまったかの如く、呪文を唱えなくなりました。
ロボが呪文を唱えずに普通の生活をしているだけなんて、彼女の存在意義を疑問に思ったりもしますが。
まあ、私が気にしても仕方いことですけれどね。
――ズダダダダダッ!!
――ズサーッ!!
「おーい! あっかねーっ!!」
「ああ、美由宇ちゃん。どうしたの?」
「師匠は、どうしたにゃ?! 帰ってきたのにゃっ?!」
「いや、まだだよ。前にも言ったけれど、みかんのことは秘密だって言ってるじゃない。みかんが帰ってきたら、私から美由宇ちゃんに知らせるから毎日聞かなくても大丈夫。それから危ないから教室の中で爆走しないでね。」
美由宇とは、2、3年生と私と同じ特進クラスのSクラスになりました。
『師匠が戻ってきたら、クラスメイトになるのにゃー!』と、それは、もう寝る間も惜しんで猛勉強したようです。
そうそう、みかんに貰った手紙に書いてあった通り、美由宇は、みかんのことを忘れていませんでした。
みかんの呪文が効かなかった美由宇は、アンドロイド審査会の呪文ですら効かなかったようなのです。ある意味、彼女が最強なのかもしれません。
なので、今みかんの存在を知っているのは、マリー、美由宇、私の3人です。
美由宇には、『みかんは外国に留学していて、いつ帰ってくるかわからない。これは秘密のことだから、周りに言わないでね』と念押ししているのですが、彼女の辞書に『秘密』と言う文字は存在しないようです。これにはナポレオンもびっくりです。
「なーんか、あかねちゃん人気者だよねー。妬けちゃうなー」
「萌ちゃん、そんなこと無いよー。ただ絡まれてるだけだよー」
「ええーホントかなあ? さっきマリーちゃんにカラオケ誘われてたし、怪しいなあ……」
「ホントだってばっ!」
萌ちゃんは、あの出来事から、わかりやすく嫉妬するようになりました。
頬をぷくっと膨らませて怒る姿は可愛くて、私的には萌えポイントなのだけれど、私が他の女子と話すたびに機嫌が悪くなるので、ちょっぴり困っています。
それに、関係者の記憶が消されたのは、みかんの存在だけなので、前の保健室での出来事は、萌ちゃんの記憶からは消えていません。
それと……気のせいなのか、必要以上に萌ちゃんは私に顔を近づけてくることが多くなった気がします。
その度に萌ちゃんの爆乳が、私の腕や胸に、むぎゅっと押し付けられるので、理性が吹っ飛びそうになることもしばしばです。
萌ちゃんの計算なのかもしれないけれど、その時は、みかんの手紙を思い出して、歯を食いしばってグッと我慢しています。
私自身、腐女子の自覚は多分にあるのだけれど、百合気質もあるのかなあ……なんて思ったりもします。
まあ、このことは別の機会に話すこともあるかもしれませんね。
これからのことですが、マリー、美由宇、萌も揃って慶蘭義塾大学に進学することが決まっています。
だから、卒業とか余り実感が湧きません。まあ、それはそれで良いのですけれど、嬉しいのですけれど、問題がヒトツだけ。
慶蘭義塾大学は、慶応義塾女子高校と違って、共学なのです。
つまり、男が居るのです。
私の男嫌いは相変わらずなので、慶蘭義塾大学への進学を断念して、女子大に進もうか、とても真剣に本気で悩みました。
むしろ、今も悩んでいると言っても過言ではありません。それほどに嫌なのです。
でも、それこそ社会人になれば、嫌でも男と関わらなければならないし、学生のうちに免疫をつけておかないといけないかなって。
それに、慶蘭義塾の幼稚舎、初等部は、共学だったので、元に戻ったと思い込めば良いだけなのかもしれません。
……まあ、みかんが居なくなってから、今までの様子はこんな感じです。
さてさて、これから一限目の授業が始まります。
集中集中っ!
――はーい!
――みんな、ちょっと注目!
私たちの学校は基本的に朝の
だって、今日に限っては、早足でクラス担任が教室に入り、教壇に立ちました。
何事かと、みんなが先生に注目します。
もちろん私もです。
――突然ですが転校生を紹介します。
三年生になってから転校生?
学校の特性上、ハードルが高すぎて、元々転校生なんて入ってこないのですが、こんな時期に転校してくるなんて余程のことだと思います。
――入ってきなさい。
先生からの呼びかけに反応して、転校生が、ゆっくりと廊下から教室の中へと足を一歩踏み入れました。
先生があけた教室の扉は開いたままで、日の光が差し込んでいます。
逆光なので、顔が良く見えません。
先生は言いました。
――生まれてから今まで病気で入院していたそうで……
転校生は後ろを向いて扉を閉め、そして、前を向き……
ああっ……!
~Ende~
……=+=+=+=+=+……
《追伸》
親愛なる読者様へ
胡桃沢あかね です。
長々とお読みいただきありがとうございました。
言い忘れていたことがありましたので追伸で失礼します。
この物語は、今回で終わりますが、この後、作者からお話と、スピンオフ作品があるそうなので、もう少しお付き合いくださいね。
寂しいですが、私、胡桃沢あかねの登場も今回が最後になります。
それでは、皆さん、長い間お付き合い本当にありがとうございました。また、機会があればお会いしましょうね。
胡桃沢あかね 拝
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