第2章 転校生みかん

第1話 胡桃沢みかんでーす。

 ロボ……?

 なぜロボがココ、私の学校、教室にまでに来ているの?


 いやいやいや、ありえないでしょ!


 急すぎる。

 心の準備が全く出来ていない。


 どんな手を使って入学したのだろう。

 そもそも、この高校の転入試験は、入学試験の時よりも遥かに難しいはず。


 まさか、集団洗脳……?

 混乱している私を尻目に、クラスメイト達に向かって元気良く挨拶をするロボ。


「どもどもー。胡桃沢みかんでーす! いつも姉がお世話なってさんくーです。どぞどぞみなさんよろしくぴーす。てへぺろ」

「はい。胡桃沢みかんさんは、生まれてから今まで、ずっと入院していたそうで度重なる苦労の末、何とか通学出来るまでに回復したそうです。みんな仲良く助けてあげてくださいね」


 先生の言葉に、クラス中が歓迎ムードで盛り上がる。


『可愛い! お人形さんみたい!』

 ――そりゃそうだよ。ロボなんだから。


『目がキラキラしてガラスみたい!』

 ――まあそうだよね。ロボだからね。目もガラスみたいな素材使ってるのだろうし、キラキラもするよね。


『言葉遣いが個性的だね~。入院していたから人と話してないのかな? かわいい!』

 ――そうだね。高性能AIとは言っても、まだ出来立てで言葉に不自由だからね。


 前の席の萌ちゃんが、突然私の方に振り返る。


「あかねちゃんに妹いたんだ? 知らなかったよー。今日転校してくるなら教えてくれたら良いのに~」


 萌ちゃんは、頬をプクっと膨らませて拗ねていた。


 怒った顔も可愛いな。

 ……いや、私は何を考えているんだ。


「あ、うん。ごめんね……」


 だって仕方ないじゃない。私だって今の今まで知らなかったのだから。頭の中が真っ白だ。


 引きつった笑いを萌ちゃんに投げかけるのが、今出来る私の精一杯だった。いやホントに勘弁して欲しい。


 先生は、手を叩きながら私たちに向かってロボについて説明を続けた。


「はーい! みんな静かに! ちなみに彼女は入学テストで、胡桃沢あかねさんと全科目全て同じ点数で間違えたところも一緒。あかねさんと並んで学年トップでした。さすが双子ね」

「いえーい! てへぺろ」


 な……なんですって?!

 ロボだから、頭が良いのは何となく納得ができるけれど、私と全く同じ点数で、間違えたところも一緒ってどういうこと?


 入試の回答を盗んだとか?

 いくらロボとは言え、私の入学試験の時の回答を盗んで記憶するとか、いくら何でもそんな時間は無かったはず。


 それとも私の入試の時点で、回答を盗み見ていたとか?


 いや、当時ロボと私の接点は無かったはずだ。いくら博士がストーカーしたとしても、私の回答内容まではわからないはず。


 ――やっぱり集団洗脳……?


 有り得ない話では無い。

 だとしたら、このロボ間抜けそうな顔をしてやることが、まあまあエグい。これからも要注意だ。


 私の気も知らずに、更にクラスメイト達は盛り上がる。


『すごーい! さすが双子だね~』

『頭良いんだね~!』

『あかねちゃんと一緒なら運動もできるのかな』


 はあ、もうすっかり人気者だ。

 正直面白くはないけれど、こうなってしまったものは仕方がない。ロボに会ってから妥協がばかりだ。これは妥協と言うより諦めか。


「はーい。静かにしてー! みかんさん、もう帰りの時間だから今日は顔見せってことで、実際の授業は明日からね。席は一番後ろの……お姉さん、胡桃沢あかねさんの隣ね。」

「ほいほーい」


 ……え?

 いつの間に私の席の隣に机が現れたの?!


 ついさっきまで、私の隣に机なんて無かったよね?!


「よろしくね。お、ね、え、ちゃん! てへぺろ」


「…………」


 ロボは、私に向けてウィンクをして席に座る。


 こいつ絶対何かしたよね。って、後でキツく言わなきゃ。この調子で好き勝手やられたら大変なことになってしまう。


『きりーつ! 礼!』


 帰りの挨拶が終わり、先生から私に皆から回収した宿題を職員室まで持ってくるように指示される。そう、私はクラス委員だから、雑務もこなさなければならないのだ。


「あかねちゃーん! 僕も手伝うよー。てへぺろ」

「あ、ありがと」


 こういう時は、ロボも役に立つな。

 きっと力は有り余っているし、重いものも軽々と持てるのだろう。


 ロボだから。

 ロボだから。

 ロボなんだよな。はああ……


 大量にあったプリントを職員室まで運び終える。ロボが居なかったら、少なくとももう一往復しなければいけなかったかもしれない。これに関しては感謝したいところだ。


 けれど、感謝する前に、ロボには言いたいことがあった。


「ふんふふんふふふーん♪」


 職員室から教室に戻る途中、鼻歌まじりの能天気なロボに向かって、私は激しく問い詰めた。


「私の隣……あの席、呪文で増やしたでしょっ?!」

「ふふふーん……? うわー! ばれてるー! ばくしょー」

「ばくしょーじゃないわよ! 学校で呪文禁止っ!」

「はいはーい。りょうかいでーす」


 軽いなあ。

 本当に分かっているのかな……?


「ところでさ、どうやって学校に入学した訳? まさか集団洗脳?」

「洗脳なんてしてないよ~。そんな頻繁に洗脳したら、たくさんの矛盾が重なり合って世界が壊滅しちゃうってことくらいわからないのかなあ。あかねちゃんは愚かだなあ。てへぺろ」


「世界が破滅してしまうことがわかってるから聞いてるんじゃない! じゃあ、どんな手を使って学校に入学したの?」

「お母さんとお父さんに『あかねちゃん、学校いいなあ……』って、上目使いで寂し気に言ったら、すぐに手続きしてくれたよ! てへぺろ」


 こ、こいつ、なんて姑息な。

 呪文を使わないけれど、その代わり手段を選ばないってことか。


 私の両親も甘いよなあ。

 私自身にも甘いところあるから文句は言えないか。


「あ、そうそう。試験で私と同じ点数で同じ間違いをしたって、何をしたの?」

「あーうん。昨日の充電のときに、あかねちゃんの脳内を覗かせてもらったんだあ。てへぺろ」


「えっ?! なんてことしてくれてるのよ! って、ことはクローゼットのことも……?」

「あったりー! ぴんぽんぴんぽん!」

「ありえない!」


 そうか、朝に鍵付きのクローゼットを覗いていたのは偶然では無くて、みかんの中で私はと言うことか。私の秘密を博士に言わないように後で口止めしておかなくちゃ。


 私とロボが、第一校舎と第二校舎を繋ぐ一階の渡り廊下を歩いていると、向こうの裏庭に居る萌ちゃんを見つけた。萌ちゃんが三人組と向かい合って話している。……あれは先輩かな?


「あれ、萌ちゃんかな……?」

「んー? 萌ちゃんって誰?」

「ほら、私の前の席に座っていた女の子いたでしょ?」

「ああー……萌ちゃああん! てへぺろ」


 ロボが両手を口にあてて大声で叫んだ。

 こいつには羞恥心と言うものは無いのか。一緒にいる私の方が恥ずかしい。


「あ、あかねちゃん……みかんちゃん……」


 私たちに萌ちゃんが気づくと、他の三人は、どこかに去っていってしまった。何か三人組が舌打ちしているようにも見えたけれど気のせいかな。


 萌ちゃんは三人組が去ったことを確認して、私のところまで駆け寄った。


「あかねちゃん! 先生のところに行っていたの?」

「うん。ところで、萌ちゃん、あんな所で何をやっていたの?」

「……え? う、ううん。何でもない」

「そっか。」


「あれ? みかんちゃんは……?」


 ……ん?

 そう言えば、ついさっきまで隣にいたロボが消えていた。


 なんなんだあいつは……?

 自分から萌ちゃんを呼んでおいて居なくなるなんて勝手なヤツだ。


 ――このとき私は知らなかったんだ。

 ――博士とロボの企みを……


「あーはかせー? もしもーし! 僕の内蔵ディスクのデータを博士に送っているからわかってると思うけど、胡桃沢あかねの家に潜入できたよ。僕できる子! 誉めろ! てへぺろ」


『…………』


「あはは。うれしいさんくー……うん……うん……うんそれよりさー? いきなり遠隔操作でぶっこんでくるのやめてよー。あかねちゃん驚いてたよー。ばくしょー」


『…………』


「んー? あかねちゃん……? クソニートの博士じゃ一生付き合えないくらい完璧で、優しくて、綺麗な美少女女子高生だったよー! ばくしょー ……うあ! 大きな声出さないでよーばくしょー』


『…………』


「……ん? いやーそれはいくらなんでも出来ないよー……ええー……うん……うん。わかったよー。、僕は博士の下僕だからねえ。僕だけに。あはは! ……うん。やってみる。ばいばーい」


 ――ガチャ

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