第5話 罰ゲーム

 突然、背後に現れた みかんに驚くマリー。


「な、なんですのっ?!」


 そんな驚くマリーに、ニッコリと笑いかける みかん。一体、みかんは何を考えているのだ。みかんの訳の分からない行動に、正直、私も驚いている。


 そして、みかんは、ボールを投げるゼスチャーをマリーに見せた。


「あのさー……もっと身体全体を使ってみなよ。ほら、野球のピッチャーみたいにさ。右足に重心を置いて、左足上げて、それから後ろに重心かけて、右手もそれに合わせて……」


 ……え、何が始まった?

 少年野球教室のごとく、みかんはマリーにアドバイスを続けた。これ、いくらポンコツマリーでも怒るでしょ。


 だって、敵から訳の分からんピッチングについてレクチャーされるとか、マリーだってプライドってものがあるだろう。


「こ、こうですの……?」

「そうそう。いい感じいい感じ。てへぺろ」


「あ、ありがとうございますの……」


 言うこと聞くんかーい!

 お礼まで言うんかーい!


 ……待って?

 今って戦闘シーンじゃないの?


 マリーだって、おかしいおかしい。

 何、お礼を言っちゃってんのよ。


 みかんだって、なにレクチャーしてるのよ。自殺願望でもあるの?


 そもそも、みかんは防御型のロボットで、攻撃のことなんて知らないでしょ?


 だって今、マリーに教えていたのは、明らかにビームの出し方だと思うのだけれど……気のせいだと思いたい。


 マリーへのレクチャーが終わると、みかんは、さっきとは逆方向に元気よくジャンプして元の位置に戻った。


 ――ひゅん!


 おい。

 距離が、さっきよりもマリーに近くなってないか?


 わざわざ自分から不利な位置に戻るなんてどうかしているとしか思えない。まじ自殺願望あるでしょ?


 そんな私の気も知らず、みかんはマリーに向かってブンブンと大きく手を振った。


まりちゃーん! いいよー!」

「マリーですのっ!! じゃあいきますわっ!」


「よーし、どんとこーい! てへぺろ」


 庭で相撲の練習する親子か。


 マリーは、みかんに教えてもらった通り、ゆっくりと右足に重心を置いて、左足上げて、後ろに重心かけて、右手をバックスイングして、一気に右手を振り下ろす。


「「レイ ロンスモーッ! ですのーーーおっ!」」


 今度は、さっきとは違いマリーの右手の人差し指から、赤いビームが、勢い良く みかんに向けて発射された。


「そうそれ! うまいうまい!」


 呑気にパチパチと手を叩く みかん。お前はバカか。死にたいのか。


 確かに最初に比べると、格段に速くて強いビームが勢いよく発射されているようだった。


 見えてないけど。


 ――ビビビーーッ!!


 ……え、待って。ちょっと何?

 モスキート音が、カブトムシ音くらいになってない?


 音でけーよ!

 近隣住民が殴りかかってくるくらいには、辺りに大きな音が鳴り響いている。


 これ本気で冗談じゃなくビームの威力が、格段に増している!!


 やばいっ!!

 これ、絶対やばいヤツ!!


 ……と。

 みかんは、マリーのビームの発射と共に、不敵な笑みを浮かべ左の手のひらをビームに向けた。


「「れふれくすぃおーん!! てへぺろ」」


 みかんが呪文を唱える。

 すると赤いビームの光が、みかんの手のひらに一瞬にして吸い込まれ、そして、向かいのマリーへ向けてビームが跳ね返される。


 ――ドグアァァーーン!!


「「きゃあああーーっ!!」」


 身体を くの字に曲げて、悲鳴と共に後ろへ吹っ飛ばされるマリー。


 これは、マリーの発したビームが、みかんを介してマリー自身に跳ね返ったと言うことか。


 マリーは、自分で放ったビームをまともに喰らい異次元の暗闇に吸い込まれた。どんどんマリーの身体は小さくなって行き……挙句の果てに消えてしまった。


 ……って、それこそ大丈夫なの?

 マリー死んで無いよね?


「み、みかん……マリーちゃん大丈夫なの……?」

「へへ。だいじょうびだよ。あいつロボだし。それに急所は外しといたー! てへぺろ」


「いや、そう言うことじゃなくて、異空間に吹っ飛ばされちゃったら、戻ってこれないんじゃないの?」

「おっとーそうだった。そこまでは考えてなかったー! ……なんてね」


 みかんはペロッと舌を頬に出して、意地悪に笑う。こいつを敵に回したら、いくつ命があっても足りないな。


 さっきのみかんからマリーへのレクチャーも、彼女の放ったビームを跳ね返すことが前提にあったに違いない。


 ――あざといヤツだ。


 みかんは左手の人差し指を前に出して、クイクイッと前後に動かした。


 すると、マリーが、異空間に飲み込まれた時と同じ くの字の姿勢で、みかんの目の前にスーッと飛んで現れた。


 マリーは顔を下に向けたまま動かない。急所を外したとは言え、気絶してしまっているらしい。


 それはそうだ。

 自分で放ったとはいえ、あのフルパワーのビームをまともに食らったのだ。人間だったら死んでいる。ロボだって死んでいる。


 みかんは、マリーの顔を覗き込んだ。


「鞠ちゃーん起きて! バシバシッ!」


 そして みかんは、下を向いているマリーの両頬を、サンドバッグのように左拳、右拳で順番に思い切り殴った。グーである。パーではない。


 まったく、容赦ないな。


「……ハッ!」


 マリーは、みかんのパンチのお陰で正気が戻ったのか、顔を上げて目をパチクリと瞬きをした。


 そして、マリーとみかんの目がバチバチと合うや否や……マリーは、身を固くして恐れ、震えだした。


 みかんは、震えるマリーの頭を優しく撫でる。パーで。


「そんな怖がらなくてもいいよー。鞠ちゃんが何もしなかったら、僕も鞠ちゃんに危害は加えないよー」

「マリーですの! と言いますか私のことを騙しましたわね! ですの!」


 ぷんすこ顔のマリー。

 拗ねた顔も かわいいじゃねぇか。


 みかんは、あっけらかんと言い放った。


「そんなつもりは……あったかも。てへぺろ」

「!!」


 ……ひどい。

 まあ、マリーの方が先に手を出してきているし、みかんの正当防衛ではあるのだけれど、仕返しの仕方が悪どすぎる。


 みかんとしては、最初のへっぽこビームを見た時点で、勝負は決まっていたことはわかっていたに違いない。それに、最初のビームを見た時点で、呪文を使わなくても素手で何とかできただろう。


 鬼か。

 でも、みかんが、あえて? そうしなかったのは、マリーの圧倒的な実力差を見せつけて、今後、自分に向けて攻撃をしないように先手を打ったと言うところかな。


 ポンコツロボのくせに、一応、頭を使っているじゃない。


 みかんは、マリーの顔に自分の顔を近づけた。そして、マリーのアゴをそっと左手で上げ、うっとりとした目で囁いた。


「じゃあ、鞠が負けたから罰ゲーム。僕からの質問に答えてくれるかなーあ? てへぺろ」

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