第42話 16 コードネームはリン



 マルセリーノは変装を始めた。

と言っても人形用のサングラスを掛けただけである。

それを見て彩香が喜ぶ。


「ぺぺちゃん、おもしろーい」


「そ、そうかなぁ。面白いかなぁ」


「あやかも、それ欲しい」


「これか? あかんわ、あやちゃんには小さすぎるわ。今度のお誕生日の時に買って来るから、今日は我慢してーな。ほな、行ってくるし」


「わかった、あやかお留守番してる。いってらっしゃい」


 道中、若しも見つかったら大変なことになる。

しかもサングラスを掛けたペンギンであるのだから尚更である。

ぺペンギンは、その辺のところを分かっていない。


 つまり、アホである。


 タッタリアの経営している私立保育園に着くまで人には見つからなかったのは幸いであった。

一度、見つかり掛けたが電光石火の速さで、近くの電信柱の影に隠れた。

そこへ通りかかった野良犬におしっこを掛けられた。

決して見つかってはいけない。

気配を消し続けねばならぬのだ。


 マルセリーノは電柱の影で、ただ立ち尽くすしか方法はなかった。


 今は、タッタリアの経営する保育園でシャワーを浴びている。


「然し、あの野良公、今度見つけたら、ただでは済まさへんからな」


 などと独り言を呟きながらシャワールームから出てきた。


「おう、タッタリア教授。例のもの用意できてる?」


「はい、ただ、その前に、やはりお身体の調子が悪いのでは?」


「何んでなん? 僕、元気やで」


「いえ、こちらに来られた時に、少々アンモニアの匂いがいたしましたので、肝障害でもあるのではないかと。統括教授? お酒は続けられているのですか?」


「アホか、幼児の前で酔っ払われへんやろ! 今、僕は、禁酒状態や」


「そうですか、では、あのアンモニアの匂いは一体?」


「うっ」

(犬に小便、ひっ掛けられたって、そんなん、よう言わんわ)


「それよりタッタリア、例のもん見せてくれへんか」


「はい、このケースの中です」


「よっしゃ、これで決行準備完了やな。ずばり彩香救出作戦、名付けて」


「名付けて?」


「・・・・・・・・・。」


「名付けて?」


「何んか、ええ名前ない?」


 ここが関西の劇場であれば、登場人物全員が転ける場面である。


「では、アメリカン・アットホーム・ドラマ作戦、と言うのは如何でしょうか? 略してA.A.D.作戦」


「長かったら略したらええ、ゆうもんちゃうやろ。それに、それ、何んか嘘っぽい家庭、みたいなイメージない?」


「では、ドッグ・ウリン・スプリンクラー作戦、は如何でしょうか?」


「ドッグ? プリン、やなくてウリン? それ日本語で、おしっこ? ていうことはズバリ。犬・おしっこ・浴びせる作戦! わーい、凄いわねー! って、アホか!」


「・・・・・・・・・。」


「お前、僕が野良犬におしっこかけられたん最初から想像して分かってたやろ? しかも、今回の作戦とは全然関係ないネーミングやん。そら、作戦遂行途中でそういう障害があったことは事実やけど、せやから言うて作戦の名前にする必要が何処にあるの? 却下や!」


「統括教授」


「何んや?」


「作戦名で悩んでいる場合では無いのでしょうか?」


「うっ、それも、そうや、なぁ」


「早速ではありますが、地球型エージェント・スーツ、ミラノ・コレクション・スーパーモデル・タイプ、コードネーム、リン、に入って調子をみてみてはいかがでしょうか?」


「それもそうやな。ほなら、地球型エージェント・スーツ、ミラノ・コレクション・スーパーモデル・タイプ、コードネーム、リン、に入ってみるわ」


 そう言いながらマルセリーノは大きなケースの蓋を開けて、地球型エージェント・スーツ、ミラノ・コレクション・スーパーモデル・タイプ、コードネーム、リン、の入り口の扉を開けようとしている。


「で、統括教授? 以前ご使用していた時なのですが、変な男がうじゃうじゃついてくる。しかも言語の感性が違いすぎる。この地球型エージェント・スーツ、ミラノ・コレクション・スーパーモデル・タイプ、コードネーム、リン、は嫌いだと言っていたように思いますが?」


「ええねん、今回はこの地球型エージェント・スーツ、ミラノ・コレクション・スーパーモデル・タイプ、コードネーム、リンが必要やねん」


「では、この地球型エージェント・・・」


「ちょっと待った! フルネームで言うのやめへん? 何んかしんどなってきたわ」


 そう言いながらマルセリーノは、地球型エージェント・・・。つまり、リン、の内部へと入って行った。


「どうですか?」


「そうね、やっぱり居心地は最高ね」

(あかん、ここの居心地は違和感や)


 とリンが答えた。

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