第73話 16 限られた時間



 処置室のベッドの上でジュリアが目覚めると、少し驚いたような顔をしていたが、涼太の姿を見かけると、にこりと笑い、


「ここは何処? 私、何をしてたの?」


 と涼太に声を掛けながら上半身をゆっくりと起こした。


「うん、新しい薬ができてね、それを服用したら、寝ちゃったんだよ」


 ジュリアは、まさか、と言う顔をして頭を振って、試しにと思いベッドから立ち上がろうとしたが、長い間寝ていたせいか、足がぐらつき倒れそうになった。

その瞬間、あろうことか倒れまいと足が早い速度で何歩も出た。

そして、ジュリアは胸に手を当てて呟いた。


「まさか」


 心臓発作が起きない・・・。

入院していた頃のジュリアは、早い動きをしたなら間違いなく発作を起こしていた。


「言ったろ、治ったんだよ。行くよ」


「え、何処へ」


「一日でも長く生きて、ハーレーの後ろに乗ってドライブしたかったんだろ」


「いやだわぁ、どうしてそれを知ってるの?」


「そんな気がしてたんだ。ドライブに誘ったあの日からね。さぁ、準備して」


 ジュリアは、ベッドの横にそっと置かれていたヘルメットを見つけると、手を伸ばしてみる。


「まさか、本当なの? こんな日が来るなんて・・・」


 ジュリアがハーレーの後ろにまたがると、涼太はスロットルをゆっくりと絞る。


 そして、ハーレーはチャイナタウンを後にして出て行った。


 

 それを診療所の窓から見ていたマルセリーノは、


「涼太、24時間やぞ。この限られた24時間を一生分使うつもりで、二人だけのために作られた、この時間を楽しんでくるんやで」


 そう呟いた後、


「星への強制送還か、まぁ、しゃーないわな。地球、ワイ、この星、好きやったで」


 希望、それは生きるために絶対に忘れてはいけない言葉、例え、それが、ほんの僅かな限られた時間であっても。


 マルセリーノは、小さな翼を、そっと胸に当てる。

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